第803話 隙をつかれた
その夜、唸りながら首を傾げていると心配したリズに問い質されてしまった。
「皆心配しているけど、どうしたの? 建築に不備でもあったの?」
そんなリズにタロとヒメの事を伝えると、一瞬呆れたような表情を浮かべた後に、深刻な顔になった。
「こんな忙しい時期にって思ったけど……。確かに不可解……」
なでなでとリズがヒメを撫でると、目を細めたヒメがひょいっと膝の上に乗って、ぺろぺろと舐めだす。
「そもそもそういうのって、本能だけでどうにかなるものなのかな……」
私が疑問を提示すると、結局二人で首を傾げてしまう。
云々と唸っている事、三十分程。
結論としては、あの方しかいない。
「ペールメントかなぁ……?」
「ペールメントだよぉ……」
高貴な澄まし顔を思い出す。
あのお婆ちゃまなら、タロとヒメに教育を施している可能性はある。
まだ一歳を超えたくらいなので早いかなと思っていたが、ペールメントの考える規格では順当な時期だったのかも知れない。
「年齢とか、体格的には大丈夫なの?」
心配気にヒメを抱きしめるリズ。抱きしめられた本人は全く分かっておらず、幸せ感をびしばし出しながら、尻尾をぱたぱた振っている。
「それもヴァーダ様に確認したんだけど……」
『はい。もう、ちょーじゅんちょーですよ? あら、ダジャレになってるぅ!!』
「……それは……良かったと思うよ?」
若干疲れた表情のリズに、私も疲れた表情で返す。
家族の心配をしているのに、能天気で返されると、ちょっともにょっとするのは理解されたようだ。
すくすくと栄養の偏りも無く育ったタロとヒメは野生の狼に比べてかなり体格が良く、生育も順調なようだ。
よって、妊娠出産に伴うリスクは限りなく軽減されている。
それに……。
『チェテフェが鼻息荒くだいじょーぶって言ってましたから、大丈夫ですよー。ふんすって言ってました。ふんすっ……っぷ、くすくす』
出産を司る神様のお墨付きなら心配ないだろう。
それを告げると、リズも安心したようにぷにぷにとヒメのお腹を撫でる。
「そっかぁ。なら安心だね。でも、先越されちゃった……」
リズがちょっと残念と言った表情で、タロとヒメを見つめるが、二匹とも無邪気に見上げてくるだけだった。
「でも、いつの間になんだろうね?」
リズが首を傾げてくるが、それは私も疑問に思っていた。
昼間は私達かアンジェが付いているし、夜だってどちらかが一緒に寝ている。
そんな気配があれば、間違いなく目が覚める。
再び、忘却の彼方にダイブした二人だったが、暫くしてはっと思い出す。
「あぁー!!」
「あれだ!!」
目を離したと言えば、隣国旅行の際のあの時。
二匹だけ、別室でお世話されていた。
朝起きた時、ちょっと様子がおかしかったけど、慣れない旅の所為かなと思っていた。
「はぁ……。起きるべくして起きたんだね」
リズの言葉に、やっと消化不良が解消され、苦笑を浮かべながらベッドに横たわる。
「こんな時だけど、こんな時だからこそ、新しい命のために頑張らないとって思える」
私が告げると、そっとリズが抱擁してくれる。
「私もって言ったら、怒る?」
「怒らないけど、忙しさに拍車がかかりそうだから、せめて今回の件が終わってからかな」
そんな事を告げながら、抱擁し返す。
疑問は解消され、無意味な夜更かしで夜は更けていく。
接敵までもう少し。
頭の中の冷めた部分で認識しながら、改めて戦略及び戦術の整理を開始した。




