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忍者と狐to悪魔と竜  作者: 風人雷人
第一部 忍者見習いが目指すは忍者か?魔法使いか?
12/114

11・地竜

「どう?ノイド君、ゴーダンさんとの仕事もなれてきた?」

「はい、ゴーダン殿にもトト殿にも良くしてもらっています」


2人と1匹がこのテノアの町に来てから1ヶ月近く過ぎていた。

才蔵改めロインはアイルが完全に母親代わりになり、付きっ切りで世話をしていた。

ロインを連れ町に出れば当然九尾の狐ココも憑いてくるので神獣が拝めると最近では町の人気者になっていた。

ノイド自身もデュラハンとの戦闘が話題になり剣術を教えてほしいと言ってくる者もいてペンダーとの話しで忍者としての技術は教えられないがちょっとした基本的な剣の扱いや体力づくりのための鍛錬方法を教えることもあった。

もっとも仕事中に教えてくれと言うものが店に来た際はノイドの断りの前にゴーダンのどなり声が響きわたるのだが。

最近は仕事の際はゴーダン夫妻と同じ作業着である緑のシャツ、ズボンでそれ以外の時はまだ忍び装束なのだがその姿を物珍しい、不審がって見るものはいなかった。

ノイドとレネが朝食を食べつつアイルがロインにミルクを飲ませそれをココが見つめる、最近の風景だったがペンダーはまた北の町に行っているため不在だった。


―コンコンコン―


「私が行きます」


レネとアイルが動く前にノイドは立ち上がり玄関に行き扉を開けるとひと月前デュラハンの件で家に来た男が立っていた。


「やあおはよう、まだ君がいてくれたか有難い、あとレネ君もいるかい?」

「おはようございます、今呼んで・・・」

「ラークさん、おはようございます。こんな朝からどうなさったんですか?」


自分の事を聞く声が聞こえたのだろう、ノイドが呼ぶ前に出てきた。


「やあおはよう。朝からすまないね」

「いえ、もしかしてまた魔物ですか?」

「いやいや、今日は魔物の方じゃなく魔獣の方だよ」

「場所はどちらです?どんなタイプの魔獣ですか?」

「西の森の方だ、イノシシの魔獣みたいだが体の方は思ったほど大きくない、気になるのはせいぜい太い爪とツノを生やしてる程度の小物みたいだよ。一度壁のあたりまで来ていたけどあっさり森の方に帰ったよ」

「そうですか、それなら先に洗濯とか掃除を終わらせて昼からでも問題ないですね」

「そうだね、ノイド君もいるようだし一応レネ君が確認して、まぁ必要なんてないだろうが何かあれば自宅にいるんで来てくれ」

「わかりました」


ラークはよろしくと残し帰っていった。

ノイドは話を聞いていたが魔物の時と違い非常に落ち着いた会話で特に急ぐ必要もなくどうやら今回は壁の中、町にいればそれほど害はなく自分が動くほどの事はないようだった。


「レネ殿、話を聞く限りたいした事がなさそうだが私も行こうか?」

「今回は大丈夫ですよ、ノイドさんは気にせず鍛冶の仕事に行ってください」

「そうですか、何かあれば遠慮なくこちらにも来てください。刀・・・剣はともかく短剣くらいはお店にもあるので」

「ええ、ありがとう」


ノイドは朝食の残りをたいらげ部屋に戻り2本のクナイを作業着に付いた両ポケットに入れレネとアイルに声をかけ家を出た。

「ゴーダン殿が今日だと言っていた・・・やっとだな・・・異国での初賃金」とそのお金で3人に感謝のプレゼントを、またロインとココにおもちゃでも買おうかあるいは全て渡し生活費の足しにしてもらおうかなど以前のノイドらしくない少々庶民じみた嬉しい悩みを抱えながら鍛冶屋に向かった。


昼食をとり半時間ほどたった頃だろうか、ノイドは嫌な気配を感じ整理していた農具を置いて店の外に出て壁上の向こう側を見た。

不審がったゴーダンとトトも出てきて「どうした?」と声をかけるもそれに答えず「風遁、千里視、千里聴」とつぶやき、しかし次の瞬間「疾風迅雷!」と叫び建物の屋根に飛び乗りそこから壁の上と昇り壁の向こうへと消えた。

ゴーダンとトトはそんなノイドを、その時の顔を見て「人の皮をかぶった化け物」と言わせた。

ただ二人が見たそれは怒りの形相などではなく無表情で氷のような目をしていた。





レネは西にある北門と比べると小さな門から外に出て森の中に入っていった。


「精霊召喚。風よ力をお貸しください」


ワンドを掲げその声に答えるように半透明の小鳥が5羽出てきた。

精霊でありながら実体を持ってしまったがゆえか森と言うよりは林に近いそれほど密集していない木々の中で制限されているのだろうか、デュラハンの時と比べると動きが少しぎこちなく遅い速さでレネの周りを飛んでいた。。

小鳥に囲まれゆっくりゆっくりと周囲を確認しながら歩いていく、十分警戒し15分くらいたった頃だろうか木々の隙間から動く何かが見えた。

レネは周りを見て一番木が少なく生えてる場所、少しでも開けた場所を見つけそこに留まり動くそれが近づくのを待った。

姿を見せたのは朝聞いた通りのイノシシ型の魔獣だった。

体格も1メートル半とよく見かける普通のイノシシとそう変わらない大きさだ。

違うのは赤い目、50センチ程度の額から前に突き出た短刀のようなツノと肉食獣のような前足、

しかし爪の長さは10センチくらいが飛び出し地面に食い込んでいた。

魔獣は最初からレネがそこにいたと分かっていたかのようにゆっくりとレネに近づいていく。


「はぁ~分かってはいるけど自分がおとりと言うか餌と言うかあまり良い気分じゃないよね」


実は魔獣はほとんど食料を必要としない。

彼らが求めるのは血肉ではなく魔法使いのマナ(魔力)だ。

それは神獣に進化しようとする本能なのかは不明だが魔獣は仮に目の前に魔法の使えない人間族がいてもほとんど襲うことはない。

もちろん攻撃されれば反撃はするしおもちゃのようにもて遊び意味も無く命を奪いにくる事もあるが。

その中でも魔法の才能のある者、特に幻魔族は魔獣にとって最高の餌であり幻魔にとっては放置しても良い存在ではなかった。

魔獣は歩みを止めじっとレネを見つめている。

レネは精霊召喚をしているので魔獣が襲い掛かってくるのを待っている。

ただ今回は少し違っておりレネは首をかしげた。


(おかしいな・・・いつもなら警戒はするけどさっさと向こうから精霊に突っ込んでくるのに・・・

もしかしてこの魔獣弱すぎて怯えてるのかな?)


魔獣の目を見るもただ赤いだけで怯えてるのか警戒してるだけなのか正直分からない。

「仕方がない」とレネの方から魔獣に向かって歩き出した。

しかし魔獣の方はいまだ微動だにしない。

と次の瞬間何も指示を出していないのに小鳥が後ろに行こうと慌てた動きをした瞬間だった。


「あっ!」


レネの真後ろから非常に小さな、気のせいかと思える程度、フッと風に撫でられたような感覚を背中に受けた。

その感覚と同時に小鳥は消えレネは一瞬で力を奪われたように倒れてしまった。


(な、何?・・・まずい・・・)そう思い立とうとするが立てない、なんとか顔を上げて魔獣を見るが最高のチャンスにもかかわらず今もじっとして動こうとしなかった。

すると後ろから「ドスッ」と重々しい音が聞こえレネはこの時初めて後ろにも何かがいたと分かった。

何とかして体をずらし後ろを見るとそこには2本足で立ってる巨竜がいた。


(うそ!ワイ・・・バーン?違う・・・ドレイク?・・・な・・・んで・・・こいつが・・・町の近くに・・・)


ドレイク、爬虫類、恐竜のような姿をした地竜、竜でありながら竜族に入れない亜種だ。

ドレイクと翼竜と呼ばれるワイバーンの2種はほぼ同じ姿をしており

ワイバーンとの違いは前足と羽が一体化している翼が退化して非常に小さく、代わりに後ろ足が太く大きく進化している。

また4~50センチと尾の短いワイバーンに対しバランスをとる為に150~200センチと長くなっており頭から尻尾の先まで4メートルを超えていた。

ドレイクもワイバーンも魔獣の竜版、魔竜と呼ばれている存在でそれは竜族の証である青い瞳ではなく魔獣と同じ赤い目のせいだ。

ただ通常ワイバーンもドレイクも山岳地帯に住み町の近くに来ることはありえないのだがよく見るとこのドレイク、全身所々傷付いているのが見えもしかすると仲間割れを起こして東北にある山脈より逃げてきた可能性があった。


(私・・・こいつのブレス・・・マナが・・・切れた・・・)


ドレイクは別名、魔力食らい(マナイーター)と呼ばれており、ワイバーンと違い彼らの吐くブレスは特殊で直撃を受けても燃やされる事も傷つくことは無いが魔法使いのマナを完全に喪失させる効果がある。

レネはこれを食らったのだがローブの魔法防御効果のおかげか、多少防いでくれたのだろう。

無防備な直撃を食らったのだ、普通ならマナ完全喪失して気を失っていた。

ただ皮肉にもそのせいですぐ傍にある死と言う恐怖を目にすることになるのだが。

ドレイクは一歩だけ足を出しそしてレネの視界から消えた。

ドレイクはジャンプで一気にレネを飛び越え魔獣の目の前に降り立った。

魔獣はドレイクを見上げるもやはり動かない、こいつは初めからレネじゃなくドレイクに怯えて動けなかったようだ。

ドレイクは大きく口を開き額のツノなど気にせず一口で魔獣の頭を食いちぎり、頭を失った魔獣は大量の血を溢れ出させながら倒れた。

ドレイクが咀嚼するたびに骨を噛み砕く音と肉が潰れる音が静かな森に響いた。

そして何やらぎこちない動きでゆっくりと体の向きを変えドレイクはレネを見て完全に動けないと分かっているのだろう、さっきのようにジャンプではなく1歩1歩ゆっくりと近づいてきた。


「誰・・・たす・・・けて」


レネは必死に逃げようとするが多少手足が動くだけでその位置から動くことはなかった。

どんなに手を動かしても手に湿った土が付き爪の中に土が入り込み地面が少し掘れただけだ。


「いや・・・死にたく・・・ない」


涙がボロボロと溢れもう何も見えなかった。

すぐ近くに何かの血なまぐさい息遣いが顔のそばで感じた。

いや何かじゃない、ちゃんと知っている、ドレイクだ。


(さっきの魔獣みたいに食べられちゃうんだ)


これはきっと走馬灯と言うやつだろう、涙でぼやけて何も見えないのにハッキリと父ペンダーが微笑んでいる姿が見えた。

となりに母アイルも微笑んだ姿が見えた。

今度は1年前に死んだ祖父が微笑む姿が見えた。


・・・そして・・・もう・・・何も見えなくなった。

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