22・契約の腕輪
道具袋を渡すと門兵達は門の傍に置いてあるテーブル上に中から出した物を置いて調べていく。
また2人が持っていた刀やクナイも置いておく。
後ろに並んでいた者達も興味があるのか覗き込んでいた。
「随分と少ないが・・・この木箱は?」
「火薬ですよ、もし売れるなら売ろうと思いまして」
「火薬か・・・ない事はないがこの辺りでは一般的にあまり取引されてないから難しいかもしれないな」
「そうでしたか」
箱を開けて更に袋に入った火薬を確認した門兵が考えながら呟いた。
「あ・・・傭兵ギルドならもしかしたら買い取ってくれるかもしれないな。あと王都にある『シルケイト商会』って所が結構大きな店でそこなら色々な商品を扱っているからもしかすると買い取ってくれるかもしれないよ」
「王都にあるシルケイト商会・・・ですか、情報ありがとうございます」
「これは・・・ナイフかな?」
別の門兵がクナイを持って調べている。
「はい、ナイフ、投げナイフみたいな物でしょうか」
「なるほど」
他の2人も調べているが小判はもちろん刀は本当に骨董品、美術品や芸術品の類と思ったらしいのか1度手に取っただけで特に調べるような事はしなかった。
「一番の問題は火薬か・・・失礼、まずこの町に入るのに2人分で白銅貨2枚必要です。それと御二人には申し訳ないが火薬はやはり危険ですのでこのままでは持って入る事は出来ません」
「持って入るにはどうすれば?」
「ちょっと待っててくれ」
傭兵ギルドでの買取、王都でのお店で売買の可能性があるのなら何か特別な方法で持って町に入る事は出来るだろう。
門兵が1人門にある小さな扉をくぐり待ってる間火薬を除く荷物を返してもらっていると先ほどの門兵が手に2つの腕輪を持って出てきた。
「幻魔族の御二人ならご存知と思うが契約魔法を受けてもらいます。ただわれ等は魔法が使えない、代わりに契約魔法が込められたこの『契約の腕輪』で契約してください」
契約魔法・・・信仰系深淵魔法には『血の契約』と呼ばれる契約魔法が存在しこれは腕輪に魔法を込めた物だ。
この魔法は書面による契約やお互いの口約束を破らせぬようにする魔法で、もし約束を破れば死ぬ事は無いが五感のうち視覚、聴覚、味覚、嗅覚の4つを失ってしまう、簡単に言えば呪いの契約である。
しかも契約魔法を使った側、使われた側関係なくあくまで契約、約束を破った方に必ず呪いがかかるうえ一度呪いが発動すればこの呪いを解く方法は信仰系魔法にも現時点では無い為重要な取引ごとは勿論、傭兵ギルドでも傭兵、冒険者同士による荒事、事件を防ぐ為使われており実際今並んでいる傭兵達の手首にこれとよく似た腕輪がはめられていた。
昔から現在まで傭兵ギルドを国が運営しているのは魔法士によるこの契約魔法がある為安全面を考えられての事だった。
「腕輪は御二人につけてもらいます、ただ申し訳ないが使用するのに白銅貨5枚、御二人で銀貨1枚頂きます。それともう1つ、武器を所持されていますし御二人は魔法も使えますので契約内容は『火薬は町で売買での取引、取引の為の確認以外の使用は禁ずる。また街中での武具、魔法による戦闘行為の禁止』です。契約期間は『この町を出る際この腕輪をこちらに返すまで』です。どうされますか?」
「問題ありません、契約をお願いします」
「分かりました、ではこの腕輪を」
ノイドは白銅貨2枚と銀貨1枚渡し腕輪を1つづつ受け取りノイドとロインは左手首に腕輪をはめる。
あとは契約だけなので門兵3人で町に入る者たちを再び検査し始めた。
「では契約しますので手を出してください」
門兵は魔法が使えないと言っていたが魔法が込められた道具の使用にマナの必要が無い。
腕輪が光り始め2人は手首にチクリとした痛みを感じた、魔法が発動しおそらく腕輪に組み込まれた針だろうか血を少し取られたらしい。
ノイドとロインの目の前に先ほどの門兵が言った契約内容が血文字のように宙に浮かぶ。
2人がその契約内容を確認し承諾をする血文字に触れると腕輪に血文字が吸い込まれ腕輪の光は消えた。
「はい、契約完了です。町から出る際に門兵に腕輪を出してください。ただ腕輪を返還せず町から離れますと呪いが発動してしまいますので十分に気をつけてください」
「分かりました。それと1つお聞ききしたい事があるのですが」
「何です?」
「犬・・・ではありませんが動物も一緒に泊まる事が出来る宿があると思うのですがどこかご存知ですか?」
「ああ~なるほど」
門兵はココを見てうなずいた。
「1軒だけ知っています。『犬の牙』と言う宿屋が犬を連れた冒険者がよく泊まる宿らしいですよ。
ただ狐は初めて見るのでもしかすると・・・宿の事なら火薬を売りにギルドへ行かれるのでしたらギルドで教えてもらえるよ」
「そうですか、色々ありがとうございます」
「どうぞ観光をお楽しみください」
ノイド達は門をくぐると2人の目に賑やかな町並みが入った。
入ってすぐの左右には小さな小屋のような建物が建っていた、腕輪はそこからとってきたのだろう。
町の建築物はテノアの町と同じように木の建物ではなくもほとんど石やレンガを使った建物ばかり、
しかし道を行きかう人々の数はテノアの10倍どころか20倍近くいるだろうか。
それに聞いたとおりこの大陸の人間族は髪の色が金色か茶色ばかりで2人のような黒髪の者は1人もいなかった。
「凄い・・・異国の地に来たみたいだ・・・」
「確かにな(もっとも『みたい』ではなく15年暮らしたとは言え実際にこのアティセラ大陸は異国の地なんだが)」
ロインの感嘆の声にノイドは頷いた。
建物のつくりは大きく変わらないが服装や髪型などはテノアの町の人々と比べると艶やかに見える。
だからこそ頭から足元まで2人の黒ずくめの姿はこの町に不釣合いで異質だった。
実際2人に気が付いた町の人々は若干驚きの顔で見つめ返してきた。
「うわぁー・・・これはきついかも・・・」
「だから一々気にするな。行くぞ、探すのは『武器屋、道具屋、傭兵ギルド、宿屋』の4つ」
「分かった・・・分かったけど、これわざと目立ってるんだよね?目立って良いんだよね?」
「ああ、問題ない。さっさと探すぞ・・・まずはやはりギルドにすべきか・・・」
「・・・本当に大丈夫なのかなぁ・・・」
奇妙な2人と1匹の町の探索は始まった。