9・神獣
しかしこの質問に答えたのはレネだった。
「あれ?そう言えばゲンジュウ・・・ロウさん?昨夜デュラハンと戦った時に何度か魔法使っていませんでしたか?緑だったし風魔法使ってましたよね?」
(昨日の?緑?風?・・・風遁・・・忍術の事か?我ら忍が使っている忍術が魔法?いや待て、それよりも・・・)
本来は忍術の存在、それらに関する全ては門外不出だった。
しかし忍術とこの地の魔法は同じとなれば多少情報を流してもどうしても聞く必要があった。
「失礼レネ殿、我ら里で使っている技は魔法ではなく忍術として使われているのですが同じなのですか?それに先ほど緑だから風と見抜かれておりましたが確かに使ったのは風遁、風の術・・・使用した術の正体が分かるのですか?」
「それで魔法を知らなかったんですか・・・私から見る限りあなたが言う忍術と魔法は同じでしたよ。それと正体、と言うより私たち幻魔族は魔法の発動時に属性を色で見ることができるんです。
さっき言ったように風は緑、他は火は赤、水は青、地は茶、氷は水色、あと神聖なら白、深淵なら黒でしょうか。だから色で属性は見えてもどんな効果のある魔法かは分からないんです」
「なるほど・・・、(しんせいとしんえん?は分からないがそれ以外は忍術にも通ずるものか、地は土だろうし・・・雷が無いのが気になるが・・・)魔法が見えると言っておられましたが普段から一々見えるのですか?幻魔族は全員魔法が使えるのでしょ?」
「見るか見ないかは切り替えられるんです、昨夜のような戦闘では魔物によっては魔法使うものがいますから見えるようにはしていますが普段は疲れるので見えませんよ」
「そうでしたか・・・(助かったな、今千里聴使っているが問題ないと信じてよいか)。
もしかして昨夜の精霊が緑色に光っていたのも風属性、と言う事ですか」
「いえ、あれはその・・・私の趣味で・・・」
「趣味?」
何故か赤面しながらモジモジしているレネに変わって何やら笑いを堪えながらペンダーが答える。
「精霊と言うのは力こそあるけど物理的実体のない存在で元々決まった姿かたちは無くてね、
召喚者が精霊に偽りの体を与える際思い浮かべた・・・姿を与える事になるんだ。レネの場合は風の精霊をイメージした結果小鳥だったて訳さ。当然姿は犬を想像すれば精霊は犬の姿をしているし・・・牛を想像すれば牛になる。動きなんかも想像どうりに動いて・・・くれるから・・・鳥らしく飛び犬らしく駆ける、父から聞いた話・・・なんだけど争いなんて無かった昔は『蝶のように舞う豚』・・・なんておかしな火の精霊を・・・僕のおじいちゃんがお祭りなんかで召喚してたらしいよ・・・くくっ、ごめ・・・変な話で・・・ごめんね。んっ!ようは光ってるのもレネがそう願ってるだけで別に精霊自体が光ってるわけじゃないんだ」
どうやら『レネが光る小鳥をイメージしてるから笑いを堪えている』のではなくただの思い出し笑いのようだ。
「いえ、変な話なんて・・・むしろ私も見てみたいですよその豚。あと最後に1つ・・・」
再びペンダーに、そしてアイル、レネと3人に質問をした。
「お三方は何故これ程まで私と才蔵様を助けて頂けるのですか?先ほども話しましたが暗殺、殺しもしています、正直普通の方から見れば私を危険視していてもおかしくはありません。ですがその後のあなた方の反応はまるで変わらない、今も私たちの力になろうという意思を感じました。何故です?」
その質問に対し思い出し笑いから立ち直ったペンダーは少しだけ微笑みながら答えた。
「確かに殺しは驚いたよ、でも・・・何故か神獣が君たち守護していたからね、信じられる人間、助けても良い存在だと思ったんだ」
「神獣?」
そう言ってペンダーは子狐を見た。
釣られて幻十朗も見るとソファーに座って才蔵をあやしているアイルの足元で座っていた。
「この大陸では神獣は神の眷属であり自然界を守る世界の守護者と言われている。皮肉にも魔獣から進化しないと神獣になれないのに魔獣は危険で討伐対象だからね、神獣が誕生する確立はとても低い」
「魔獣?獣が魔物化したみたいなものですか」
「そのようなものだね。神獣誕生の謎は完全に解かれた訳ではないけど魔獣が誰とも係わることなく、誰にも討伐されることもなく、生き続ける事が出きれば神獣になると言われている。ただ本来神獣が生まれ育った場所を聖地としそこを守るのが普通で場所ではなく誰か個人に憑くって言うのは初めて見たよ」
「この子狐、神獣は才蔵様に懐いてるようですがペンダー殿が『初めて』と仰るのでしたらその理由は分かりませんか?」
「申し訳ないけど・・・」
「きっと可愛いからよ、ねぇー」
アイルの答えにレネも含めた3人は苦笑いを浮かべるしかなかった。
才蔵がアイルの顔をペタペタ触るとその手をアイルがしゃぶりお返しとばかりに服をしゃぶって涎でベタベタにされてるのに幸せそうなアイル、もはやアイルが才蔵で遊んでいるのか遊ばれているのか分からない。
「しかしどうやってこの子狐が神獣だと分かったのですか?」
「2つあって1つはさっき言った魔法の属性の色で、神獣は魔法を使わなくても存在するだけで色が見えるんだけど二人の女神の力でもある白と黒の光と言っても良いのかな、纏ってるのが見えるらしいんだ。当然この子狐にそれが見えたからね。もう一つは幻魔族以外の種族が利用する見分け方だけど瞳の色を見るんだ。普通の動物なら姿形で分かるし魔獣化で外観や大きさが変わる、その中で魔獣は瞳がなく目が赤いんだけど神獣は金色の瞳をしているんだ。こんな言葉が人間族にあって『青い瞳は竜の証、赤い目は魔獣の証、紫の瞳は魔物の証、金の瞳は神の証』まぁ赤いか金かそれで魔獣なのか神獣なのか調べられるよ。ちなみにその中には入っていなかったけど妖精族と妖鬼族は緑の瞳で魚人族は僕ら幻魔と人間と同じ茶と黒の瞳だったかな?そう聞いた事はある」
「なるほど・・・(それにしても神獣、神か・・・戦って勝てないと感じたのは間違ってなかったのか・・・ん?神?もしかして先ほど出てきた天使とは本当に羽の生えた赤子の事か?)」
幻十朗が神獣と天使の事を考えてる間にペンダーは佇まいを正し幻十朗をまっすぐ見つめた。
「それで今後の事なんだけどゲンジュウロウ君、君たちが良ければ暫くこの町で、この家で身を隠す・・・も兼ねてここで暮らしてはどうだろうか?」
「!!!・・・よろしいのですか?」
「僕が帰って着た時に妻、娘と3人で話をしたんだけどまずレネ以外の守り手がこの町にいることはとても有難いんだ。戦争が終わったと言っても昨夜のような魔物の件もあるからね。戦える者は戦争でほぼ死んでしまったし一応育成、訓練もしているんだけどまだ1年、魔獣、魔物との実戦はまだまだ微妙でね・・・精霊召喚が使える者もこの町では僕と娘だけ。僕がこの町に常にいられれば二人で問題ないんだが訳あって北の町にも定期的に行かなくてはならなくてね。でも君の実力なら安心して任せられるしそれに神獣がこの町にいるって言うのは我々としてもこれほど心強い事はない。あとはまぁ・・・ねぇ?」
そう言ってアイルを見た。相変わらず二人だけの世界に突入しているのだがそれに焼きもちを焼いたのか、子狐は気を引こうとソファーに上がり才蔵に顔や鼻を近づけ甘えたり服を引っ張ったりした。
「ではお言葉に甘えてどうかよろしくお願いします。魔物や魔獣の件も私の剣が役立つのでしたら遠慮なく仰ってください」
「ありがとう!感謝するよ。君も困った事、必要なものがあったら遠慮なく言ってくれ。私達が出切る事は可能な限りしよう」
幻十朗はペンダーに頭を下げ手を差し出しペンダーはその手を握り返した。
「こちらこそありがとうございます。ただ早速で悪いのですがお願いがあります」
「お願い?なんだい?」
その後幻十朗は2つのお願いをした。1つは名前だった。
自分達の名前はこの地には珍しく追っての可能性も考え隠し名を名乗る事にし三人にこの大陸でも違和感のない名を付けて貰おうと考えだ。
結果、幻十朗は『ノイド』、才蔵は『ロイン』と名を変えた。
どうせだと子狐にも名をと話すも「さすがに神獣に名前なんて」と断るが幻十朗改めノイドが子狐だから子狐、ココにしようと適当に付けたところ女性二人には好評だったらしくココと呼べば子狐も尻尾を振り喜んでいるようなので『ココ』に決定した。
そしてもう一つはノイド曰く「働かざるもの食うべからず」と何か仕事を紹介してほしいとお願いした。
何ができるか話し合いノイドの希望で町の鍛冶屋で働く事となった。