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忍者と狐to悪魔と竜  作者: 風人雷人
第一部 忍者見習いが目指すは忍者か?魔法使いか?
13/114

12・本物と偽者

・・・・・・。


・・・・・・。


・・・・・・。


・・・・・・。


・・・闇の中で赤ん坊の泣き声が聞こえた。


・・・赤ん坊と神獣を抱いて傷つき倒れた男の姿が見えた。


男は感謝の言葉を口にしながら何故か土下座した。


男はシチューをうまいと言ってくれた。


男は剣でデュラハンと互角に渡り合った。


男は今朝この1ヶ月一度も見せたことのない、初めて笑顔を見せてくれた、そして嬉しそうな声で「行ってきます」と言った。





『ノイド・・・助けて』




―GUGYAAAAAAAAAAAA!!!!!!!―


ふわっと体が宙に浮いて何かの叫び声を聞いた、少なくともこの叫びは自分ではないとレネは思った。

涙のせいでやはり何も見えないがすぐ近くで聞こえる声が誰だか教えてくれた。

ただその声は若干棒読みのような、感情が見えないしゃべり方だった。


「私の恩人に随分と好き勝手やってくれたなでかいトカゲ」


ノイドはレネを抱きかかえその場で暴れるドレイクを冷たく見つめる。

ドレイクは息を荒くし左目だけでノイドを見た、反対側の右目には深々とクナイが突き刺さり潰れていた。


「ギュアアアアアアアアアッ!!!!」


咆哮と同時にドレイクはノイドに向かって大きくジャンプした。

しかし上まで上がって下を見た時そこには誰の姿もなくノイドが立っていた場所に着地と同時に

「どこだ?」と唯一見える左目だけで左右を見る。


「おいトカゲ、何処を見てる、こっちだろ」


ドレイクはノタノタとぎこちなく体の向きをノイドに向けた。


「なんだ体が随分と重そうだな、もう少し痩せたらどうだ?」

「・・・駄目・・・吐くブレス・・・気を・・・」

「大丈夫か?レネ殿、ぶれすか?承知した、町には急いで戻る」


ブレスが何なのかノイドは知らなかったのだがどうでも良かった。

ただレネの言葉が的中したか、口を開き黒い煙のようなものを吐いた。

しかしレネを抱きかかえているのにも関わらず簡単にその煙と魔竜を飛び越えノイドはドレイクの後ろに立ち緑の作業着にもかかわらず草鞋を履き指の間に挟んだクナイを太い足に突き刺す、しかし刺さらず後ろに下がるとブン!と尻尾が目の前を横切った。


「ふむ・・・刺さらんか。さて・・・どうするか」


またゆっくりとだが必死に体を向け、今度は頭を低くしてそして体当たりしてくる。

初速からほぼ最速の速さに到達していたが、しかし「はぁ~」とため息を付き横にずれドレイクを避けた後すぐ跳躍すると足の下を尻尾が通り過ぎた。

避けられてもすれ違いざまに尻尾の一撃を食らわそうとしたのだろう、魔竜なりに考えているようだがノイドには意味がないようだ。

ノイドは木の枝に一度足をつき止ったドレイクの視覚を失った右側に音も無く着地した。

ドレイクが振り向くより早く右横に立ちレネを抱えたまま器用にクナイを足で上に放り投げた後その右足で宙に浮いたクナイごと踏み込んだ。

クナイはまた右目に刺さり初めに刺さっていたクナイは更に奥深く入り込みしかしドレイクの悲鳴を上げる暇も与えずノイドは術を発動させる。


「風遁・かまいたち」


「ギィィィッ・・・」


ドレイクの顔が1部弾け飛び、しかしその絶叫はあまりにも弱弱しく消えそうな声だった。

術を使った本人であるノイドの右足も弾けることはなかったが脛あたりからズタズタに裂けていた。


「おっといかん、お前のずる賢い顔を見ていたら自分の足の事を忘れていたよ」


特に痛がるそぶりも足を引きずる事もなくノイドはドレイク前を無警戒に横切るもドレイクはハァハァと息を切らし口から泡と涎を流し動かなかった。

吹き飛んだ右側面からはボタボタと血が流れ残ったその左目からも涙のように血が流れていた。

この時レネの涙は止まっておりノイドの顔がハッキリと見えるが彼女はただ無表情のままで戦うノイドに恐怖を感じ震えていた。

ノイドはわざわざ唯一残った左目から見える位置に立ちその目を見つめながら静かに、ただ冷たく話しかけた。


「おいトカゲ、お前が何を食おうが文句は言わない。人間を食おうが幻魔を食おうが生きる為に食うは当たり前のこと。だがこれだけは言っておく、私の恩人達を食う事も手を出すことも誰であろうと許さん。腹が減って食いたいのなら最初に狩ったあそこに転がってる魔獣を食え。二兎を追う者は一兎をも得ず・・・右目のクナイはお前にくれてやる、覚えておけそれは楔だ。今度こんなくだらないこと他でもやってみろ、私が今まで殺してきた者達以上の絶望を食わせてやろう、お前が殺してくださいと懇願するほどな」


ドレイクは後ずさりながらゆっくりと方向転換し立ち去ろうとして立ち止まり一度だけ左目でノイドを見た後言葉を理解しているのか魔獣を遺体を咥えフラフラとした足取りでその場を去った。

もっともあの状態ではそう長くないのかもしれない。

ノイドは右足の痛みも感じないかのように町の方に走り出し木の枝に飛び乗りそこから壁の上に昇り町の屋根を渡ってレネを家まで運んだ。

この時レネはもう気を失っていたがマナがなくなったせいなのかノイドに対する恐怖なのか今となっては分からなかった。



「ん・・・ん~・・・」

「目を覚まされたかレネ殿」


レネが目を覚ますと見慣れた天井とそこに浮かぶ魔法の照明が真っ先に目に入った。横を見ると椅子に座ったノイドが静かにレネを見つめていた。


「ここ・・・私の部屋・・・私・・・生きてる?」

「ええ、もう大丈夫です、あなたはちゃんと生きています、かすり傷1つありません。

ただ『まな』、だったか?失っているので今はゆっくり休んだ方が良い。」

「はい・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・レネ殿が目を覚ましたことをアイル殿に・・・」


数秒の沈黙後にノイドが立ち上がると「ふえぇぇぇ」と声が上がった。

固まったノイドがレネを見るとボロボロと涙を流し布団を抱きしめたレネがノイドを見つめていた。

「レネ殿?」

「・・・見ましたぁ?」

「・・・はい?」

「・・・服が違います・・・寝巻きになってます・・・見ましたぁ?」


半泣きの声を聞きながらレネが何を言ってるのか意味を理解しノイドはそれに答えた。


「あぁ~アイル殿達ですよ。帰ってきた時玄関前で近所の奥方達とロイン・・・の事でお話をされていましたので手をお借りしたのです。部屋まで運んだのは私ですが傷の具合も着替えもアイル殿と奥方達がやってくださいました」

「そ、そうですか・・・ごめんなさい」

「いえ」

「・・・あの・・・」


再び部屋を出ようとしたノイドをレネは止めた。


「どうされました?」

「・・・・・」

「どうされました?」

「・・・ノイドさん」

「はい」

「・・・いえ、ゲンジュウロウさん」

「!?」

「・・・どちらのあなたが本当のあなたですか?」

「・・・・・」


ノイドは椅子に座りなおしレネを見つめた。ノイドの顔は少し困ったような顔だった。

レネはどこか怯えており、しかし強く布団を握り締めそれを必死で耐えようとしていた。


「・・・今朝・・・嬉しかったんです・・・初めてあなたの笑顔を見れて・・・嬉しかったんです」

「・・・・・」

「・・・でも・・・ドレイクに襲われて・・・動けなくて・・・もう死ぬんだと思って・・・怖かったんです」

「・・・・・」

「・・・あなたが来て・・・助けられて・・・安心したはずなのに・・・怖かったんです」

「・・・・・」

「・・・あなたが・・・あのドレイクよりも恐ろしいと思いました」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・どちらも本当の私です」

「・・・・・」

「私が、私たちがあの里で生まれた時から皆忍者です。任務のために他者の命を殺める事も

時には仲間や家族さえも捨て駒として見捨て見殺す事も、人ではなくただの忍者として生きるのが普通であり当然」

「・・・・・」

「どれが本物でどれが偽者か、全部が本物であり全て私です」

「・・・・・」

「レネ殿が私をどう思おうとそれはレネ殿の自由です。レネ殿がそう感じたのであればそれが真実です」


これで話は終わったとばかりに立ち上がろうとしたノイドの手をレネが掴んだ。

レネは先ほどの怯えた姿ではなく何故かレネの方がどこか迷った、困ったような顔をしていた。

ノイドはまた座りなおした、掴まれた手はそのままだ。

レネを見つめ彼女が何を言おうとしているのかじっと待った。

レネは少しどうしようか悩んだ後掴んでいた手を離し左腕の裾をまくり始めた。

そしていつも左手に付けている灰色の手袋を取った。

その腕と手のひらと甲にはアイルにもある植物の蔓を思わせる紋様があった。

ただ本来紋様はほのかに光を発しているのだがマナを失ったせいかアイルや他の幻魔族と比べると今にも消えそうな薄暗い光だった。


「私はこの紋様が嫌いです。人間族は幻魔族の・・・この紋様を気持ち悪がってると聞いたことがあって正直私も気持ち悪いと思います。ノイドさんから見るとどうですか?」


普通なら「どうですか」と聞かれても無難に「どうも思わない」か「良く分からない」辺り考えるかもしれないがノイドは何故か紋様ではなくレネの手を見て幼い頃に亡くなった母親の手を思い出していた。

ノイドの母は上忍の忍者だった。

鍛錬につぐ鍛錬で腕は筋肉質で手は無骨、レネやアイルのような女性らしい手ではなく男顔負けのごつごつした手をしていた。

けれどどんな任務をこなすその手が大好きだった。

強くなれなくてノイドはいつも泣いてその涙を拭ってくれたその手が大好きだった。

その手で頭を撫でられるのが大好きだった。

その手をつなぐ事が大好きだった。

だから・・・。


「人間の私にはその紋様が幻魔にとってどれ程のものか分かりませんが私個人にとってレネ殿の手は美しいと思います」

「・・・え?」


ノイドは思ったことを素直に言ったつもりだったのだがその答えに何故かレネは不思議そうな顔をしていたがみるみる顔を赤くしていった。

ノイドは何かおかしな事を言ったか?とさっき自分が言った事を思い出し言い訳をし始めた。


「あ・・・いや、そう言う意味ではなくて光る紋様が美しいのであって深い意味は・・・いやいや、別にレネ殿が美しくないとかそんな事じゃなくて十分に美しい・・・じゃなくてその・・・」


急にあたふたし始めたノイドにレネは小さく微笑み布団から出てかつてノイドが見せたように正座をしてから両手を付け頭を下げた。


「ノイドさん、助けていただいてありがとうございます」

「・・・・・」

「・・・・・」

「ふっ・・・ははっ・・・」

「うふふふ・・・」


しばらく笑い合う二人、そこに恐怖もわだかまりもない。

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