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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第三章 異世界で子爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第802話 無駄にもこもこ

 有事体制に入った『リザティア』は文字通り興奮の坩堝と化した。

 表向きはいつもと変わらない雑多で陽気な町中。

 だが、その住人達の心の中に灯り、そして広がっていく炉の中のような沸々とした熱意は狂おしいまでにその性能を引き出していく。

 演説を伝え聞いた住人達は職場で我が家で酒場で密やかにして声高に伝えあう。

 家族を友人を『リザティア』を守るには?

 そう、防衛行動に参加しなければならない。


 私は呑気に『リザティア』郊外、朱雀門を出て町の南東に兵の皆と赴いていた。

 要塞化そして塹壕化のための縄張りを行うのだ。


「要塞……。砦は分かります。塹壕の利点が分かりません」


 塹壕戦というのは平地で二次元の戦いを行っていた者には少し難しい概念だ。


「例えば矢は遠距離では弓なりに飛んでくるし、近距離になれば直線で飛んでくるよね……」


 そんな例えを交えながら、塹壕、戦場に上下の概念を持ち込む利点を説明していく。


「相手が上から剣で突くより、下から長柄の物で突く方が安全だし力の入り方も違うよ」


 地面に図式化した塹壕戦を描きながら理解を求める。


「クロスボウの弱点は射程だけど、近づいてくるまで防御を固めておけばいい。相手は弓なりの軌道しか描けないのだから」


 暫く説明していると、理解してくれたのか共感が広がっていく。


「という訳で土魔術で土地を上げていくから。その縄張りを頼む」


 整然とした蟻の巣のような設計図を配布し、その縄張りを開始する。

 当初は人海戦術によって掘り進める事も考えたが、時間が足りないのと情報漏洩が怖くて諦めた。

 本当なら消せない土魔術の投入より、埋め戻せる方が良いに決まっている。

 それでも、信用出来る者と最小限の情報のやり取りだけで済ませる方がましだと判断した。

 それに今まで『リザティア』の外部に防衛拠点が無さ過ぎた。

 戦後は塹壕部分を埋めてしまい、城門のように活用しようかなと考えている。


 丸二日程かけて縄張りを済ませたら、まず南東部分をぐるりと石壁で囲む。

 これは戦域を固定するためだ。

 戦域まで遥か南東より、緩やかに勾配を設ける。

 土地が上がっているのを悟られないため、慎重に道を作っていく。

 そこまで出来れば、後は石壁の中に土塁を充填していき、立体迷路を完成させる。

 中央に馬車がすれ違って通れる程度の太い道を作っているが、これは殺し間だ。

 その殺し間に沿うように毛細血管のように張り巡らされた塹壕が出来上がった。


 久々に大規模かつ強度や形状を含めて魔術を使用したためか、『魔術制御』と『土魔術』が4.00の壁を突破した。

 正直、使いどころがないし実験も難しい。

 水や風なら良いのだが、後に残る土で試すのはちょっと怖い。

 ちなみに、県大会が行われるような陸上競技場に十階建てくらいの容量の体積を生み出そうと考えたのだが、全然いけそうなので慌てて構成を消去した。

 これ、もう頭上に出すだけで疑似メテオじゃねっと思ったのは内緒だ。


『ふぉ!! ままいたの!! つぎ、あっちいくの!!』


『たんさく!!』


 縄張り後の構築部分は一人孤独な作業だったので、タロとヒメを連れてきている。

 仲間の皆は訓練に忙しい。

 塹壕戦という新しい概念を取得するのに手いっぱいなようだ。

 特に馬車要塞を後退させながら狙撃し続けるロッサの部隊はかなり苦労している。

 動いている乗り物の上から狙撃するのは、また違った難しさがあるようだ。

 という訳で最近仕事にかまけて中々世話が出来なかった二匹を遊ばしていたのだが、いたく塹壕を気に入ったようだ。

 ててーっと走って行って、色々探索した後に帰ってきて私を見つけると、尻尾をぶんぶん振り回しながら飛びついてくる。


『ひろいの!! はしれるの!! まま、さがすの!!』


『うよきょくせつ』


 ヒメがびしっとうぉふうぉふしている。

 でもそれだと辿り着けないよ、ヒメ。


 と、よく見てみると、ヒメが何だか丸い。

 無駄にもこもこしている気がする。

 換毛のシーズンでもないし、太ったかなと思って持ち上げてみると、ずしっと重さが腕にかかる。

 すかさずぺろぺろと舐めてくるのを避けながら、ご飯をあげすぎたかなと首を傾げる。

 取りあえずアンジェに確認してみようと思いながら、強度と経路の最終確認を終えて、館に戻った。


「そうですね……。私もそう考えていました」


 戻ってアンジェに聞いてみると、アンジェも異変には気付いていたようだ。

 最近食べる量が増えているらしい。

 運動量も変わっていないし、ストレスがかかるような環境でもない。

 そもそもタロに変化が無いのに、おかしいなという感じだった。


「考えられるのは……」


 続けられたアンジェのセリフに、私は目を丸くしてしまった。



『ヴァーダ様、それともシィベギルセ様なのかな? いらっしゃいますか?』


『はいはーい!! ヴァーダですよー。どうしました? お客人』


 豊穣を司る神の頭の中で響く甘ったるい間延びした声に懐かしさを感じる。


『お久しぶりです。ちょっと確認したい事がありまして』


『おぉ、私という事は、そろそろ子作りですか? シィベギルセの次は私だってチェテフェが言ってましたよ?』


 婚姻を司る神シィベギルセには結婚式でお世話になったが、出産を司る神はチェテフェというらしい。


『いえ。それは追々で。実は……』


 タロとヒメの様子を伝えてみると、あっけらかんとした様子の答えが返ってきた。


『あぁ、家族ですもんね。はい。ぱんぱかぱーん!! おめでとうございます。無事妊娠中です。母子共にすくすくですよ!!』


 その言葉に、再度目を丸くしてしまった。

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