第794話 作戦成就のために
ちょっと困ったのが……。
『まま、どこいくの? いっしょにいくの!!』
『さんぽたいき!!』
タロとヒメの二匹の処遇だ。本当は馬車で帰ってもらおうかと思っていたのだが、最近ちょっと忙しくてあまり構えなかったのが裏目に出たのか、ひしっとしがみ付いてくぅんくぅん鳴いている。
もう体長も大人並みなので立ち上がると、肩に顎が乗る。前足と顎を肩にかけて、ふんすふんすともみあげに鼻を当てながら、哀願染みた声を上げる二匹に皆も苦笑を浮かべている。
「あの……」
竜の一人が手を上げる。
「風で覆いますので、きちんと縛ってもらえれば大丈夫だと思います。落ちても風で拾えますし」
その言葉に、リズを顔を見合わせてうーんと悩む。ヒメはともかくタロは好奇心旺盛だ。空中でダイブとかやられると心臓に悪い。でも、両肩に乗る重さに諦めて同行を決める。
「じゃあ、皆、準備よろしく!!」
掛け声と共に、皆がそれぞれの目的地に散らばった。
日が明けて、まだ間もない時刻。太陽はフェイゼルの町の果てからやっと顔を出した程度。徐々に白み始めた空を横目に見つつ、ユーサルと強い握手を交わす。
「慌ただしい出立で申し訳ないです」
「いや、国の問題とは言え折角の機会に恐縮だ。しかし、本当にその軽装で先行するのか?」
私とリズの跨る筈の馬に乗せた荷物は最低限。どう考えても『リザティア』まで走破出来る量じゃない。
「途中で狩りもしますし、水は……」
ぱちりと指を鳴らし、面前に水の塊を浮かべ、ぽとりと落とす。
「魔術でどうにか出来ます」
私の言葉に微笑んだユーサルがそっと抱き着き、離れる。
「また、騒動が済めば懲りずに訪問して欲しい」
笑顔のユーサルに見送られながら、私達は出立する。馬車も同行させているが、これは途中までの見送りという形になっている。
三十分程馬を走らせ、路肩に止まった。ここまでくれば、飛び立っても町からは見えない。
「じゃあ、お願い出来るかな」
馬車に乗っていた竜達にお願いし、竜身を顕現してもらう。馬車から荷物を運び出し、リズの乗る竜に縛り付ける。私の方は……。
『ふぉ。ふわってしたの』
『かんきんちょーきょー?』
ヒメはどこにアクセスしているのか。まぁ、タロとヒメを詰めた木箱をしっかり竜に括りつけた。
「じゃあ、後は頼むね。『リザティア』の方は何とかしておくから」
馬車に乗った仲間達に告げ、竜に跨る。
仲間達の声に後押しされるように、ふわっと竜達がゆっくりと舞い上がる。そのまま一気に高度を上げて、一路『リザティア』に向かって飛び出した。
『ふぉ、ふしぎなにおい。ふわふわするの!!』
『ようとう……ふらふら……』
箱の隙間から鼻を突き出した二匹が、くんくんと空の空気を浴びながら好き勝手な事を考えている。流石に四時間も閉じ込めるのは可哀そうなので、蓋を開けると仲良く顔をぴょこっと出す。
『ままなの!! ふぉ、へんなの? くんくん!! へんなの!!』
『ちゅういじゅうよう』
飛び出さないように手を当てていると、にじにじ避けて二匹が箱から出て、こちらに寄ってくる。個人的には怖いので体を縛り付けているが、二匹にとっては普通の足場なのだろう。怖いもの知らずだ。
『りゅうなの。ふぉ、つちないの? くんくん、ふしぎ』
タロがてしてしと竜の背中を叩き、ヒメは私の体の腹側に潜り込んで丸まる。パニックを起こすかと思ったが、案外冷静だ。
そんな感じで、一時間程度ごとに休憩を取り、『リザティア』に急行する事になった。
ちなみに、慣れた段階で箱を開けたまま飛び立ってみたのだが……。
『ふぉ、びゅーなの!! はやいの!!』
『くうちゅうゆうえい!!』
人間よりも豪儀だなと、改めて感心した。
『見えてきました!!』
最後の休憩を終え、一時間が経とうとする頃、見覚えのある道が見えてきたと思ったら、竜から念話が入る。眼下に小さく見える、升目と五芒星。
多くの敵を屠らんと……守るべき民の安寧の証のために。『リザティア』よ、私は帰ってきた。




