28・リッチ
「この街道・・・なんとかフルに向かってるのか」
この北アティセラでは珍しい赤髪の魔法使いと女戦士、そしてフルプレートで固めた戦士が幻魔の2人から離れて後をつけていた。
街道は1本道で多少の起伏などあるが今は非常に見渡しが良い為無理をして接近する必要は無かった。
「レティーフルよ兄さん」
「そうそうそれ、にしてもあいつら歩くの遅くねえか?これじゃ聞いていた町まで10日くらいかかるぞ」
「だが北は幻魔族の町へ続く道があるはず、もしかするとレティーフルではなく幻魔の町に帰るのかもしれない」
「げっ!冗談じゃねえ、なんとかあいつらの事分かれば良いんだが・・・ここは無理してでも接触するか」
「本気?何度も言うけど調べる必要も接触する必要もある?」
顔が完全に隠れた兜の奥からくぐもった声に魔法使いは顔をしかめた。
女戦士は接触する気になっている魔法使いに呆れながら質問をした、どうやら彼女にその気は無いらしい。
「ある!そうだろ?兄弟!」
魔法使いはバン!とフルプレートの男の背を思いっきり叩いた。
ちょっと本気に叩いて痛かったのか手をさすっている事を2人がスルーしたのは優しさか。
「・・・半分半分だ」
「は?半分?どう言う事だ?」
「最初は会っても良い、話をしても良いと思っていた」
「今は?」
魔法使いの言葉に沈黙、男戦士は道の先にいる小さく見える幻魔の2人を見ているのだろう。
何かためらっているかのように考えてからゆっくりとだがしっかりと魔法使いと女戦士に聞こえるように答えた。
「危険かもしれない、彼らは町に出たときから俺達が後をつけている事に気が付いている」
「うげえ・・・嘘だろう?」
「いや、本当だ。彼らが町に出てから俺達が町に出るまでの数分に進んだ距離に比べて俺達が町を出て後をつけ始めてから同じだけの数分彼らが進んだ距離はおよそ半分以下だ。」
ただその答えに魔法使いも女戦士も理解出来なかったようだ。
「ん?待て、それって気が付いている事になるのか?」
「私もそれで気づかれたと思わないわ・・・幻魔族って体が弱いんでしょ?だったら単に体力温存を考えてゆっくり歩いているだけだと思うけど」
「・・・勘か?」
魔法使いの言葉に男戦士は「ああ」と頷いた。
その言葉に魔法使いは「うへー」と片手で頭を抱えながら叫び天を仰いだ。
「1つ聞くが・・・最初の会っても良いも勘だよな?」
再び魔法使いの質問に男戦士は「ああ」とうなずくのを見て魔法使いは真面目な顔をして歩く速度を上げた。
「っよし!俺はお前の勘を信じてる、頑張って追いついてうまく話かけんぞ」
「ちょっと!?本気なの?・・・はぁ・・・」
魔法使いの覚悟に女戦士は呆れたのか諦めたのか深いため息を付きがっくりと肩を落とした。
「・・・・待て!」
「どうした!?」
しかし突然男戦士が叫んだ、がそれで歩くのを止めた訳ではなかった。
むしろ歩く速度は速くなり魔法使いの横を抜けていく。
2人も速度を上げ横に並び男戦士が顔を向けている方向、前を歩く幻魔ではなく草原に目を向けた。
離れていてよく分からないが何かの団体が幻魔の2人に向かって進んでいるのが見えた。
「なによあれ・・・もしかして盗賊?10・・・いや20?かなりいるみたいだけど・・・」
女戦士の予想に、しかし男戦士は首を横に振った。
「いや、あれが賊のたぐいならあんなゆっくり近づかない。逃げられないようにもっとすばやく強襲をしかける」
「そうよね、だとしたら・・・」
「魔物か?だが弱い魔物は最初から群れを作ってると言っても普通多くても5~6匹だ、あの数はありえないだろ」
「魔獣ならもっとありえないし・・・冒険者の団体さん?それにしては不気味な雰囲気をかもし出しているわね」
「・・・間違いなくあれは魔物だ」
「ふむ・・・ならチャンスだ、俺達で2人を助けて幻魔族とお近づきになろうぜ」
「はぁ!?・・・もう!仕方がないなぁ」
男戦士はそうつぶやくと魔法使いはニヤリと笑い男戦士と一緒に駆け出し女戦士はやはり深い深いため息をつき仕方なく2人を追いかけた。
ロインはスケルトン達に囲まれながらも剣をかわしながら1体ずつ確実に剣で頭を破壊するか『篝火』で倒していった。
しかしロインは少々後手にまわっていた。
「こいつらって不思議だよな~。目が無いのにどうやって見てるんだろ・・・千里視みたいなの使ってるのかな?火遁、篝火!あるいはコウモリみたいに音波出してるとか?それに頭は空っぽなのにどうやって物事考えてるんだろ?剣だけじゃなく盾もちゃんと使ってるしちゃんと考えてる・・・んだよなっと・・・そうじゃなきゃ頭をいくら破壊したって既に死んでるようなもんなんだから頭なんてなくても体だけで動いてるだろうし・・・火遁、篝火!・・・それにしても火遁1発で倒せるのもさすが火の精霊様、命を司る精霊と言われてるだけあって死霊に良く効く、火遁、篝火!」
この世界は2人の女神によって作られたと言われているがこの世界の生命を作ったのは女神ではない。
女神はこの世界と5体の精霊王を作り精霊王が眷属である精霊達とこの世界に生きる生命を作ったと言われていた。
地の精霊王は生物達の肉体を作った。
火の精霊王は肉体に命を与えた。
風の精霊王は命に魂を与えた。
水の精霊王は肉体と命と魂を1つに繋ぐ為の血を与えた。
そして氷の精霊王は生命に死を与えた。
それゆえ生命の摂理から外れた死霊にとって命の火は浄化の炎、弱点と言われている。
「まぁ生きてるこっちもそんな火で焼かれたら死ねるんだけどね・・・火遁、火矢!・・・ってリッチ!お前さっきから召喚しすぎ!全然スケルトン減らないじゃん!」
ロインは確かに1体1体確実にスケルトンを倒しているのだがその間後方にいるリッチは1番最初に使った攻撃魔法以外の攻撃魔法を使わず召喚魔法ばかりを使っていた。
初撃に範囲攻撃のファイアボールで3体のスケルトンを倒しリッチの魔法攻撃は他のスケルトンを盾にして回避したまでは良かった。
ところが次のファイアボールを放とうと思った瞬間リッチが何か命令をしたのか前で密集していた隊列から距離をとってロインの周りを囲み始めた。
スケルトンは明らかにファイアボールの範囲から外れるようにお互い距離をとりまた闇雲に攻撃してくるのではなく前後左右同時に攻撃したり、時には剣を振り上げて攻撃してくると思えば中断して後方に下がるなどフェイントを加えたりとその動きは魔物と言うより訓練された兵士の動きに思えるほどだった。
更に囲まれている為リッチには近づけず先ほども隙を突いて火力は落ちるが出の早い火矢で攻撃したのだがこちらの真似なのかスケルトンを盾にしてリッチに届く事はなかった。
その結果最初の20体近いスケルトンは倒したハズなのに今もなお増えてもいないが減ってもいなかった。
「魔物が戦略を立てて攻撃してくるなんて聞いた事ないんだけど・・・これってもしかして俺ピンチ?いやでも父さん動く気配なさそうだしこちらも戦い方変えるか?」
直接目を向ける事が出来ぬ為千里視でノイドを確認してみたが腕を組んでロインを見ているだけだった。
最初の予定通り後ろからついてきた者にも注意しているのだろうただ正直今の戦い方では最終的にロインのスタミナかマナのどちらかが先に切れるだろう。
ロインは剣を振りつつゆっくりと息を吐き呼吸を整えながらこれから取るべき作戦を考えた。