1-X. プロローグ
(参ったな……せっかく転生したってのに俺の人生、これで終わりか?)
森の奥から、見上げるほどに巨大な黒い何かが、木々の影を泳ぐように音も無く近づいてくる。
そいつが通ると、たった今まで俺達が苦戦していたはずの魔物は、眠るように静かに倒れ伏す。
俺のほうはと言えば、魔力は底を突き、傷ついた身体はちっとも言うことを聞いてくれない。
あんな化け物と戦う余力は無い、追いつかれた瞬間に俺の人生は幕を閉じるだろう。
まったく、力が有るからって殿なんて引き受けるものではないね。
結局のところ俺が甘かったのだろう。波風を立てたくなくて、全てをなあなあで済ませてきたつけが、とうとう回ってきたのだ。
黒い何かが近づくにつれ、それが狼の形をしていることが分かってくる。
依然としてその輪郭は、影のように薄ぼんやりとしているものの、そこには確かな存在感が有った。
俺の目の前で立ち止まった巨狼は、その顎で俺を一飲みにしようしている。
(これは、本格的に終わったか…………結局、彼女には会えず仕舞いだったけど、却って良かったのかもな。結局、こんな事になっちまったんだしさ)
世界がスローモーションのようにゆっくりと流れる中、俺の脳裏にこれまでの出来事が走馬灯のように駆け抜けていった。