夏
その日もいつも通りの朝だった。
ジリリリリリ 目覚まし時計が鳴る。
バンと音を立てて時計を止める。
次いで、携帯のアラームが鳴りだす。
鳴り続く携帯のアラームに、なんとか身体を起こす。
「はぁまたあの夢か・・・」
最近、あの真っ白な部屋と青いペンキと金髪の彼の夢ばかり見るようになった。
それでも記憶は曖昧だ。
記憶の中では、部屋に入って話をした気がするのに、
いつも部屋に入ろうとすると目が覚めてしまう。
「名前、、、なんだったっけ・・・。」
聞いた気がするのに覚えていない。
まぁいいか、きっといつか思い出すだろう――。
リュックにカメラを入れ、部屋を出る
音をカンカンカン。と立てて階段を下り、自転車の鍵を取り出す。
今日は音楽でも聞きながら行こうかな。
イヤホンを耳につけ、自転車にまたがる。
空を見上げる。
「っ・・・。」
眩しさに目を閉じる。
少し空が曇っているが、それでも夏の日差しは眩しい。
今日が夏休み前、最後の登校日だったのを、今更ながらに再認識する。
学生証さえあれば夏休みも大学を出入りできるのだが、今日中に少し写真の加工進めとこう。
そう自分に言い聞かせながら、 自転車のペダルを思いっきり踏み込んだ。
夏休み前の最後のテストが終わった。
周りからは「やっと終わったー」「いつ海行こっか。」
などの少し浮かれた声と会話が聞こえてくる。
「タケル、これから皆でカラオケ行こうよ。」
前に座っているレイが振り返りながら言ってくる。
「あ、ごめん今日はちょっとパソコン、寄って行きたくて。」
「えー、じゃぁそれ終わったらおいでよ。ハヤトもこの後合流する予定だし。
カラオケ行ったあとはご飯食べて、俺の家に皆寄る予定だからさ。」
「分かった。終わったら連絡するよ」
「タケル、また空の写真撮ってるの?」
レイの隣に座っていたカナコも後ろを振り返り聞いてくる。
「まぁね。」
「好きだね、空の写真。何か好きになった理由はあるの?」
「・・・いや、特には。ただ好きなだけだよ。」
「そっか。」
さらっと話を受け流し、リュックを手にパソコン室へ向かう準備をした。
そういえば、夢の中の彼と彼の話は他の人にはしない。という約束をしたことを思い出す。
やっぱり、あの夢は現実にあったことではないだろうか。
なぜこんなにも、彼への記憶は曖昧なのだろうか――。
「思い出せない・・・」
つい、思ったことが漏れてしまった。
「んっ?タケル何か言った?」
「いや、何でもない。じゃあ、後で。」
2人に手を振り、パソコン室へと向かった。