1-8. 会議は踊るされど進まず
速水の後ろに付いて行き、話し合いの場に着くと、既に20人ほどのクラスメイトが集まっていた。しばらく地べたに座って待っていると、続々と集まってくる。
パッと見で分かるのは、委員長の須長と、リア充グループ4名、運動部男子4名、運動部女子3名、不良グループ3名、ボスギャル御一行の3名、チャラ男3名、の合計21名だ。この辺りまでは、見た目がそれほど変わっていないので、見るだけで判断できた。問題は残りの奴等だ。
俺と神城、速水と出雲を除くと、残りは15名。確か内訳は、メーガネ三姉妹、普通女子3人組、地味女子2人組、ヲタコンビ、上原とその彼女、九条と古泉の幼馴染カップル、これで14人、あと1人誰だっけ? あ、一際目立たないボッチくんが居たな。
この中で2名は既に脱落しているはずで、13人は見た目が変わり過ぎてて、パッと見では分からない。
こう眺めて行くと、上原の彼女は見た目があまり変わっていないので、すぐに分かったのだが、隣に居る金髪碧眼の王子様いったい誰だろうか?
もしかしてあれが上原なのか? 髪の色まで変わるとは、身体強化スキル恐るべしだな。
そうすると、もう一組の男女カップルが、九条と古泉ってことになるのか。
九条のほうは面影があるな、元々クール系美少女だったのが、更に美しく変身している、ヤバい恋に落ちてしまいそうだ。
そして、その隣に居る、線の細い銀髪の貴公子が古泉なのだろうな。ううむ、やっぱりなんか不公平だぞ。
あとわかり易いのは、1人でポツンと居るのが多分、ベストボッチストの彼だ。
元々の顔を思い出せないので、どう変わっているかは分からないが、顔自体は整っている。ただ、特徴というものが完全に消えており、人込みに紛れたら、すぐに見失ってしまいそうな感じだ。
なるほどな、もしかしたら身体強化で、各人の容姿の長所が強化されているのかもしれないな。
そうすると、俺の眼つきの悪さは長所と捉えられたという事か……神よ、システムにバグでもあんじゃねーの? ちゃんとデバッグしといて欲しいものだ。
まあ、それは置いといて、残りを消去法で行くと、男子2名がオタク男子2人組か。
ただのデブとガリだったはずが、筋肉質で頼りがいがありそうなナイスガイと、細身でシャープなクールメンに変わっている。雑誌の怪しい広告にある、before⇒afterでもここまで変わらんぞ。
残る女子は3人組が2組居る。片方は身長差が大きい3人組だから、こっちがメーガネ三姉妹だろう。
チビ、デブ、ノッポだったのが、可愛いロリっ子、ちょいポチャ巨乳さん、モデル体型の美人さんに変身している。雑誌の怪しい広告(以下略)でもここまで変わらんぞ。
ということは、残りの3人が普通女子3人組ってことかな、なんつうか普通に美少女になってるよ。
彼女達は、図書室の妖精に、エプロンの似合いそうな家庭的な美少女、クラスで3番目に可愛いけど実は一番モテる娘、みたいな感じだ。この子達は文化系3人娘と呼ぶとしよう。
となると、犠牲になったのは地味女子2人組ってことか、面識も無ければ名前すら知らないが、冥福をお祈りしておこう。
俺が周囲の観察に意識を向けている間にも、須長と速水が話し合いを始めていた。
おっと、どうせ俺は蚊帳の外だろうけど、話くらいは聞いとかないとな。
「さて、これから決めないとならないことが3つある。まず1つ目はこれから何をすべきか、2つ目は最終的に何を目指すかで、3つ目がどうパーティを分けるかだ」
「補足させてもらうと、この冊子にパーティは6名までとの記載がある。だから、6パーティに分ける必要があるんだ」
須長の説明に、速水が補足を入れる。
「何で須長が仕切ってんだよ、引っ込めよ、さっきみたいに失敗すんのが落ちだろ」
「そうだそうだ、引っ込めー」
「そう言われるとそうでござるな」
「拙者もそう思っていたところでござる」
バカから茶々が入り、それに何人かが同意する。まあ後半2人が誰かは口調でわかるけどね。声まで渋い感じに変わっているのがムカつくぜ。
「皆、落ち着いてくれ! あれは須長が悪いんじゃないだろう」
速水がフォローするが、騒ぎが収まる気配が無い。
しょうがない俺もフォローに回るか、と思ったのだが……。
「黙りなさい愚図共! 文句が有るなら、あんたが仕切りなさい!」
「いや……そのぉ、俺以外にも相応しい奴が居るんじゃないかな~って」
「ふん、意気地の無い、やる気が無いなら最初から大人しくしてなさいよ。さあ、話を続けてちょうだい」
「あっ、ああ、ありがとう九条さん」
九条さんかっけー、俺の出番は無かったよ。他人が出来ないことを平気でやれる、そこにシビレる憧れるってなもんだよ。
「じゃあ、さっきまでのところで何か意見はあるかな?」
「あの、先ほどの3つの内、2つ目は保留でいいと思います。まずは、生き延びることが重要かと」
須長の問いに古手川さんが提案する。俺も完全に同意で、今は最終目標を話し合う段階ではないと思う。もし目標が異なり、仲違いでもしよう物なら最悪だしな。
「またいい子ちゃんぶって、そんなに褒めて欲しいのかしらね」
「やめろよ、琴音は良かれと思って、提案してるんだぞ!」
「うっせーよ、ハーレム王! ハーレム王は……ぷぷっ、黙ってろよ」
誰かのヤジに、天間くんが古手川さんを擁護するが、またもやバカが茶々を入れる。
正直ウザイ、スキル分配の話し合いの時は、須長達に賛同してただろお前ら。
「ハーレム王って……なっ、何のことかな?」
「知らばっくれてもダメだぜ! お前らの考えてた事、みーんな知ってんだよ」
どうやら、隔離されていた天間達は、例の暴露を聞かされていなかったようだ。
「済まない天間くん、僕が君達に頼んだばっかりに……。スキル説明の後にな、隔離されていた君達の、心の声が皆に知られてしまったんだ」
それを聞いたリア充4人組の顔は、瞬時に真っ赤に変わり、黙り込んでしまった。
「須長は悪く無い、あのくそな白フードの所為だし、天間達4人が考えてたことは別に悪いことじゃねーだろ。それに、スキルの件は話し合いで決めたことだし、お前らだって賛成してたじゃねーか」
「俺達はあいつらに騙されてたんだよ、あんな事考えてるなんて知ってたら賛成なんかしなかったさ!?」
「はぁ……これは客観的な意見が必要か。高藤、お前はどう思う?」
速水よ……急に振ってくんなよな。
「そっ、そうだな……俺も思ったよりまともだと思ったぞ。誰だって他人に褒めれれたいし、男だったらモテたいのは普通だ。好きな人には好かれたいもんだし、恋愛に性別は……まあ個人の自由だよな……」
「なんで最後だけ、自身無さげだよ!? 恋愛に性別なんて関係無いに決まってんだろ!」
決まってねーよ。まさか速水……お前マジか?
いや今はそんな事、追及してる場合じゃないな。
「とっ、とにかく、あいつらに何を期待してたんだか知らないけど、第三者の俺から見れば、あいつらに間違った行動は無かったと思うぜ」
「急にしゃしゃり出てきやがって、おっ、お前は誰だ。そんな凄んだって、こっ、怖くなんかねーんだからな」
凄んでなんかない、これは素だ。俺の顔ってそんな怖いのか? なんか今後が心配になってくるんだけど……。
「俺は転校生の高藤誠司だ、よろしくな! っと、それは置いとくとしてだ、他人を責める前に、今は決めるべきことがあるんじゃね?」
「そっ、そんなん知るか! この俺達の怒りどこにぶつけりゃいい!?」
駄目だなこれは、どうあっても生贄が欲しいようだ。こんなんだから虐めが無くならないんだろうな、きっと。しょうがないな、この話を出すか。
「居るだろ、お前ってカードを奪われたんじゃないのか? スキル1個しかなかっただろ」
「ふっ、俺をそこらの雑魚共と一緒にすんじゃねえぞ。あの白フードが怪しいのは分かってたからな、どっちに転んでもいいように、愛恋好に預けたのさ」
マジか、このバカが気づいたとは思えないから、その愛恋好って娘が気づいたのだろうな。
口車に乗せて、カードを奪っただけなのかもしれないけど、どっちにしろ要注意だぞその娘……。
なんか、ちょっとこのバカが哀れに思えてきたんだけど。こういうの知らぬが花って言うんだよな。
周りを見渡すと皆、調子に乗ってる上原を可哀そうな目で見ていた。
「おっ、おう……そうだね、お前はいろいろ凄いよ。ええーっと、すまん速水、これ以上は俺には無理だ」
「ああ、うん、これはしょうがない、意見は助かったよありがとう。須永、この状況どうする?」
「その前に一つ聞きたいんだけど、カードが奪われたってのは本当なのかい? 庄司さんの心の声を聞いて、まさかとは思っていたけど……」
「ああマジだ。俺の親友の忍も、朝倉達3人に奪われたって聞いたよ。今、何人か居ないだろ? たぶん皆、カードを奪われた所為だぜ。あの白フード野郎、『スキルを得た者を転生させる』とか言ってやがったしな」
それを聞いた庄司達(ギャル共)と朝倉達の顔がみるみると青ざめていく。他にも数名、下を向いて黙り込む者がいた。
俺は失敗したが、須永と速水で話の流れを軌道修正してくれているのだ。
生贄が欲しいならくれてやる、転生後の生活を考えて必死だったのかもしれない。しかし俺達だって今、さっさと話し合いを進めて生き延びるのに必死なのだ。
やはり、団結するために明確な敵を作るのは手っ取り早い方法だ。だからこそ、いじめが無くならないのだろうけど、今回の場合は自業自得というものだろう。
「なるほど確かに5人足りないね、先生はさっきも居なかったから先生が勇者って事だろうし……4人もカードを奪われたって事か」
「ちっ、ちげーよ! おれらは……そう、あいつに貰ったんだよ。代わりに守ってやるって約束でよ」
「……黙れクズが、この場でどうにかする気は無い。俺はお前らを赦す気なんて、さらさら無いぞ。それ以上、言い訳するなら容赦はしねえ」
速水怖っ、今まで生きて来てこんな殺気を感じたのは初めてだよ。チャラ男達も逆らう気力を奪われたようだし、素人の俺でも、鳥肌が立つくらいに殺気が伝わってくる。
実際のところ忍ちゃんは、速水がカードを分けてあげて生きているんだが、それを伝えてやる義理も無いだろう。速水が怖くて口を出したくないってのもある。
「ということは、残りの3人のカードは庄司さんが?」
「違うのよこれは……あんな協調性の無い娘達に力を持たせるくらいなら、私が持っていた方が良いでしょ? 貴方達もそう思うわよね、ねっ、英瑠」
「済みませんマリ様……いいえ庄司さん、私達はもうあなたには付いていけません。そのお言葉を信じて付いて参りましたが、まさかあんな事を考えていたなんて」
と、ここでも生贄の儀式が。子ギャルの片割れもそれに頷く。
転生してからこの3人組、余所余所しい雰囲気があったが、とうとう仲間割れが始まったようだ。
ギャーギャーと言い争いが続いていたが、それを余所に須永が話を続けた。
「どうかな上原君、彼等に比べて天間君達の行動に何か問題が有ると思うかい?」
「確かにマシっちゃマシだな。まったくお前らには、譲り合い?の精神が足りねえ、俺と愛恋好を見習えってんだ。いい加減、仲間割れは止せよな」
ぶっ、わっ、笑っちゃダメだ。これでもこいつは、『神聖光剣』なんちゅうチートスキル持ちなんだからさ。
俺達が不毛な議論を続けていると、地面を叩くような「ドスン」という音と共に、誰かが立ち上がった。
「何時までも済んだことをギャーギャー喚いてじゃねえよ! おい朝倉、テメーらも付いてこい、どうせお前らと組みたい奴なんて居ねえだろうからな」
そう大声を上げたのは、不良達のボスだ。
彼はそのまま、自分の手下2人とチャラ男3人組を引き連れて、この場を離れて行った。
こいつに言われるのも癪だが、反論の余地は無い。
まあ、これだけすれば怒りの矛先も須長から移っただろう。余計な横槍で話し合いが中断することも少なくなるだろうから、さっさと話し合いを始めようじゃないか。
あとは頼むぜ委員長さんよ。俺はその時間を使って魔法を試す!
話し合いの最中も、早く使いたくてうずうずしてたんだよね。