21・人間族の町カザカルス
その後ロインたちは森を出て無事街道に出た。
そこから2時間ほど北西に歩いただろうか、最初の人間族の町カザカルスが見えてきた。
更に近づくとその辺りからかちらほらとカザカルスを目指す人、町から出て行く人の姿が見え始めた。
まだ壁の外なので町の規模がどれくらいなのか分からないが見える壁はテノアより倍近く、壁の上には外からでも分かるほど複数の衛兵が魔獣や魔物に対してだろう警戒の目を光らせていた。
ただ門前で町に入る為に待っている人々に近づくたび、町から出て別の町に行く人々にすれ違うたびロイン達を少し驚いた目で見ていた。
やはり幻魔族の証である黒髪に加え忍び装束といういでたち、紺色とは言えほぼ頭から足元までほぼ黒ずくめだ目立たないわけがない。
おまけに戦争は確かに終わったが戦後お互いにあまり深く干渉していない。
ノイドの知る限り15年間幻魔の町に人間が来た事はあるにはあるが北のサザイラの町に年に2~3度商人が来る程度で人間の町に幻魔が来る事もかなり珍しいだろう。
警備にあたる門兵に止められ門の入り口で並んでいるのは20人程だろうか、ほとんどが武器と防具で身を固めた傭兵だが何人か武具を身に着けていない一般の町人らしき人もいたがそんな人たちは2~3人の傭兵の護衛を付けて来ている。
並んでいる列の後ろに2人は並ぶと門を見上げた。
門は観音開きで高さは4メートルくらいだろうか、横幅は1枚で5メートルほどで門はしっかりと閉じられていた。
しかしよく見ると門の下側に小さな扉が1つ、計2つの扉が付いており向かって右側の小さい扉から入り、左側から町の外へ出ている。
門の近くにいる者は1人1人と入っていくのだが後ろに並んでいる者たち、さすがにすぐ目の前にいるチームは沈黙していたがある程度離れたグループはやはり2人に目を向けグループ内で何やら話をしている。
ノイドは気にしていないのだがロインは人間族の町は初めての事、人間達が自分達にどんな風に思っているのか気になっていた。
「なんだろ?すごい見られてるんだけど・・・どう考えてもあれ俺達の話してるんだけど・・・父さん、千里聴使って良い?」
「いちいち気にする事もない、勝手に言わせておけ。それに町に入れば全員が幻魔であるこっちを話題にするんだ、まさか町の人間全員の会話を全部聞くつもりか?」
「それは・・・て言うかさ、ここまで目立ったら忍び装束着てきたのって意味ある?失敗じゃないのこれ?」
「これはあえて目立たせている」
「え?目立たせている?何で?」
ロインは目をパチクリさせた。
そもそも忍者は隠密、忍び装束は動きやすくかつ闇に紛れて行動を起こす為、そのはず。
だからこそこの町に来る時も街道を使わず人がいない森や山を通って来たのに何故わざわざ目立つのか、勿論鍛錬もあったから街道を使わなかったのも分かっているが・・・。
「それに関してはあとで話そう、良い宿があれば先に部屋をとっても良いしな」
「・・・分かったよ・・・でも気になるな~」
2人の後ろにも人が並び初めロインは少々居心地の悪さを感じていたが僅かに聞こえてくる会話に若干ほっとしていた。
並んでいるのが傭兵が多いからだろう『なぜ幻魔族がこの町に?』と言うより何故刀剣を所持しているのかどうしてチェーンメイルを着けて杖やローブなど身に着けていないのか、どうやら幻魔族そのものよりも魔法に長けた種族がなぜ魔法使いらしい装備ではないのか気になっているようだ。
5分ほど過ぎただろうか前に並んでいた者達もほとんどが町の中に消えた。
そんな時後ろに並んでいる冒険者の中で問題が起きたのか少し困ったような声が聞こえてきた。
「おい、どうしたんだよ?こら!暴れるな!」
「大丈夫か?紐を離すなよ。そっちじゃない!これから町に入るんだよ!ちゃんと大人しくしてろ!」
戦士風の2人組み傭兵が何故かソワソワ落ち着きが無くその場から逃げようとしている犬を紐で繋ぎなんとか必死で逃げないように捕まえていた。
そんな2人を並んでいる者たちが何事かと見つめていた。
チームを組んだ傭兵、冒険者は基本前衛である戦士と後衛である魔法使いが組む事が好まれるが必ずしも組めるわけではない。
特に人間族が魔法使いの資質を持つ者は1割以下と言われており、その中で才能があれば大概の者は信仰系魔法の契約のチャンスとばかりに魔法使いではなく国家に仕える魔法士を目指すものは多い。
当然傭兵は戦士ばかり溢れてしまい魔法使いをチームにと望んでもそう簡単には見つからない。
そして戦士だけのチームが増えるのだがそれでもある程度腕が立つならば少数精鋭として問題なく魔物魔獣退治、護衛などの仕事は可能だった。
しかし自身を過大評価しているだけで全員が全員腕が立つわけではないし、また前衛という同じ立場同じ立ち位置にいる皆が皆そう簡単に気が合うとは限らない、その結果1人ぼっちの傭兵で収まるのだが。
そこで1人でも腕が立つ立たないと関係なく傭兵達に利用されているのが犬、猟犬だ。
勿論まともに戦わせるとなれば戦力的に魔獣、魔物に遥かに劣るが優れた嗅覚を中心に動物的、野生的感覚は人間のそれを遥かに凌駕している。
移動中敵が何処にいるのか探索に、休んでいる時突然の襲撃に対する警戒に犬達は非常に役に立った。
そのおかげで1人、あるいは2人と少数の冒険者は犬を連れている者が多いのだが今そんな犬を連れた冒険者がトラブルに遭っていた。
「あの犬、大丈夫かな?なにか必死に逃げようとしているような気がするけど・・・」
「・・・・・」
ふとノイドは昔、里の襲撃時の事を思い出していた。
逃げている最中獣達は攻撃を止め近づこうともしなかった事があった。
おそらくすぐ近くにいた九尾の狐を恐れて。
ノイドはココを一度見た後ロインに顔を近づけた。
「ロイン、あの犬は多分ココの力に気が付いている」
「ココに?」
「ああ・・・出来るか分からないが力を抑えるか、気配を消すかココに頼んでみてくれ」
「分かった」
ロインがしゃがんでココの首に抱きつき小声で呟く。
「ココ、あの犬はココを怖がってるみたいなんだ。影響を与えないように力や気配を消したり出来るかい?」
ココが犬に目を向ける、力を抑えたのかノイドがココから感じる気配が希薄になり暫くして犬は大人しくなり2人組みの冒険者も落ち着きを取り戻した。
(もう驚くのも馬鹿らしくなってくるな・・・それよりちょうど良い、もし門兵に聞けなければ町に入った後犬を連れたあの2人組みに話を聞いても良いかもしれん)
それから順番はすぐに回ってきた。
「カザッ!?・・・う、んん!・・・失礼、カザカルスの町へようこそ。この町には何用で?」
4人いる門兵に近づくと彼らから見ても幻魔族は珍しいのだろう、代表で1人話しかけてきたのだが
緊張したのか突然上ずった甲高い声が出てしまい喉を整えてから言い直した。
「旅をしていて観光と宿をかねてこの町に。あといくつか買いたい物と売りたい物があるので道具屋などを回ろうかと思っています」
「観光・・・ではお連れの方は剣を所持されているが傭兵などではないんだね?」
「ええ、傭兵ではありません」
「証明になるものはないという事か・・・申し訳ないが手荷物を調べても?」
「ええ、どうぞ」