表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/21

1-4. 狙われたボッチ達

 突然だがこれから、栄えあるボッチくん達を紹介していこう。

 まずは俺、言わずと知れた転校生である、特にコメントすることは何も無い。


 次に男の娘くんだ、速水を須長に取られてしまった所為か、憮然とした顔でつまらなそうにしている。

 そんな顔も可愛らしく見えてしまうのが、実に恐ろしい。


 次からは真のボッチくん達だ。


 まず1人目の九条さんだ。

 目元の鋭いシャープで美しい顔、スカートから伸びる黒のストッキングに包まれた御御足には、ハイヒールが実に良く似合いそう。

 両手を組んで仁王立ちする御姿には、風格すら感じられる。これでボッチなのはきっと、キッツイ性格の所為なんだろうな。


 2人目は名前も知らない眼鏡女子だ。

 その表情は、黒く長い髪と分厚い眼鏡で隠されており、近い位置の俺からでさえ窺い知る事は出来ない。

 背は小さいほうで、体型は驚くほどに華奢だ。ひたすらぼーっと突っ立っている姿は、プレーリードッグを彷彿させる。


 3人目は根暗が服を着て歩いているかのような男子だ。

 顔の造形は悪くないのだが、病的な顔色が全てを台無しにしている。背は普通なのだが、身体は全体的に細く、病弱な印象を受ける。


 4人目は特徴が無いのが特徴と言ってもいいほどに、まったく印象に残らない男子だ。

 中肉中背で、顔のほうも可もなく不可もない感じだ。唯一、注意深く周囲を観察する眼の力強さに、他には無い光を感じる。


 クラスメイト40人中、6人がボッチとか……このクラス、ボッチ率高くね?

 いや俺と男の娘くんは微妙に違うから、正確には4名だな。1割って考えると多いんだか、少ないんだかわからんね。


 と、ここまでボッチくん達の解説をしてきたのには理由がある。それは俺が、この中の誰かと交流を持とうと考えているからだ。



 最初に俺は、どこかのグループに混ぜてもらう事も考えたのだが、いろいろな理由で却下した。


 まず、女子グループに混ぜてもらうのは、こんな状況でどこの馬の骨とも分からない男子を、仲間に入れてくれるとも思えないので即却下だ。


 次に男子の上位グループに入るのもあまりしたくない。スキルの数という明確な差が生まれてしまった現在、パシリにされるのが落ちなので却下である。


 そうすると、消去法でヲタコンビ(オタク男子2人組)になるのだが、片割れのポッチャリ系は自分のことを某と呼び、もう片方のガリ男くんは拙者と呼んでいるのが聴こえてきた。

 正直このノリに付いていける自信が無かったため、敬遠させてもらった。


 どうでも良いことだが、このクラスのオタク達はどこかオカシイ。何というか古き悪きオタクの印象を、そのまま形にしたような感じなのだ。

 ヲタコンビは前述の通りであるし、腐女子3人組はチビ、デブ、ノッポと、某有名RPGに出てくる三姉妹を彷彿とさせる姿だ。

 全員メガネを掛けているので、メーガネ三姉妹とでも呼ぼうかと思っているくらいだ。


 ともあれ結局のところ俺は、消去法でボッチくん達と交流を持とうと決めたのだった。



 そんな余計ことを考えている内に、残り時間はもう30分を切ってしまった。

 ヤバいな早いとこ誰かに話しかけないと……誰にすればいいんだろうな?


 個人的には九条さんと仲良くなりたいところだが、流石にそれは無茶というものだろう。

 その選択肢を選ぶには、俺の勇気と伝達力のパラメータが足りていない。


 しかし、ぐずぐずしている時間的余裕も無い、俺は当たって砕けろとばかりに最初の1歩を踏み出す。

 そして、2歩目を踏み出す前に、良く通る怒声が俺の歩みを阻んだ。


「あんた達、いい加減にしなさいよ!」


「クソ女は黙ってろ! いいからさっさと寄こせよ古泉」


 運動部の男子2人組が根暗な病弱ボッチくん(古泉というらしい)に絡んでいたようだ。

 九条さんがそれを止めようとしているようだが、2人組の片割れに遮られて、思うように動けずにいるのだ。


「……わかったよ、でも僕以外には手を出さないって約束してよ」


「いいぜ~、俺らは優しいかんな、クククッ」


「そうそう、大人しく渡せば1枚は残してやるし、守ってもやるさ。まあ気が向いたらだけどな、ブハハッ」


 あー、やっぱりこうなるのか。


 ガラの悪い男子2人組が古泉(病弱ボッチ)からカードを奪い取り、1枚だけ投げ返して去っていく。

 こういう輩はどこにでもいるものだ、よくよく周囲を見ると、彼以外のボッチくん達にも別グループの生徒たちが接触している。


 最上位のリア充グループが居なくなったことにより、抑えが利かなくなったのかもしれない。

 上昇志向の高い準上位グループが、他人の風下に居ることの鬱憤を下位グループに押し付ける。そんな歪な関係が、どうやらこのクラスにもあるらしかった。


 正直、助けてあげたい気持ちはあるが、前の学校と同じ失敗はしたくない。力も無いのに粋がっても、碌な事は無かった。

 木乃伊取りが木乃伊になるって言うのは、厳しい現実ではよくある話だという事を、俺は嫌というほど知っていた。


将継まさつぐ……大丈夫?」


「心配してくれてありがとう、みやこちゃん」


「ばっ、バカ。幼馴染としてしょうがなくよ、しょうがなく! それより、ほら」


 九条さん(都ちゃん)はそう言うと、古泉(将継)にカードを1枚渡そうとする。


「貰えないよ、それは都ちゃんの物だ」


「でも、それじゃ将継が……」


「やっぱり都ちゃんは優しいね。さっきだって病弱な僕の為に、悪者になってまで走ってくれたんだよね?」


「そっ、そんなわけないじゃない! もう、いいわ……困ったら言いなさいよ、助けてあげるから」


「うん、いつもありがとう」


 もうこの2人は放っておこう、これ以上見てても俺が死にたくなるだけだ。

 取りあえず分った事で重要なのは、九条さんは意外に良い子だが、俺が入り込む隙は無いってことだ。



 俺が2人のぎこちないながらも、甘酸っぱい遣り取りにげんなりしていると、後方から「きゃっ」という可愛らしい悲鳴が聴こえて来た。

 振り向いて見ると、眼鏡ボッチちゃんがボスギャル率いる3人組に突き飛ばされたような構図だった。


「うふふっ、いい気味ね。クラス一の秀才さんなら、スキルなんて無くても大丈夫でしょ? これは私達が有効活用してあげるわ」


「……返してください」


「嫌よ、ここにはあんたを助けてくれるママは居ない。あんたの言う事なんて、これっぽっちも聞く必要は無いのよ。次に行くわよ、お前達!」


「「はい、マリ様!」」


 うわぁ、3枚全部持っていきやがったよ。人数的な理由もあるんだろうけど、集団になった女ってやっぱ怖いよな。


 3人組が飛蝗のように全てを奪い去っていくと、悔しそうに唇を噛んで立ち尽くす、眼鏡ボッチちゃんだけが残される。



 うーむ、これは拙いな。

 当初の予定だと、ボッチくんと交流を持ち、協力して異世界を乗り切るはずだった。それも、ボッチくん達が無力化されてしまうと話は変わってくる。


 予定変更して、ヲタコンビに合流するか? いやそれも、時間的に厳しいし……それに、1つ気になる事もある。

 あの謎の男は、カードを1枚は持っておくように推奨していた、それにこの転生に例外があるとも。そうなると、カードを1枚も所持していないのは危険な気がする。


 俺に、眼鏡ボッチちゃんを助ける理由は無い。いや、助けたい気持ちはあるが、少し理由としては足りない。

 だがどうだろう、もし俺の推測が正しければ、彼女にかなりの恩を売る事が出来るのではないか?

 助けたい気持ち半分、打算半分を足せば、彼女を助ける理由に足るはずだ。

 ああ、あと女の子に好かれるかもという下心も足せば、理由としては充分すぎるだろう。


 彼女を助けることを決めた俺は、意を決して話しかける。


「なあ、ちょっといいかな?」


「……なんですか? カードだったらもうありませんよ」


「それは分かってるって。まず最初に確認したいんだけど、君は今回の転生乗り気なのかな?」


 俺はまず、彼女に転生する意志があるのかを確認することにした。彼女にその気が無いなら、俺の行為は無駄でしかない。


「えっと、それが何か関係あるんですか?」


「大事な事なんだ、とにかく答えてほしい」


「…………あの家から解放されて、今度は自由に生きられるのかなって……実はチョットだけ楽しみにしてたんです」


 さっきのボスギャルも何か言っていたが、彼女は家庭環境に何かあるのかもしれない。

 まあ、転生後が楽しみだって思えるくらいだから、きっと大丈夫だろう。


 俺は自分のカードを1枚見せて、彼女との取引を始める事にした。


 俺はこれから、恩義という鎖で彼女を縛る。

 だからこそ、条件を提示した上で、拒否のできる取引という形にするのは俺なりの誠意だ。

 俺に誠司という名前を付けた爺ちゃんは、俺に誠実であれと願って誠司と名付けたのだから。


「そうか、なら取引と行かないか」


「……取引ですか? 今の私には何もありませんよ……あっ……えっ、まさか!?」


 その小さな身体を両腕で隠すようにして、俺から身を引こうとする彼女。


「待て待て、それは誤解だ! いったい俺がどんな奴に見えるんだよ!?」


「あの……その…………言っても怒ったりしません?」


「ごめんやっぱり言わないで、怒らないけど悲しくなるからさ」


 自分の目つきの悪さは自覚してるけど、正直ちょっとはへこむんだよ。


「あーそのな、もし良いスキルを得たら、俺が困った時に助けてくれってだけの話だよ」


「本当にそれだけで良いんですか? 後になっていろいろ要求したりとか……あっでも私の貧相な身体なんて……」


 面と向かって話して気付いたけど、黒髪とやぼったい眼鏡で隠れてるけど、この娘の顔はかなり整っている部類だと思う。

 なかなか警戒を解いてくれない姿も、野生のウサギみたいで、どうにかして手懐けたくなってくるし。


 これは正直に伝えておかないとフェアじゃないよな。


「まあ、仲良くなりたいって下心は否定しないよ。でも、無理強いはしない、それは約束する」


「えっと……そですか………あの、物好きなかたなんですね。わかりました、私も覚悟を決めます。助けになれるかは分かりませんが、よろしくお願いします」


 少し考えた後に彼女が承諾してくれたため、俺は右手でカードを1枚差し出す。


「オーケー、取引成立だな。はいよっ、俺は転校生の高藤誠司だ。これからよろしくな」


「ありがとうございます、私は神城志乃かみしろしのと申します。その……末永くよろしくお願いしますね」


 礼儀正しくお辞儀をして、冗談めかした答えを返した彼女は、躊躇しつつもその紅葉のような小さな左手でカードを受け取ってくれた。

 その時、彼女が浮かべた照れ笑いは、俺にはとても魅力的に映った。


「よっ、よし、まずは握手だ。コミュニケーションの基本は握手からってね」


 神城は少しだけ躊躇った後に、俺の右手を取ってギュッと握ってくれた。女の子の手ってなんでこんなに柔らかいんだろうな。

 俺も強くなり過ぎないよう彼女の手を握り、照れ隠しがてら上下に軽く振ったのだが、これが失敗だった。


 彼女の袖口から覗く右手首には、大きな躊躇い傷の痕が……。

 

 これは……見なかったことにしよう。他人の事情に首を突っ込むには、それなりの覚悟が必要だ。


「さて諸君、そろそろ時間だが準備は大丈夫かな?」


 神城の手を離し、白フードの声に振り向きスクリーンを見ると、残り時間は1分を切っていた。 


「いよいよスキル決定か、良いスキルが貰えるといいな」


「そうですね、これで2人とも駄目だったらどうしましょうか?」


「そんときゃ、協力してどうにか乗り切るしかないだろうな」


「1人より2人ってことですね……それも悪くないかもしれません」


 軽い雑談をして過ごすと、スクリーンの残り時間が0を示した。


 さて、カードは減ってしまったが、最悪の事態は避けられたとは思う。

 あとは貰えるスキルがチートな奴だと良いんだけどね。




カード(スキル)の強奪を、主人公は2件だけ目撃しましたが、実際にはもっと起きています。

この物語では、基本は主人公視点で進めていきますので、裏で起きていることは、後になって分かるパターンが多くなります。

クラスメイト視点の話は、少しだけ予定にありますが、それほど多くはならないようにするつもりです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ