26・赤い髪の魔法使い
道具屋と武器屋はすぐに見つかった。
宿、ギルドと同じ大通りに並んでいた。
ギルドで依頼を受け仕事の準備をする、近くにあるのも道理だろう。
まず武器屋に入ったがしかし武器屋では刀を打つドワーフ、武器として作られた刀に関する情報は得られなかった。
「世界地図?そんな物この国の王様だって持っているかどうか怪しいですよ。アティセラ大陸全土でも厳しいんじゃないかな。うちが取り扱っているのも傭兵用にこの国、サーファン王国だけの地図ですし」
「そうですか・・・」
この町の道具屋には地図は無かった。
ただ悪い情報とは言え世界地図の入手はほぼ不可能だろう事は分かった。
それにこの国に関してはある程度分かっている以上この地の地図は不要だが世界地図が不可能ならせめてこの大陸全土の地図が欲しいところだ。
「では買っていただきたい品があるんだが見てもらえるだろうか」
「ええ、いいですよ」
「この2つ、火薬と小判と言われる金なんだが」
ノイドは木箱を開けて火薬が入った袋を、また別の袋から小判を1枚だけ出した。
店主は火薬には首を横に振ったが小判には興味を持ってくれたようだった。
「火薬は買取していないが金は可能だよ、ちょっと調べてもいいかい?」
「ええ、お願いします」
店主が調べてる間2人は店内で何かないか物色していた。
とは言えノイドは現時点で地図や情報以外必要としておらずロインが一般的な普通の道具、魔法道具を興味深く見ていた。
ランタン、ロープ、道具袋など旅の必需品から何か魔法効果がありそうな指輪、腕輪、首飾りと言ったアクセサリー類、薬草やポーション類を自作する為の材料や幻魔族の町でも見た事もないような謎の生物の骨や干物、いったい何に使うのか分からない巨大な鏡、変な形の壷、いかにも呪われていそうな姿、腕がいっぱい生えていたり目がいっぱいついてたり血まみれになったような悪魔みたいな像、人形などが複数並んでいる。
「道具というより装飾、置物?・・・こんな不気味な人形誰が買って飾るんだろ?本物の血・・・なわけないか」
「確認出来ましたよお客さん」
ロインが悪魔人形達とにらめっこしていると店主の声が店に響いた。
「重さや美術品としての価値を見るかぎりうちでは金貨10枚が限界ですかね」
「10枚か・・・(ゴーダン殿トト殿の目利きでは12~3、うまくいけば15枚は可能かもしれないと言っていたがこの辺りは人間とドワーフの差か)・・・ではそれで1枚買っていただけますか?
出来れば金貨2枚分は銀貨でお願いしたいのですが」
「はい大丈夫ですよ」
そう言って金貨銀貨を渡され確認して1つ頷きながら袋に入れる。
「確かに」
「毎度ありがとうございます」
「こちらこそありがとう・・・ロイン、行こうか」
「はい」
2人は店を出て空を見上げた。
日が沈む頃に宿に帰るつもりだが今はまだ昼を少し過ぎた程度、一番の目的である道具屋と武器屋の用事が終わってしまい残るは宿でも話した『見つけてもらう』だけだ。
「結局この町では刀ドワーフの情報も無かったし地図も大した物売ってなかったね。これから観光でもする?父さん」
町に入るときあれだけ人の目を気にしてたが好奇心が勝り今は観光で楽しみ周りを無視するつもりのようだ。
「そうだな、色々歩いてみようか」
「よし!行こうココ」
何処を観光するのかはロインとココに託されノイドは後ろからのんびりと付いていく。
もちろん黒ずくめの怪しげな姿にすれ違う人達に注目され、どっちが観光しているのかされているのか分からないが。
「幻魔族がこの町、このギルドに来ただぁぁぁ!?」
「他の方々に迷惑です!お静かに!」
「あ、すまない」
テーブルに何人かが囲んでどうやらお昼に起きた出来事を聞いてつい叫んでしまい受付嬢に叱られ叫んだ男は素直に頭を下げた。
歳は20前後で白い上下のシャツとズボンでその上にやや黄色がかった白のローブを羽織り先端には目玉、あるいは孔雀の羽を思わせる装飾がされた白銀の杖をその手に持った魔法使いらしい姿、ただしこの北アティセラでは珍しい燃えるような赤髪の男だ。
「兄さん、ただでさえ疲れて帰ってきてるんだからまずはゆっくり休ませてよ」
「・・・・・」
叫んだ男の連れか、1人は男の妹か同じ20前後の女で白いシャツに赤茶色のズボンと似た色のロングブーツで胸には鈍く光る銀色のブレストアーマーに額には緑のエメラルドが付いた鉢巻のようなサークレット。
腰に炎を思わせる装飾の鍔をした両刃の剣と背中には弓と矢筒と小型の円形盾を背負った戦士で彼女も珍しい赤髪をポニーテールにしていた。
声には出さず無言で女の言葉に頷いているのは30前後で非常に大きな体格をしている男で相当使い込んだのか黒ずみ輝きを失った灰色で傷だらけのフルプレートアーマー、ただ左腕だけは新しく新調したのか白銀色で小手と盾が1つになった変わった形状をしており右手と比べると大きく見える。
右手には斧と槍が一体化されたハルバードと呼ばれる槍斧、左腕には脱いだフルフェイスの兜を抱え、短く刈り上げた茶髪にその顔には古傷だろう3本の爪痕のような傷が斜めに走っているせいでかなりの強面、いかつい顔をしている。
また彼だけ他の2人と違い鎧のせいだろう異様に大きい契約の腕輪と傭兵の腕輪を右小手の上から着けていた。
「う、すまん」
「まあまあ落ち着け、席空いてるから此処にでも座れ」
「おう、ありがとう」
2人に謝る男にフォロー入れるべくギルドに最初からいた傭兵が隣の席を勧めた。
3人は薦められた隣のテーブルについて元からいた傭兵達に顔を向け魔法使いの男が自分を落ち着かせるように声を落として質問をした。
「それで?その2人組み?本当に幻魔族なのか?ここへ何しに来たんだ?」
「ああ、本物の黒髪の幻魔だ。頭が寂しくなった金持ちの商人の間で偽者の髪を被ってる奴らがいるがあれは・・・うん、悲しいほどすぐ分かるからな」
「火薬だったか?買ってほしいって話してたな」
「あとギルド登録の話になったんだが最終的に断ってたみたいだぞ」
魔法使いの質問に対して傭兵達の答えに魔法使いは少し驚いた。
「へー登録しなかったのか・・・まぁ昔に色々あったから仕方ねーか。幻魔の町ってこの辺りにあるのかい?」
「ここよりずっと東にある・・・2つ町があると聞いたな。ただ山や谷とか森があって一度北から大きく迂回しないと行けねーんだ」
すると別の傭兵達が指摘する。
「いや、街道を少し北に進んだ東側の森に戦争で利用された道があったはずだぞ」
「無理だ。16年経ってるうえ全く使ってないんだ、あんなものとっくに森に飲み込まれてるだろう」
「俺も3年ほど前それ見た事あるが確かに痕跡はあったがもう無理だぞあれは」
しかし傭兵達の答えを魔法使いは既に聞いていなかった。
そしてこの魔法使いが何を考えているのか他の2人は何となく分かっていた。
「北アティセラの幻魔か・・・」
「兄さん、もしかしてその2人に接触するつもり?」
「ん~さて、どうすっかな~」
「ユー兄が言ってたでしょ、16年前の戦争で全て終わったって。変な事に首突っ込むのはやめようよ」
「・・・俺は・・・あ!いや、俺もやめた方が・・・」
フルプレートの大男が何かを言おうとしたが女に見つめられ目を逸らしながら賛同したが『それ』に気が付いた魔法使いはニヤリと笑いながら立ち上がり傭兵達にお礼を言ってから2人を連れてギルドの外に出た。
女が何も言わずジト目で大男を見上げ大男はそんな女に一言「ごめん」と謝った。
「その幻魔、ちょっと調べてみようぜ」
「随分と綺麗に使ってくれたな。他の客もこれくらい丁寧に使ってくれりゃ有難いんだが」
翌朝朝食をとり宿を出る際には主人から高評価を、看板娘と女将からはココになでなでを頂いた2人は宿を後にした。
この町でやるべき事は全て終わった2人は次の町に行くべく町門に向かっていた。
まだ早朝にもかかわらず既に町のお店の類は開店準備を進めており,、道を出歩く人の数もまだ少ないもののこの時点でテノアの町のピーク時と同じくらいの人数が活動していた。
ただ人の数が少ない事と昨日のうちに幻魔の噂が町中に広がり既に知っていいるのだろう、多くの視線を感じなくなったロインは早朝の為観光こそ出来なかったがのんびりと門に向かって歩く事が出来た。
門が見える所まで来ると既に傭兵達が何人か並んでいたが昨日と違いすぐに門をくぐれそうだった。
実際に門までたどり着いた時には傭兵達は門の向こう側に消え門兵がすぐに声をかけてきた。
「おはようございます」
「おはようございます、契約の腕輪を返したいのですが」
「分かりました、では腕を出してください」
昨日の門兵ではなかったが2人が腕を差し出し腕輪を外すと2人の目の前に昨日と同じ血文字の契約が宙に浮んだ後ボッと燃えるような音を出して血文字は掻き消え契約は解除された。
「はい、これで大丈夫ですよ。またこの町にいらしてください」
「ん?お金は良いのですか?」
「ええ、頂くのは町に入る時だけですから」
「そうでしたか、ありがとう」
2人と1匹は門をくぐり次の行き先を街道の北へと進めた。