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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第三章 異世界で子爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第785話 町の中の様子

 ローマ街道に慣れた身からすると、石を乱雑に埋めて踏み固めたような道を馬車で進んでいくと、大きな門に着く。随所を金具で補強された門は何ものをも阻むような威容を晒している。


「ワラニカ王国のアキヒロ子爵ですね。確認致しました。お通り下さい」


 先触れが通っているにもかかわらず確認をするのは、特別扱いはしないぞという無言の圧力なのだろうけど、後ろに入るのを待っている人が沢山いるのでさっさと終わらせて欲しかったなと。商家の人の心証を悪くするのは嫌だ。


 横の通用門ではなく、大門がぎしぎしと音を立てながらゆっくりと開くと、車列がやっと前に進む。別に通用門からでも入れるからそっちで良かったのにと思いながら、がたんと門の基部に車輪が乗り上げるのを感じる。


 門を一歩入ると、若干すえた匂いが混ざった人の営みの匂いがする。すえた匂いの理由は、壁際に家畜を飼っているのと、下水がしっかり運用されていないからだろう。逆にし尿をそのまま川に捨てた場合、どういう風に汚染されるのか知りたかったので、タイミングが合えば下流の方を観察に行きたい。


 そんな事を思っていると、前の馬車の御者台に座ったティルトがフェイゼルの騎士達と何かを話し、車列の向きが変わる。宿屋に向かうのだろう。がたんごとんと町中とは思えない揺れの中、周囲を覗く。


「『リザティア』と比べてしまうと、なんともで御座るな……」


「まぁ、どこもこんな感じですし。しゃあなぃ思いますよ?」


 ぽしょぽしょとチャットとリナが内緒話をしているが、聞こえている。日干しレンガを使っているのか、灰褐色の建物が多く、何となくさびれた感じは否めない。装飾にまで気が回らないのかそのまま使っているため、殺風景というか、少し寂しい。


「お店もそんなにないよね?」


 フィアがじーっと外を見ながら言う。道が狭いので、屋台なんかも出ていない。どこかにまとめてあるんだろうなと思っていると、公園のような空間が広がり、そこに色とりどりの出店が広がっている。


「ん? んん!? ちょっと……臭いです」


 ロッサが顔を顰めて鼻を抓む。時間的に正午なのだが、腐敗臭混じりの風が流れ込んできて皆がぱたぱたと空気を払う。市場として機能しているのだろうけど、清掃が行き届いていないのだろう。臭いが酷いのと、ゴミが散乱しているのが分かる。


 結局見所は壁だけかなと思っていると、坂道を上り、小高い丘の方に向かう。そちらに向かうにつれて道の舗装も良くなり、一軒一軒が広く、ゴミなども見えなくなってくる。


「山の手って感じなのかな」


 高い場所が地価が高いのはどこも一緒だなと思っていると、一軒の宿に馬車が吸い込まれていく。



「この店がフェイゼルで最も良い宿だそうです」


 ティルトの説明を聞きながら、チェックインの手続きを済ませる。向こうが護衛を付けてくれるという事なので、久々に皆でゆっくり寝られるなと。

 二階建ての宿の大半の部屋を借りて、荷物を下し、部屋に向かう。


 ドアを開けると、温かな雰囲気の解放感が溢れる部屋が広がる。取り急ぎと見てみると、トイレもくみ取り式のが付いていたので安堵した。


「あー、さすがにお風呂は無いね……」


 リズがかたんと扉を開けると、石張りの小さな部屋が広がる。どうもここで湯浴みをするらしい。


「まぁ、樽風呂で済ませよう。移動中ゆっくりお風呂に浸かる機会も無かったしね」


 冷え切った体を温めるために、食事よりまずは風呂だと、準備を始めた。


 仲間達の部屋もランクは少し下がるが、同じような雰囲気の間取りだった。そのため、ぽんぽんと樽やタライを設置してお湯を生んでいく。


 文官や兵の部屋に関しては、相部屋になっているので、幾つかの予備の樽を設置して交代するたびにお湯を埋めてもらう形で運用をお願いした。



「ふわぁ、温かい。生き返るよ……」


 ちょこんとタロかヒメみたいに樽の縁に顎を乗せて、リズが間延びした声をあげる。


「きちんと温まらないと、食事の時間もあるから風邪をひくよ?」


「ふぁーい。ぶくぶくぶく」


 楽しそうに樽に浸かるリズを横目に、私はタロをタライに浸ける。


『ふぉぉ、せまいの。でも、これすきなの!! おもいだすの!! ふぉぉ、まま、すきなの!!』


 タライ風呂に入ると、小さな時の事を思い出すのか、でーんと大の字になりながら、全身を揉まれるのをこれでもかと満喫している。はふはふと舌をだらーんと出したまま悶えている姿は、オオカミっぽさを全然感じない。抜け毛をまとめて、タライを洗うと、ヒメもタライ風呂に入れる。ヒメの方がちょっと早めに生え変わったのか、もさっと抜ける毛をブラシで丹念に梳いてざぱりと上げる。


『ふぉぉ。ぬくーなの。すき。でも、おなかすいたの。うまーほしいのよ?』


『しふく!! くうふく!!』


 二匹は十分温まったら、次の欲望に目覚めたのか、かつかつと石張りの部屋の中をうろうろしながらご飯をせがむ。私はそんな二匹にせかされながら、ささっと樽風呂に浸かって上がる事になってしまった。あぁ、折角お風呂に入れたのに。ゆっくり温まりたかったなと思い、タオルで体を拭うと、ドアからノックの音が響く。さぁ、食事の時間だ。


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