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切り札  作者: 五月 ふつか
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開かれた扉

 三十三人。どこに向かっているのか分からなくなった列車に乗り合わせた人数だ。男性十九人女性十四人。誰が指示したわけでもなく、先頭の車両に全員が集まっていた。信じられないことに、存在していなくてはいけない運転士が居なかった。赤字経営の国営鉄道が人件費削減のために自動操縦システムを導入したという報道は聞いた覚えがないし、仮に導入していたとしても緊急時の連絡系統がどこかにあるはずだが、そんなものはどこにもなかった。

 僕に声を掛けてきた学生が、最初から先頭の車両に居た乗客に、何時から居なかったのか、何故気付かなかったのかと、無意味に責めていた。運転士の存在など今の状況では、何の意味もないはずだ。今、僕達が抱えている問題は、普段から利用している国営鉄道に自ら乗り込んだら、どういうわけか突如として、駅のない線路を走り続けているということだ。仮に運転士が居ても、分からない。と云われれば、どうしようもない。何故、こういう状況が存在するのか考えたが、僕の思考はどこにも辿り着かなかった。それは、他の乗客も同じようだった。

 十時四十分。列車は走り続けている。僕は窓の景色を眺め続けていた。どこかで見たような景色が延々と続いていた。車内では、学生が乗客一人ひとりに、どこからどこまで行くつもりだったかを聞きまわっていた。彼は全ての乗客から話を聞き終えると真犯人を見つけた探偵のような口振りで、みなさん、重要なことがひとつ分かりました。と切り出した。

「ここに居る乗客全てが、終着駅江藻地えもぢで降りることになっていました。」

 

 僕が小学五年生のとき、クラスにダァ君という少年が居た。何をさせても壊滅的に要領を得ない奴だった。何も出来ないダメな奴、ダメダメ、ダァ君。彼は、夏休みの最後の日に交通事故で亡くなった。僕はその日、事故の数分前に彼に偶然会って話をした。ボロボロのリュックサックを背負い、上下黒のTシャツと短パンが遠目からでも汚れているのが分かるくらいの格好をしていた。最初、彼を見かけた時、その姿に声を掛けるのを躊躇ったのだけれど、そんな姿だったからこそ、声を掛けずにはいられなかった。普通の格好だったら、声を掛けずに気にも留まらなかったと思う。

 僕は、こっそり彼の背後に近付き、肩をポンポンと叩いた。

「ダァ君、夏休みの宿題は終わった?」

 彼は学年で一番背が低く、僕は高い方だったので、僕達の身長差は頭ひとつ違っていた。近付くと彼は何日も風呂に入っていない感じだった。彼は、肩をいきなり叩かれたことに驚いて振り向き、うわぁ、と大声を上げた。その声の大きさと振り向いた時の強張った表情に僕も、うわぁ、と声を上げてしまった。お互いに照れ隠しに笑い合った。

「宿題は終わった?」

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