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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第三章 異世界で子爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第779話 引きずるほどではない

「壮観ではあるが……。数えるのが邪魔くさいな」


 ドルが十枚ずつの山を作りながらぼやく。取りあえず本当に一万ワールしかないのか確認が必要なので、ざらりと山を作ったのだ。


「十万ワール硬貨ならまだしも、百万ワール硬貨のやり取りは為政者が把握しますから」

 ロットが苦笑を浮かべながら告げる。

 『リザティア』の商取引において、百万ワール硬貨が動くような話や、それに該当する為替が動く場合、諜報が把握してくれている。詐欺行為がないかの確認と犯罪行為が無いかの確認が必要だからだ。これをやるために、大幅に諜報を増員したというのもあるが、お陰様で大きな犯罪は起こっていないので正解なのだろう。


「うわぁ、飽きたー!!」


 フィアがばたりと後ろに倒れてごろごろと転がる。それを見たタロとヒメが遊ぶのという表情で、ててーっと馬車から降りて近づき、はふはふとお座りしながら次の挙動を待っている。


「大きくなっても人懐っこいし。タロ達だけが心の支えだよ!!」


 そんな事を言いながら、フィアがてーっと遊びに行くのを苦笑して皆で見送る。


「百、百十……。二千百八十万ワールとちょっとですね」


 最後まで数え終えたロッサが報告してくれるが、私はちょっと途方に暮れた。


「犯罪者の捕縛ないし殺害の場合、獲得した物は領主への報告を以って所有権を得る……で御座るか」


 リナが刑法の条文を告げてくるので、こくりと頷く。


「領主って、ヒロだよね。ヒロが貰えるの?」


 リズの言葉に、改め苦笑を強めながら振り向く。


「『リザティア』も準拠しているから、そうなんだけど。中途半端に多いんだよね……」


 もっと少なければ、今回の作戦に参加した人間で山分けしてお小遣いとでも出来たのだが、ちょっと規模が大きい。かといって、予算に編入するには続く話でもないので、単発の施策になる。


 その事を伝えると、皆にも苦笑いが伝わる。


「使途自由金に編入させるんが、一番ええと思いますけど?」


 チャットが言うのだが、私はふむむと考え込んでしまう。


「あそこって、経費削減とかで出来た余剰を入れるのが主だったんだよね……。こんな金、入れちゃうのかぁ……。お金に色は無いけど、ちょっとやだなぁってね」


 揃えた山のまま、小箱に仕舞いながら呟く。


「じゃあ、もう諦めて使っちゃったら? どうせ外国の旅なんて、予想通りに動く事なんてないんだし。ちょっと贅沢が出来るって感じで」


 タロとヒメと一緒に走っていたフィアが帰ってきてお気楽な事を言う。ふむぅ。兵に頭割りしちゃうと他の兵との給与の差が異常に広がっちゃうけど、お小遣いとして都度渡す程度なら良いのかな……。


「分かった。まぁ、すぐにという訳ではないけど、ちょびちょび使っていこうか。皆にも穴を掘ってもらったり、色々予定外に働いてもらったしね」


 そう告げると、固唾を飲んでこちらの話を見守っていた兵から喜びの声が上がる。それぞれの自由になる荷物なんて僅かなので、個人で持ってきているのは財布くらいだ。限られた金額以上に使えると聞けば嬉しいのだろう。


 そうなると現金なもので、さくさくと後処理を済ませて、兵達が馬車を揚々と走らせ始める。

 結局休憩も最低限で済ませたので、予定より短いかと思っていた第一日目の旅程は問題なく消化出来た。



 小川のほとりに立ち並ぶテント。中央付近では赤々と焚火が舞っている。秋も終わり、冬が徐々に近づいている中、美しいだけではなく、どこかほっと出来る赤。

 本日は皆、頑張ったでしょうという事で、リズとロッサ、それにリナにも協力してもらって獲物をごっそり狩ってきてもらった。

 焚火を囲むように並べられた無数の鍋の中では鳥やイノシシ、シカの骨がぐつぐつと煮えている。

 兵達も馬車や武防具の手入れを男性が、採ってきた食材の調理を女性がそれぞれ凄い速度で処理している。ちなみに、男女関係なくどちらも出来るようになっているが、公平にじゃんけんで決めたらこうなった。


「じゃあ、お疲れさまでした。思わぬ事態もありましたが、問題が無かった事に安心しました。第一日目ということで思わぬ疲労もあるかと思います。食事で英気を養い、明日以降頑張りましょう」


 そんな言葉が終わると同時に、鍋の蓋がぱかりと開けられて、辺りに味噌や醤油の香りが暴力的な勢いで広がる。


 私は味噌牡丹鍋をよそってもらって、はふはふと湯気を吐き出しながら食べ進める。秋の味覚を食べ漁った獲物達は脂が乗りきっている。多少は臭みも出るが、味噌の香りと相まってそれも個性という程度に収まっている。


「あ、これ、おいしい」


「醤油の鍋だと、お肉なのにさっぱりして御座るな」


「こっちの味噌を塗って焼いたイノシシも美味しいです」


「ヒロー。おうどん、もう入れちゃっていいかなー?」


 がやがやと兵達と一緒に食べる機会も中々無い。おしゃべりを楽しみつつ、食事を済ませた。



 深夜。兵の方でも夜警は行ってもらっているが、私達も感覚を思い出すために、夜番に立つ。辛い中央の時間帯をリズ、そして私が担当する。


「交代だよ、リズ」


 焚火に当たりながら兵と話をしていたリズに声をかけると、軽く首を傾げられる。


「ちょっとだけ話をしてくるね」


 兵にリズがそういうと、ずるずると引きずって夜の闇に引き込まれる。


「ふぉ。えっちなのは無しだよ?」


 私がそういうと、リズが真剣なまなざしでこちらを見つめる。


「寝られなかった?」


 その言葉に、目を一瞬見開き、微笑みを浮かべながら、こくんと頷く。


「まぁ、そこまでは酷くない。きちんと頭では処理出来ているし、後は慣れの問題だから。やっぱり、自分の手で殺すとなると、まだまだ慣れない感じかな」


 そういうと、リズがそっと頭を抱え、ぎゅっと抱きしめてくれる。


「うん。ヒロがそういうなら、そうなんだろうね。前よりはずっとまし。安心した。でも、眠らないと体に悪いよ?」


「まぁ、頭が興奮しているだけだから。見張りしていれば、落ち着くよ。ちょっと兵の人と話もしてみたいしね」


 私が微笑みかけながらそう告げると、リズがふっと微笑み、そっと交差するように口づけを交わし、テントの方に向かう。


「眠れる、おまじない」


 そんな言葉が背後から微かに聞こえ、私はそっと唇に手を触れる。


「まぁ、まだまだなのは自分で分かっているから。少しずつ、慣れていくさ」


 私はそう独り言ち、焚火の方に歩いていった。

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