15・忍者への依頼
翌朝レネに起こされたロインはココと一緒に1階に下りて部屋に入るとマローネを除く全員が揃っていた。
ただ部屋内の雰囲気は若干暗く皆少し寂しそうな、悲しそうな顔をしていた。
その中ノイドは最近着る事のなかった忍び装束に身を包み背中には初めて見る刀、腰には普段持つ刀と脇差を身に付けていた。
いつもの修行、魔獣魔物狩りとは明らかに違う雰囲気、空気にロインは少し鳥肌が立った。
「おはよう・・・で、これは一体・・・」
「ロイン、大事な話がある。暫くはそこに座って何も言わず聞いてほしい」
「あ、うん」
言葉に従いロインが座るとノイドはその横に立ち静かに跪いた。
「ロイン様、数々のご無礼お許しください」
「は?と、父さん何を!?」
「まずはロイン様、あなたは私とレネの本当の子供ではありません」
「!!!」
「私の本当の名前は岸幻十朗。あなたの本当の名前は服部才蔵。四代目半蔵様、冬月様のご子息にして五代目半蔵様になられるお方です」
15年前何が起こったのか、ノイドは淡々と語った。
ロインも今までとは違う、真剣に語る父の言葉を黙って聞いていた。
自分たちの本当の故郷である火乃元国、忍びの里の事。
ロインの実の父半蔵、実の母冬月の事
獣の襲撃により里を捨て逃げてきた事。
その時九尾に狐ココに出会いこのアティセラ大陸に飛ばされてきた事。
ペンダー、アイル、レネに救われた事。
レネと結婚しロインを二人の子として育ててきた事。
当然ロインは幻魔族ではなく人間族と幻魔族のハーフではなく完全な人間である事。
「あーそれで・・・どおりで左手の紋様が他の人と違うと思ったよ・・・」
「才蔵様」
「・・・父さん」
「本来我ら忍者は12歳で元服、しかし母さん達との約束で15歳まで待ちました」
「・・・・・」
「私は今日、町を出て里を探す為の旅に出ます」
「うん・・・は?はぁぁぁ?」
「期限は1年、1年以内に必ず此処へ帰ってきます。それと・・・才蔵様、あなたが今まで通り幻魔族として此処に残り賢者となった母さん、レネと一緒にこの町を守るか、あるいは五代目半蔵様として里を探す、一度帰る為に私とご一緒されるかご自分の意思でお決めください。どちらを選ぼうとも私は才蔵様の意思を尊重いたします」
ノイドは深々と頭を下げた。
ロインはノイド達と本当の親子ではなかった。
幻魔族ではなく人間族だったという事実を知ったが不思議と思ったより動揺する事はなかった。
他の幻魔と比べて異常に高い身体能力。
まるで違う、光ってもいない左手の紋様の加えて紋様自体を見せた事がない父。
もしかすると子供時代からうすうす判っていた、覚悟していたのかもしれない。
が、さすがに『今日旅に出ます、行く?行かない?』と言う急な返事に迷いが生じていた。
父を見てその後母を見て、しかし必死に耐えようとしているレネの姿に答えはすぐに出た。
「母さん、それにお爺ちゃん、お婆ちゃん、俺父さんと一緒に行くよ」
「「「!!!!」」」
「た・だ・し!勘違いしてほしくないけど俺は別にその忍びの里?なんてどうでも良いからね。俺が行くのは1年と言う期限、これを守らせる為、もし父さんがその里のために命に関わるような危険な事しようものなら俺は父さん殴ってでもつれて帰るから」
「ロイン・・・」
「そりゃーまぁ・・・生みの父親と母親には興味が無いわけじゃないけど・・・今の俺の家族は父さんに母さんにお爺ちゃんにお婆ちゃんにマローネにココだから、五代目半蔵?父さんには悪いけどそんなの継ぐ気はないよ」
「ああんロイン!なんて良い子なの~!」
ロインの決めた事にレネは目を大きく開き驚いたものの出した答えに少し涙を浮かべながらも嬉しそうに、アイルは嬉しさのあまりロインに抱きつきキスの嵐をお見舞い・・・しようとしたが間に入った神獣様の華麗なガードに見事に止められた。
ノイドは静かに立ち上がると壁際にあった袋を手に取るとそれをロインに差し出した。
その顔は頭に仕える配下の顔ではなくいつもの父ノイドになっていた。
「そうか・・・それがお前の出した答えか。ロイン着替えだ、これを持って準備してこい」
「うん!待ってて!」
ロインは部屋を飛び出すとココも付いていく。
ほんの数秒の沈黙後ノイドはレネの前まで歩いていくとレネは立ち上がりノイドを抱きしめる。
ノイドもそれに答えるようにレネを抱きしめ、レネを慰めるようにゆっくりとレネの頭を撫で続けた。
ペンダーもアイルもそんな二人を優しく見守る。
「・・・すまないレネ」
「ううん、あの子が決めた事だから」
「ロインはあんな事言っていたが1年以内、必ず帰ってくる」
「はい」
「もちろんロインも無事連れて帰ってくる」
「はい」
「賢者としてこの町の事色々大変だろうがあまり無理しないようにな」
「はい」
「マローネ・・・いや、母上殿、マローネの事よろしくお願いします」
「ええ!まかせて!」
レネから離れマローネの事を義母にお願いした。
どうせアイルの事、『マローネの事なら私に任せて』なんて先に言われるだろうとノイドはあえてアイルに頼んだ。
子供に関してなら彼女の右に出るものはいない、安心して任せられるだろう。
目をキラキラさせてガッツポーズをとって返事するアイルに暗い雰囲気は吹き飛びペンダーもレネも笑顔になった。
ただペンダーの発した言葉で一瞬にして冷たい空気が流れた。
「ノイド、1つ君にお願いがあるんだ・・・『忍者』である君に」
「「!!!」」
「父上殿!?」
忍者に仕事を依頼する、それが何を意味しているのかこの部屋にいる皆は十分に知っている。
もちろんそれだけではない事も。
「違う違う!殺しとか物騒な事じゃないよ。僕がお願いしたいのはもし南アティセラに行く事があったら1つ調べてほしい、確認してほしい事があるんだ」
「と言いますと?」
「半年前に大賢者の代理だったフィアナ=サザイラ様が亡くなった事は覚えているよね」
「確かサザイラの、北の町の賢者であるゼイオン殿の祖母に当たられる方でしたね」
「そう、そのフィアナ様が大賢者になった僕にも知っておく必要があると教えてくれた事があるんだ」
「・・・・・」
「16年前、人間と幻魔の戦争を終わらせた1人である『天使』、その天使が3年前くらいに南アティセラにある幻魔の町の賢者になったそうだ」
「賢者に?天使の正体は幻魔族の方だったんですか?」
「いや、僕も聞きなおしたけれどフィアナ様は『あの方は本物の天使』だと言っていた・・・言ってはいたんだが・・・」
「少しまとめましょうか・・・確か16年前、ゼイオン殿の父であり当時の大賢者4人のうちの1人ニード=サザイラ殿が何者かに操られ幻魔と人間の戦争を引き起こした。その何者か、『第三者』は悪魔を使って戦場にいた幻魔も人間もほぼ壊滅させた。そんな第三者と関わる、おそらくその第三者を倒したであろう天使によって幻魔族と人間族の戦争は終わった。しかし天使は現在南アティセラにある幻魔の町の賢者になった・・・何故か天界、あるいは神界と言われる様な天使の住む世界に帰らずかつて第三者がおこなったであろう人体実験があった場所で」
「「!!!」」
「なるほど、その天使こそが実は第三者本人である可能性があるかもしれない。確かにその天使が『本物の天使』なら大賢者さえも操れる力を持っているでしょうね。更に大賢者の1人で当時も現在も幻魔族の最高指導者であるテイザー=フェイオス殿。表向きは天使の監視と称しテイザー殿も南アティセラにいるがその実、現在彼が操られている可能性もある・・・そう考えてるのでしょう?父上殿は」
「それは・・・」
「まぁ天使が悪魔を操れるのかどうかは分かりませんし本当に操っていた場合なぜ16年間何もせず沈黙しているのか不明ですが。・・・分かりました、私の役目はその天使とやらが実際に何者なのか調べるのですね」
「・・・そうなる・・・かな。ただ正直『何者か』そのものよりも今ある『平穏』を守ってくれる存在なのかどうかを君の目で見極めてほしいんだ。100年近くも争って、僕の父も賢者であったが為にろくに出来もしない指揮官になって戦死して、やっと手に入れた平和が実は嘘でしたなんて嫌だからね」
「では故郷に戻る方法の探索と合わせてその天使の事も調べてみましょう。16年前の戦争ならサーファン王国が深く関わっていますし運が良ければ南にいかなくても何かしらの情報も得られるでしょう」
「すまないけどよろしく頼むよ。もちろん命に関わるような無理だけはしないでくれよ」
「はい」
「本当に無理はしないでね」
「ああ、約束しよう」
レネの心配そうな顔に微笑んで答えたノイドに安心したのかレネも微笑んだ。
その時扉が開きロインが戻ってきた。
ノイドが着ている物とほぼ同じ紺色の忍び装束だが首の後ろにフードが付いていた。
その下には帷子、首には顔が十分隠せそうな大きい黒いマフラー、
腰には左側に木刀、右には新しいベルトに挟んだ5本のクナイ、
手は見た目はそれほど変わらない指を出した黒い革グローブで足は靴ではなくノイドと同じ初めてであろう草鞋を履いていた。
その姿はノイドと同じ忍者と言われるいでたちだった。
ロインを見た3人は先ほどの暗い雰囲気を吹き飛ばすほど歓喜した。
「きゃーロイン!すっごく似合ってるわ!」
「うんうん、良いじゃないか。これなら怪しすぎてちょっかいを出そうとする奴なんていないだろうね」
「もうあなた!それ全然褒めてないから!」
「そうよお父さん!。ロイン、服のサイズちゃんと合ってる?ノイドの服に似せて作ったんだけど・・・」
「うん合ってるよ、それに動きやすいし」
「そう?良かった~」
「ロイン」
ノイドは腰から外した刀をロインに差し出した。
「その木刀はもういらん、置いていけ。代わりにこれを使え、ゴーダン殿にも手伝ってもらって手入れは済ましてある」
「使えって・・・良いの?父さんは?」
「私はこれを使う。脇差もあるしな」
そう言って背中の刀を指差した。
「うん・・・じゃー遠慮なく」
木刀を外し受け取った刀を腰に差した。
「おー・・・なんか見た目の割りに結構重いんだね」
「真剣なんだ、木刀と比べるな」
「う、うん」
「さて・・・もう1つ渡すものがあるんだが・・・」
「まだあるの?」
「ああ、まずは行こうか、ゴーダン殿の所へ」