1-1. 自己紹介をさせてくれ
「よーし、皆、席に着けー!」
教室の扉を隔てた先から、若い男性教師の声と生徒達がざわめく声が、廊下に立つ俺にも聴こえてくる。
俺の名前は、高藤誠司、今日からこの学園の2年F組に入る転校生だ。2学期のこの時期に転校してきたのは、ひとえに親の仕事の都合である。
前の学校では、ある理由により灰色の学園生活を送らざるを得なかった俺だが、この転校を機にバラ色の学園生活を手に入れてやると、心に決めていた。
親の転勤を知ってから今日までの2ヶ月間、毎日のように続けている、腕立て・腹筋・スクワットの効果もあり、身長は170そこそこと平均的だが、そこそこ引き締まった肉体になっているはずだ。
それに、髪型は清潔感を重視して短髪にし、眼鏡はコンタクトに変えている。服のセンスには自信はないが、幸いこの学園は制服であるため、取りあえずは大丈夫だろう。
あとはこの転校生キャラという、話しかけられやすいポジションを生かし、受け答えさえ無難にこなせば、最低でもクラス内で中位層には食い込むことが出来るだろう。
「お前達、これからこのクラスに入る転校生を紹介する、静かにしとけよ」
教師がそう言うと、クラスの皆が騒ぎ出す。「女、女だよな?」とか「イケてる男子ならいいな」とか聴こえてくる。教師がもう一度、静かにするよう注意し、騒ぎが静まってきたころに、入るよう促される。
「もう入って来ていいぞー」
俺は教室の扉を開けて中に入ると、教壇の前まで進んで、これから仲間になるクラスメイト達を見回す。
クラスメイトは40名程度で、男女はほぼ同数のようだ。パッと見ただけでも、ハッとするような美少女が何人も居る、これからの学園生活が楽しみだ。
(あっ、今「なんだ男かよ」って舌打ちした野郎と、「目付き悪~」って言った女、覚えておくから覚悟しておけよ)
目付きの悪さは結構気にしていた。この三白眼の所為で、何度も不良に絡まれたことがあるほどだ。
何事も最初が肝心、第一印象は大事だからな、笑顔だ笑顔。
俺の笑顔に、何人かの女の子が「ひっ!」って恐怖の顔を浮かべたのは気のせいだと思いたい。
「それじゃ、軽く自己紹介を頼むぞ」
俺はここ一番の笑顔で、気合いを入れて教壇の前に立ち、
「はい、僕の名前は…………なんだこれ、魔法陣!?」
と、自己紹介を始めると直ぐに、教室の床に光る魔法陣のような紋様が浮かぶ。
クラス中が騒然とする中、魔法陣が光り輝き、隣に立っていた男性教師を飲み込んだ。クラスメイト達も同じように消えていく。
こういうシチュエーションのラノベを読んだことはあるが、いざ当事者になってみると、動転して何もできないもので、結局は俺も光に飲み込まれてしまう。
(せめて、自己紹介くらいさせてくれよぉぉぉーーーー!)
俺は、光に飲まれ落下する感覚の中で、至極どうでもいいことを心の中で叫んでいた。