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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第三章 異世界で子爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第797話 アクチュアル・シミュレーション・ウォーゲーム

 迎撃プランをノーウェに提示したのだが、疑念を覆すほどのプレゼンが出来たとは言い難い。


「口で聞いても良く分からない……。それで多勢に対して対策出来るのかい?」


 ノーウェ程の卓越した天才でも、新戦術に関してにわかに理解出来るものではない。

 私はテーブルの上に板を敷いてもらい、土魔術を行使する。


「これは……。戦場を城塞化……するのかい?」


 テーブルの上には土魔術で作り出した箱庭(ジオラマ)が浮き上がる。

 会戦可能な平地に張り巡らされた、無数の攻性陣地。それを縦横無尽につなぐ塹壕。

 ざらりっと敵軍の駒を部隊単位で適当に作り出し、箱庭の上に並べていく。


「こちらの手勢の弓は特殊です。まっすぐに撃ち出す事が可能とお考え下さい」


 こちらの兵士(ポーン)には兵種によって、武器を持たしている。

 見覚えがある風景だなと思ったら、日本でいうところのアクチュアル・シミュレーション・ウォーゲームだな。


「現在、二千からの兵士が会戦可能なのはこの辺りと想定しています」


 地図でトルカから『リザティア』の間で林が途切れた辺りの空間を指差す。


「その戦場をこうやって、作り替えます」


 と、箱庭を指差す。


「大規模な兵団は融通が利きません。こちらが迎撃に面していれば必ず対峙しなければならなくなります」


 箱庭の周囲は岩壁に囲まれ、そう簡単には崩せない。将来的にはこの岩壁を使って休憩所でも作ろう。


「特に耳目である斥候がいないのです。こちらの作戦は分かっていても嵌まります」


 私の言葉に、ふつりと考え込んだノーウェがこくりと頷く。


「王家側に詳細を知らせたくないのだろうね。領地に拘束しているという話は聞いている。背任の疑いらしい」


 その言葉に笑いが込み上げてくる。疑い、疑い。戦後に王家に頭を下げつつも恫喝する狙いか。


「では、軽くゲームを楽しんでみましょうか?」


 私は希代の天才ノーウェに四倍からの兵を任せる事にした。


「では、高地からこう、撃ちおろします」


「それは無いんじゃないかい? 鎧を貫くんだよね?」


「はい。あ、こちらは壁と盾で矢を防ぎながら動きます」


「むー!!」


「では、こちらに進んできた兵士の足元に……」


 私は鉱魔術で作り出した物をノーウェに見せる。


「こんな物が絡みつきます」


 つんつんとそれを突いていたノーウェが絶望的な表情を浮かべる。


「これは、どのくらいの空間に広がっているんだい?」


「この辺り全体ですね」


 私は箱庭の一角に、くりんくりんと小さな蔓状のものを配置する。

 その様子を見たノーウェが顔を覆って、天井を仰ぐ。


「まともな進軍もさせない気かい?」


一方的な(ワンサイド・)ゲームですから」


 そして兵士達が出揃い、各地で苦戦している中。後方で指揮している陣幕の後ろに現れる新たな伏兵。


「えー。いや、待とうよ。これは、ずるい。ゲームにならない!!」


「そりゃそうですよ。やるのは……」


 にこりと笑いかける。


 もう覚悟は済ませた。自分を殺しに来る人間(オーク)を殺す経験は積んだ。

 小便は済ませたし、神様に『祈祷』する準備も完了だ。

 部屋の隅でガタガタ震えて命乞いをするなんて日常茶飯事だ。

 ならば……。


おしおき(虐殺)です」


 私の笑いに、一瞬難しい表情を浮かべたノーウェはきりと噛み締め、破顔する。


「これが、これこそが、戦争の形か」


「はい。三千世界の烏を殺す新しい戦争の形です。魔術師が兵士が、有機的に一つの歯車となる」


 陣幕の後ろの兵士をずりっと移動させ、陣幕を倒した。


「狂乱の宴です」


「分かった。分かったよ……。これならば……」


 箱庭を見下ろしたノーウェが戦場を見下ろす神のように厳かに告げる。


「勝てる」


 意識が合致した段階で、握手を交わす。


「物資に関しては問題無いかい?」


「元々『リザティア』に集積しているものはありますし、矢玉の限界程度でしょうか?」


「ならば、それはこちらで請け負おう」


 ノーウェがとしんと力強く胸を叩きながら誇らしげに告げた。


「子に出来る事は何でもする。それが親の務めだ!!」


 こんな狂気に当てられているのに、なんて気高い思いなんだろう。

 私は厳かに頭を下げて、最敬礼を取る。


「ちょ、どうしたんだい!?」


「敬うべきを敬う。親であるとか、子であるとかは関係ありません。ただ危地に当たり、差し伸べられる手こそ、真実の救い」


 私は朗々と謳う。


「本当にありがとうございます」


 そんな私に跪き、手を取るノーウェ。


「やめたまえ。まだ子も知らぬ私だって分かる。守りたいと思う気持ちこそが、大切なのだと」


 と、そんな瞬間に響くノックの音。

 二人で扉の方を向くと、誰何もないのに開かれる扉。


「ふむ。取り込み中であったか?」


 じっとこちらの様子を見て、卓上を眺め、数瞬瞑目し、こくりと頷くダンディ。


「急ぎかと思って老骨に鞭打って駆けてきたが……」


 じぃっとこちらを悪戯っ子のように見つめたと思うと、破顔するその姿。


「いらぬようだな」


ロスティー様(父上)!?」


 二人の驚きが、木霊した。


リハビリで書いている作品です。

こちらもお楽しみ下さい。


おじさんとJKと異世界 ~お気楽異世界生活~

https://ncode.syosetu.com/n8655et/


TRPGみたいな世界で僕は運命のダイスを振り続ける!

https://ncode.syosetu.com/n6639er/

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