想
にゃあ
ひょこひょこ、歩いていく猫を追いかける。
校門を出て、道路を渡り、森の中へ入っていく。
今思えば、なぜ付いていったのか分からないけれど、
この時は写真を撮らなきゃという思いに駆られ、慌てて追いかける。
にゃあ
「はぁ、っ」
獣道ではあるのか、ある程度歩きやすいとはいえ、
山道を猫を追いかけて歩いていく。
冬であればすでに暗くなっている時間だが、
夏の日差しがまだ森の中にも入ってくる。
「あれ、、」
そういえば、昔もこんな風に森の中を歩いた記憶がある。
にゃあ、、猫の鳴く声。
「うっ・・・。」
一気に映像が流れ込んできた。
それは10年前の晴れた夏の日——————。
「あれ、僕どっちから来たんだっけ。」
田舎の山奥で、蝶を追いかけているうちに見かけないところまで来てしまった。
「んー」
どうしようかなぁ。
毎日遊んでいたから、迷ったとはいえ慌てることではないなぁと思う。
にゃあ、にゃあ
そこにスッと現れたのは真黒な猫だった。
「あっ猫。猫さん猫さん、家に帰るにはどうしたらいいかな。」
にゃあ
ふりふりとしっぽを振って、こっちだよっと言っているみたいに歩いていく。
「待って、猫さん。」
慌てて追いかける。
時々、猫が振り返るのはまるで追いつくのを待っているかのようだった。
5分ほど猫を追いかけると、白い小さな家があった。
「家?」
追いかけていた黒猫が、その白い家のドアに爪を立てて引っ掻いている。
「あっ、猫さん、君の家なの?」
白い家に近づくと窓には薄いブルーのカーテンのみで
うっすらと中の様子がうかがえた。
窓は少しだけ空いていて、ふわっとレースのカーテンが舞い上がった。
真っ白な部屋 ペンキの匂い 金色の髪
見惚れてしまう。身を乗り出してカタンと音を立ててしまった。
「誰?」
青色のペンキがバケツから零れ落ち、ペンキの匂いが一気に濃くなる。
視線が交じり合い、濃い青い瞳が僕を映しこんでいる。
「あ、、の、僕はタケルっていいます。道に迷ちゃって・・・」
「そっか俺のね、名前はアダムっていうんだ。」
端正な顔立ちから作り出される笑顔は、
子供ながらに綺麗ではあるが形容し難いと思った。
「とりあえずこっちにおいでよ。」
手招きされるままに、白い小さな家へと足を踏み入れた。