猫
視界には白いもや
「タ・・起き・・・」
ペンキの匂いが、漂ってくる。
「タケル、・・・て」
少しずつ視界が晴れてくる。
「タケル、起きて」
「あっ、・・・」
喋ろうとして、ぐるぐると視界が回る。
どこだここは――。
寝転んでいるのを覗き込まれているのか、金色の髪で視界がいっぱいになる。
「う・・・ん」
身体が言うことを、聞かない。
「タケル?」
少しだけ低い声。この声――。
「んん・・・ア・・、、」
そう、覚えている。顔も、声も名前も――。
「アダムっ、、、うっ、、わ」
名前を呼んだ瞬間に、後ろに引っ張られる感覚――。
ガタン。身体が自由になる。
「はぁっ・・・はぁ・・・。」
あっ・・・。あぁ、またあの時の夢か。
パソコン室で、作業をしている間に寝落ちしてしまったのか。
「マジで、もうこんな時間か。」
パソコン室に入ってから2時間以上が経っている。
もともと最終日ということもあり、パソコン室には自分以外に2人しかいない。
いつ寝落ちしてしまったのか。全然作業は進まなかった。
ついため息が漏れる。
携帯を取り出すとレイからの、待ってるよ。のLINEが入っていた。
「行くか・・・」
レイに返事を出し、パソコン室を出る。
「それにしても・・・」
感覚がリアルだった。
「確かに・・・あの時に会ってたんだ。」
それは、校舎を出た瞬間だった。
にゃあ。
「えっ・・・。」
にゃあ、にゃあ。足元に猫がすり寄っていた。
「あ、この猫。」
確かカナコが言っていた、あの白くて丸い猫だった。
やっぱり誰かに飼われてるのかな。人懐っこい。
「1枚撮らせてよ。」
ふと、カナコとの約束を思い出してカメラをリュックから取り出そうとすると
スタスタとしっぽ振りながらゆっくり歩いて行ってしまう。
「あっ、待って」
声を掛けても猫が待つわけないのだが、リュックを探りながら慌てて追いかけた。