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忍者と狐to悪魔と竜  作者: 風人雷人
第一部 忍者見習いが目指すは忍者か?魔法使いか?
111/114

108・乱入者

「あっ、ちょっとマズイかも」

「どうしたの?」



 呻きのような声を搾り出すロイン。ユーティーは両手で口元を隠し、ひそひそ話でもするような小声で聞くと、「刀に大きなヒビが入った」とロインが呟いた。

 視線をノイドが持つ刀に集中するが、動きは早く振りはもっと早い為よく見えない。ジッと睨むように集中、すると黒い瞳の色が変わっていき金色になるが、見えた瞬間すぐに戻る。



「見えた、ほんとだ、真ん中の方に特別大きな刃こぼれと、そこから半分くらいのヒビが入ってた」

「うん、次、魔法無しで攻撃を防がれただけで確実に折れると思う」



「どうするの?」、相変わらず両手で口を押さえたまま、小声で確認するとロインは戦いから目をそらさず、「これを渡す」とゆっくりと腰から刀を外していく。







「勝負あったな。後一回で終わりか? と言っても聞いちゃいねぇか」



 轟之助の斧の二連撃を受けてしまい、ノイドの持つ刀に大きなにヒビが入る。しかしノイドはその言葉にも限界間近の刀にも気を止めていない。轟之助に向かって走り出し、斬撃のような無数の風の刃を避けつつ近づく。

 忍術を全て回避し近づき、刀で攻撃、そして下がる、もうかれこれ何度目になるのか、間合いに入る踏み込みと同時に刀を切り上げる。ただここに来て風向きは再び変わった。



「火遁刃、溶破火之迦具鎚(ようはひのかぐつち)!」

「!!!」



 この戦いにおいて轟之助、二度目の声を発しての忍術。

 今まで二人が使用していたのは風遁刃。風を纏った武器は、見た目だけならば何も変化はない。しかし轟之助の両手にあるのは、今にも液体化し溶けそうな真っ赤に焼ける炎の斧。

 左から振り下ろされた炎の斧はノイドの刀を一瞬で溶かしながらへし折る。折れた瞬間もう一つの炎の斧の横薙ぎが、空中に残された刀を更に溶かす。

 ノイドは刀が炎の斧に触れるより早く手を離し、二撃目の軌道に合わせ左へと跳ぶ。三つに分かれ赤く溶けた刀が地面に落ちるより早く、ロイン達がいる方向とは逆位置に大きく離れていた。



「聞いているのか、聞こえてるのか知らんがこれで終わりだな。近づかねぇと攻撃できねぇのは分かるが、お前この一年で俺の事を忘れたか? 離れれば忍術、近づけば武器破壊、俺が二本の手斧を使ってんのはその為だぜ」



 無造作にゆっくりと歩き出した轟之助。

 背中の妖刀、今や誰にも抜けない事は知っている。いかな剣の天才と言えども、振るう刀剣が無ければ意味は無い。

 体術だけでは同格の忍者相手に有効とは言えない。実際刀が無くなったせいか、先ほどまで疲れ知らずでその足を生かし、縦横無尽に動き回っていたノイドは遠く離れた位置で跪き、俯き加減で地面を見つめたまま身じろぎ一つしない。

 しかし轟之助が数歩も歩く間もなく、前と後ろから全く同時に動きがあった。







 思わず父さんと叫びそうになったロインだったが、気持ちをぐっと押さえ込む。

 ノイドは無事だ、刀は折れてしまったが二撃目の回避に遠く離れた。轟之助を間に挟む形になったがこれは好機だった。勝利を確信したのか斧に忍術がかけられた形跡は無く、背を向けている。刀を投げるなら今だと。

 轟之助はノイドと互角以上に戦える達人、ロインの動きに反応し対処するだろう。だがそれこそがロインの狙い、投げる刀に対応をした瞬間非常に小さな隙が生まれる。ノイドがその隙を見逃すなんて事はありえない。

 ロインを先に対処しようとすればノイドの攻撃が轟之助を襲う。いかに忍術の天才と言えども、隠し持ったクナイでの攻撃と一つの忍術を同時に使う間に、二つ以上の忍術を同時に使えるとは思わない。

 忍術が無いただの手斧であれば、ただのクナイでも問題は無い。

 かと言ってロインを無視すれば、刀がノイドの手に渡る可能性は極めて高い。もしかするとそれは甘い考えで、轟之助はもっと強い力を持っているかもしれない。だがその可能性を否定し、ロインは刀をノイドに向けて投げた。否、投げようとしてその動きは途中で停止した。



(父さん?)



 ノイドの投げたクナイは轟之助の横をすり抜け、ロインの眼前に迫っている。ゆっくりと、ゆっくりと、迫って来るクナイの軌道はロインの脳を貫いていた。轟之助ではなく自分を狙った、それを意味する事は何か。ノイドの性格を考えれば答えはすぐに出た。『刀は不要、手出しも不要』と投げる事をやめた。

 これだけの距離、それに加え動体視力強化によって、飛んでくるクナイは川面に緩やかに流される木の葉ように遅い。クナイを受け取る為に一歩踏み出す、せめてたったそれだけでも相手にこちらへの注意を与え向けさせ、ノイドに好機を与える。



 ……そして手を伸ばし二歩目を踏み出すよりも早く、クナイは一本の鉄の鎖によって大きくはじかれ砂浜に落ちた。






「どのような形にしろ、弟子風情がこの戦いに加わるのは止めておけ」

「え?」



 突然後方に現れた、新たな乱入者に振り向いたロインは驚く。ロイン達の間を静かに通り抜け前に出たのは木立八助(こだちやすけ)。その手には鎖鎌、ムチのように振るった鎖でクナイを弾いたのだ。

 轟之助と同じ外套を纏い、しかしフードは被らずその素顔をさらけ出している。頭は再び綺麗に剃り上げられ、その顔は相変わらず病人のような顔色と痩せこけた頬をしていた。しかしそんなひ弱そうな見た目とは裏腹に、内なる強さがその細い体から滲み出していた。ただしその強さの中に、憎悪が含まれている事にロインは気が付かない。



「俺達は殺生状態と呼んでいるがああなったら誰にも止められん。堕ちた幻十朗は敵も味方も、親も関係ない。それどころか床に眠るだけの無害と分かっている赤子ですら、戦闘の邪魔となれば、あるいは役に立つなら平気で蹴り殺す」

「お婆ちゃんが聞いたら怒りそう、絶対に聞かせられないな。一応助けてくれてありがとう(その必要は無かったけど)。でもおじさんあいつの仲間で師匠の敵だよね、どうやって、いつの間にここに来たの? 俺は風で周辺を見ていた限り、誰もいなかったし誰も近づいていなかったはずだけど」

「最初から、とは言わないがあの二人が戦闘を始める時にはいた」

「いや、俺達以外誰もいなかった」

「ちゃんといたさ、お前が幻十朗の弟子であり、一人前の忍者なら知っているはずだ。忍術は本来戦闘の為に生まれた術ではないと」



 考えるより早く答えは瞬時に出ていた。「あー遁術か」そうロインが呟くと八助は笑ったのか、ほんの少しだけ口の端が上がった。



「遁術、今の忍術の基礎となった技術。姿を消し、形を消し、音を消し、気配を消し、混乱を与え、畏怖を与え、目的の場所に無事にたどり着き、目的の場所に無事に逃げ帰る」



 そう言いながら振り返り、自分達がいた場所より離れた後方の地面を見る。



「土遁の術、通常は土の中に隠れたり隠したりする術だけど、忍術を使って地面の下を、地中を移動してきたのか」

「正解だ」



 ギョロリとした異様な目を更に大きく見開き、今度はハッキリと分かるくらいニヤリと笑う。しかし病的な外観と不気味な雰囲気のせいで、黙って成り行きを見ていたユーティーは身を震わせ、サッとロインの後ろに隠れた。



「幻十朗……小僧、確かにお前の言うとおり殺生状態にしては()()()()が。まぁひとまずそれは置いておく。それで? これはどういった了見だ、轟之助」

「八助……なんでお前が、っおっと」



 突如現れた八助に、轟之助は気まずそうな気配を一瞬見せ、飛来したクナイを弾く。

 ノイドは自分の髪から一本の髪の毛を抜くと、それを右手に再び轟之助に向かって走り出した。



糸術(しじゅつ)気操甲糸刀(きそうこうしとう)



 ノイドの使用した技を聞いた瞬間、轟之助は慌てた様子で二つの斧に風遁刃をかけていく。しかし三つ目の忍術は間に合わず、突きのような髪の毛の一撃を手斧で受け止める。それは一本の髪の毛とは思えないほどの一撃で、手斧を持つ轟之助の左手は大きく弾かれる。

 ノイドの持つ髪の毛は十数センチほど毛先が燃えたように消失したが、攻撃は止まらずその分更に一歩踏み込み、ノイドは髪の毛を上段から斜めに振り下ろした。当然残った右手の手斧で受け止めようとしたのだが、斬撃になると思われた攻撃は予想を裏切ってムチのようにしなり、轟之助の手斧と右腕を蜘蛛の糸のように絡め取っていた。そのまま引き寄せ轟之助の顎に向けて、左で掌底打ちと呼ばれる打撃を打ち込もうとしたが、当たる寸前無手になっていた左手に防がれた。絡め取っていた髪の毛を手放し再び大きく距離をとる。

 真上から落ちてきた手斧を受け取った轟之助、その周りに十の小さな火の玉が浮んでいる事を確認し、警戒するも視線は火の玉ではなく轟之助に固定されたまま、もう一本髪の毛を引き抜く。



「ふぅ~間に合ったか、危ねぇ危ねぇ。危うく顎を砕かれるところだったぜ」

「……」

「まさか糸術まで使いこなしているとは、たった一年でよくぞここまで腕を上げたもんだ」



 もちろんジッと見つめ返すだけで応えは帰ってこない。「あーそうかい、話す気がねぇなら火の玉(こいつ)と遊んでな」

 そう言って手斧を両腰に戻し、自由になった両手と十本の指を広げるように動かすと、火の玉は意思を持ったかのようにノイドの周りを取り囲んだ。更に複雑に指を動かすとその動きに合わせ、不規則に動く火の玉がノイドに襲い掛かる。

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