日
「よ、タケルおはよ。」
「ん、おはようハヤト。」
学食で食べていた手をいったん止めて、お茶を飲む。
ガタンと音を立てて、ハヤトが目の前に座る。
少し遠めから女の子たちがこちらに視線を送っているのが分かるくらいに、
ハヤトは目立っている。
「タケル、次の授業の課題見せてくんない?昨日暇がなくって。」
「うん、いいけどめずらしいね。」
ハヤトは意外というのもあれだけど、俺よりに課題や授業にちゃんと出るタイプで、
たまに朝間に合わないときは代返してもらっている。
「いやぁ~昨日さ、ヘルプで呼ばれて久々に酒飲んだ」
「ヘルプ?バーのバイトじゃなくて?」
「そう、昔やってたホストの・・・あ--。ホストやってたのは他のやつに内緒な」
まずいこといったなぁ、と笑いながらハヤトが言う。
「なんというか、タケルって警戒心持ってなくて話やすいんだよな。」
「そうかな、というかハヤトがホストやってたらだいぶ稼げたんじゃない?」
「まぁまぁかな。」
頬杖をつきながら笑う顔は、さまになっている。
「まぁ、ひとつ内緒にしといて。」
「もちろん。」
そう言って、課題のプリントを渡す。
「サンキュー。なぁなぁ、タケルのところの、えっとユウヒちゃんだっけ?
レイとはうまくいってるのか?」
「・・・どうかな。」
「タケル的には、うまくいったら困るもんな。」
チラッとハヤトの顔を窺う。
「俺、そんな分かりやすい?」
「ん~まぁ、この間レイと一緒に店に行ったときに、
そうかなぁとは思ったけど違った?」
この間、レイとハヤトとカナコ3人でバイト先にパンを食べに来たのだが、
俺のユウヒさんの気持ちってそんなにだだ漏れだったのだろうか。
「いや、レイとカナコも気付いてたりする?」
「俺だけじゃないかな。たぶん気付いてないと思うよ2人とも。
まぁ俺としては、ライバルがいなくてありがたいけど。」
ハヤトは、カナコのことを気に入っている。
「カナコとはどうなの。」
「今は、いいんだよ。こうゆう大学キャンパスって憧れだったからさ。」
いつもよりハヤトが饒舌なのは、お酒がまだ抜けていないからかもしれない。
「いいよなぁ~学生してるって感じ。」
「そっか。」
ハヤトの過去には、色々あったのかもしれない。
いつか話してくれる日が来るまでは、特に深くは掘り下げる気はないが。
「俺も何か、買ってこようかな。」
ハヤトが席を立つ。
俺は、中断していた食事を再会することにした。
それは、夏休み目前のテスト期間中のこと
「見て見て~この白猫可愛くない?」
パソコン室で写真の画像を修正していると、
そう言って、隣に座っていたカナコがパソコンの画面を見せてきた。
「んーちょっと丸いよ。」
「え~~そこがかわいいんじゃん。タケル分かってないなぁ」
「そうゆうもの?」
「そう、そうゆうもの。この子大学に居ついてるのかな。」
「どうかな、でもちょっと丸いってことは、誰かに飼われてるんじゃない?」
「超可愛いよ~、今度タケルも見つけたら、写真撮っといて~」
「忘れてなければね」
パソコンの画面の中では、真っ白な少し丸い猫がじっとこちらを見ている。
その瞳は、夢の中の彼のように青い瞳をしていた。