1-6. 異世界へ、そして足りない2人
1時間ほどかかって、この場には居ない最大数スキル保持者の暴露タイムが終わった。
暴露と同時にスクリーンに表示されていた映像は、たぶん隔離されて直ぐの物だろう。
その時の、彼らの心の声と思われるものが流れたので、その要約について紹介していこう。
ちなみに、ご丁寧に各人の名前もスクリーンに表示されていた。内容が内容だけに憐れすぎる。
まずは不良3人組の心の声だ。
「生意気なんだよあのクソ共、警察もいねーんだ、俺の好きにさせてもうぜ。逆らう奴は皆殺しだ!」
「あの子も、この子も皆、俺の奴隷にしてやる。ぐへへ……おっと涎が」
「他の奴はどうでもいいが、椎谷さんだけは、野嶋と前澤から守ってやらないとな」
野島、前澤、佐々野の順だ。
佐々野だけは意外だったが、他は想像通りの下種い動機だった。
どうでもいいけど椎谷って誰? って感じだね。
お次はイケメンの天間大輝だ。
「こんな時でも冷静に対処する俺カッケー。異世界ってことは、もしかしてハーレムできちゃうんじゃね? ハーレム王に俺はなる! ってか」
まあなんだ、ハーレムは男の浪漫だよね、これは俺も非難できない。
「男共はどうでも良いけど、子猫ちゃん達はボクがしっかり守ってあげないとね」
これは、鷹塚凛の言だ、百合か? 百合なのか? ちょっとドキドキするんだが。
「これで皆より一歩リードだね。絶対良いところ見せて大輝をものにして見せるんだから!」
この気の強そうな娘は、桂木優花だ、好きな人に良いとこ見せたいって気持ちは解らなくはないね。
その小さな胸を張って、気合いを入れる姿は微笑ましいものがあるが、想い人がハーレム王って思うと、少し可哀そうに思えてくる。
「私は必ず皆さんを守ります。そうしたら、皆さん私を褒めて頂けるのでしょうか? たくさん褒めて頂ければいいのですが」
古風でクールな見た目の割りに、褒めて褒めて言ってたのが、古手川琴音だ。
要約しているのでこの程度だが、ちょっと病的なくらいに褒めて褒めて言っていた。よほど承認欲求が強いのかもしれない。
俺で良かったら一杯なでなでしてあげるんだが。頭とか豊かなお胸とかね……危ない危ない、今俺の頭の中を暴露されたらヒドイ目に逢うぞ!
で、最後の1人がギャルボス、庄司マリだ。気の強そうな、派手な感じの美人さんだ。
これまでの行動を見るに、性格のほうはちょっと……少なくとも俺の好みではないな。
「うふふふふ、これできっと、次の世界では私が女王よ! それまでは英瑠達とも仲良くしてあげなきゃ。カードを分けてあげたんだから、せいぜい私の役に立ってもらわないとね」
怖っ、ひたすら怖っ! 御付きの2人もびっくりだなこれは。
とまあ、こんな感じだったが、正直思ったよりはマシだったと言っていい。8人中、個人的にヤバそうなのは3人かな。
実際にこれらが彼らの本音かは不明だし、白フードの創作って可能性もある。
それでも、クラスメイト達に不信感を与えるには充分だろう。
「さあ皆、これで他人がどういうものか解っただろう。君らみたいな人を疑わない良い子ちゃんじゃ、異世界では生きていけないからね。これは僕からの最後の手向けとでも思ってくれたまえ。さて、これからスキルを得た者を転生させていく、さあ行くんだ子供達よ!」
白フードが叫ぶと、クラスメイトが1人ずつ消えていく。
俺が異世界を間近にドキドキしていると、クラスメイトの転移が止んだ。
あれ? 俺ともう一人、速水だけ残されたぞ?
「あー、君たち2人にはね、規定により追加で力を与える必要があるので、残ってもらった」
おお、それは嬉しいけど、どうしてだろう?
「カードが0枚になった相手に、自分のカードを分けたことさ。本来はそんなお人好しでも、生きて行けるようにとの救済策と、善行に対するご褒美を兼ねた物なんだ。どうやら、君達は打算あっての行動のようだが、規定は規定だ、力は与えなければならない。まったく面倒な」
謎の声が、ダルそうな感じでそう言うと、「ほいっ」という掛け声と共に、俺に何らかの力が宿ったような気がした。これだけで済むなら面倒でも無いだろうに……。
「それで君らは、相手のステータスを覗けるようになったはずだ。他の数名にも似たような効果の魔道具を持たせたが、それの上位互換に当たるものだよ、相手を見ながら鑑定したいと念じてごらん」
俺と速水は向かい合って、お互いを鑑定する。
念じてから1分ほどの時間が掛かったが、速水のステータスを見ることが出来た。
+『速水 好雄』【レベル1】-------------
| 肉体強度:45 (90)
| 身体能力:47 (94)
| 魔力容量:31 (31)
| 魔力制御:38 (38)
+-[スキル]-----------------------
| 異世界人、身体強化【大】、鑑定眼
| 槍適性5、気配察知4
+--------------------------------
スペック高いな速水。魔法が無いのはちょっと残念だが、槍適性5かぁ、近中距離で無双できそうだな。あれ、鑑定眼ってのはさっき貰ったやつだなきっと。
念のため俺のステータスも確認すると、やはりスキル欄に『鑑定眼』が増えていた。
「見れたようだね、ならばさっさと行くがよい!」
白フードの声と共に、俺の視界は闇に包まれ、意識は途絶えた。
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「おーい、起きろー(ぺしぺし)」
「うーん、あと5分……」
「ベタな事言ってんなよ、お前、転校生の高藤だろ?」
「あー、うん、誰?」
軽く頬をはたかれて目を覚ますと、どこかで見たような凛々しい顔の男が目の前にいた。
「さっきまで一緒だったろうが、速水だよ速水」
「たしかに似てるが……なんか当社比150%くらいかっこ良くなってるような気が?」
「やっぱそうなのか、俺だって信じられなきゃ、1回、周りの奴らも見て見ろって」
そう言われた俺が周囲を見回すと、武器を持って西洋風の革鎧を着たクラスメイト達が居た。しかし、その中に10人ほど見たことが無い者がいる。いや正確には、似た奴はクラスメイトに居たかもしれない。
「どういうことだ? これ」
「どうやら身体強化の恩恵ってやつらしい。お前も印象が違ってて、話しかけるのに勇気が要ったんだからな」
まじか、俺も今日からイケメンの仲間入りか? これで、但しイケメンに限るってのに泣かなくて済むのかもしれん。
「おぉ、もしかして俺も速水みたいにかっこ良くなってんのか!?」
「あー……うん……頑張れ!」
「なんだよその頑張れって!!」
「ちょっ、近い近い、怖いって!」
俺が詰め寄ると、速水が顔を逸らして逃げていく。
まさか……。
速水の反応に心当たりが有った俺は、いつの間にか右手に握っていた戦斧の刃に、自分の顔を移して確認する。
「ひぃっ、誰だこのヤクザ!?」
「お前だよお前!」
うん、解ってた、それでも認めたく無い物ってあるよね。
どうやら、俺の見た目も変わっていたようだ。コンプレックスだった三白眼はより一層に凄みを増し、見慣れたはずの自分の顔は、凶悪犯罪者も顔負けの凶顔と化していた。
「なあ、速水君よ。これはあんまりジャマイカ?」
「俺に言われても困るぞ高藤。あっ高藤って呼んでもいいよな、俺も速水で構ねーから」
「ああ、それでいいぞ速水、そんで今はどんな状況?」
「何処とも知れぬ森の中、目覚めた俺達は、途方に暮れているって処だな」
ふむ、確かにな周囲を見回すと、グループに別れて仲間内で話すものや、当てが外れて絶望に打ちひしがれている者など、色々居るが、建設的な話し合いをしている者はいなそうだ。
まあ、元々の中心人物があんな形で潰されたのだ、致し方ないことかもしれない。
にしても、これからこの36人で生き延びないとならんのか……あれ、36人?
どう数えても、自分を入れて36人しかいない。たしか40人居たはずだよな。
「なあ、速水。なんか人少なくないか?」
「気付いたか、見える範囲では36人、4人足らないね」
「見える範囲ではってことは、実際は違うのか?」
「ああ、たぶん38人はいると思う。見たんだろ俺の適正? でだ今見えない4人の中に、お前が助けた奴は居るか?」
確か速水は【気配察知4】を持ってたな。まだ慣れないだろうに、たぶんって程度には分かるのか、すげーな。
「そういや、俺が助けた神城は見当たらないな」
「やっぱりか、俺のほうは忍、幼馴染の出雲忍が見つからない。俺達みたいに何か言われて、隠れてるかもしれないな」
「ということは2人は隠れていると仮定して、残り2人はもしかして……転生の例外ってやつかな?」
たしかあいつは、クラスメイト達を送る時に「スキルを得た者を転生させていく」と言っていたはずだ。
「転生の例外か……俺は、転生せずにあのまま死ぬことがあるって、質問で聞いたから、たぶんそうなんだろうな」
やはりか、俺が知らないところでも、カードを脅し取られた奴がいるのだろう。直接関わった訳でも無いのに、少し申し訳ない気がしてくる。
俺が気付いてあげてれば……いや、無理だな。俺の手元に残っていたカードは2枚、足らない人数は2人、俺が気付いていても、誰か1人は犠牲になっていたはずだ。
まあ、過ぎたこと考えても、どうにもならないか。
「2人には可哀そうだけど、今は置いておこう。それより、俺達の力と、隠れているかもしれない2人について、他のクラスメイトには話したほうがいいかな? 俺は皆の事を知らないから、判断が付かないんだが」
「黙っておいた方が良いだろうな。俺達の力は余計な嫉妬を買いそうだし、2人は……なんというか、クラスで浮いていたからさ、隠れたい気持ちも解らなくは無い」
たしかに言う通りだな、後ろめたい気持ちも少しはあるが、黙っておくことにしよう。
「そっか、わかったよ。そんで、これからどうする?」
「俺は須長のところに行って今後の相談をしてくるよ。高藤は好きにしていてくれ」
速水はそう言うと立ち上がり、須長が居る方に歩いて行った。
さーてと、俺は所持品の確認でもしているかな。それが終わったら、せっかくの異世界だ、空間魔法を試してみるのもいいかもしれない。
ここはもう日本じゃないんだ、いつ危険に晒されるかも分からない。出来る限りの準備をしておくべきだろう。