第777話 色々な積み重ねの結果
正式に異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろうの三巻が発売となりました。
巻末のQRコードを読み込んで頂ければ、今巻に収録出来なかったSSをご覧頂けます。
ページ数大杉で、追加のSSとか無理って言われました。しょんぼりです。
そのまま三十分ほど馬車を走らすと、レイが声をかけてくる。
「こちらでも認識致しました。まだ曖昧ですが、二、三十はいそうです」
その言葉に、背後の皆ががちゃりと武器を持つ手に力を籠める。残り三キロにも満たないということで、馬車を止め、フィアと軽装歩兵を前衛に、徒歩での進軍を始める。
一キロ程歩いた段階で、ラーズから報告が入る。
「騎兵の人は配置につきました」
かなり大回りに移動してもらったが、徒歩よりは余程早いかと。合図は精々派手に打ち上げようと考える。
レイの指示に従い、残りが二百メートル程になったところで、停止。陣形を組み直す。
私は先頭に立ち、大きく声を張り上げる。
「現在林の中で埋伏している諸君。君達は包囲されている。罪無き身であれば大人しく出てきて欲しい。もしこのまま隠れるというのであれば、容赦せず狩り出す!!」
一通り叫び、レイに確認してもらうが、動きは無い。というより、道側に寄ってきているので、まとまって抵抗する気だろうというのがレイの判断だ。
私は空に両手を広げ、花火をイメージした炎を打ち上げる。『術式制御』のぎりぎり。二百メートル程を斜め四十五度に飛んでいった火種はパァーンっと甲高い音を立てて爆発し、昼の青空に花を描く。
その瞬間、道の先、彼方から進軍の叫びが上がる。蛮声と微かに聞こえる蹄の音。隠れていた騎兵達が追い立て始めたのだろう。
「じゃあ、片付けようか」
私の言葉に合わせて、フィアと軽装歩兵達が疾風のように走り出す。陣形を維持したまま道を走っていた二小隊はある瞬間に、美しく散開する。どうも、逃げてきた賊達を発見したらしい。大きく迂回して鶴翼に囲むのは包囲殲滅を想定しているのだろう。
「騎兵相手に追い立てられてたら、こちらに逃げるしかないか。下の状況はどうかな?」
レギーに問うと、耳に手を当てて刹那。
「見える範囲の人影は包囲の内側だそうです」
その言葉に、後ろを振り返る。
「さてさて、兵の皆さんに獲物を食われつくす前に行きますか」
私がそう声をかけると、リナがずいっと前に出る。
「最近は訓練ばかりで鈍って御座る。先に参る!!」
そう告げると、上体を落とし、一気呵成に走り抜ける。
「じゃあ、護衛の方頼むね」
チャットとドル、リズは政務の人間達と馬車の護衛に回ってもらう。この三人でも過剰兵力だろうなと思いながら、ホバーの出力を一気に上げる。
「怪我に気を……」
リズの言葉が微かに聞こえ、こくりと頷きを返した瞬間、全てを置いて中空に駆け上がった。
乱戦のど真ん中に、どんと降り立った瞬間、天使が通ったように一瞬世界が静止する。人間が空から降ってくるなんて、誰も思わないだろう。こちらの軽装歩兵が経験上先に我に返り、隙を突いて相手を崩し始める。
私は真ん中で指揮を取っていそうな人間相手に射線が確保出来次第、圧縮空気の弾を飛ばし続ける。装備は貧弱で、辛うじて胸元を覆う革鎧というのが最高で、分厚い布の服という人間も少なくない。
そんな秋も深まった寒空の下、軽装な彼らの脛を次々と爆砕させていく。
「リーダー!! 追い込み終わりました!!」
ロットの言葉にふと我に返り、顔を回すとフィアが苦笑を浮かべている。
「ん。これで全員かな。リーダー、やりすぎ。連れていけないのに、中途半端なままで……」
数えると、レイが最終的に確認した二十六人。その内、騎兵に追い殺されたのが三人、フィアとリナ、軽装歩兵との交戦で殺されたのが十六人。後の七人は、転がって苦鳴を上げている。
「うーん。事情を聴くつもりだったけど……。こんなに捕虜はいらなかったかな」
流石に何度か同じような状況を経て、覚悟も決まった。特に何かを感じないまま、最も装備の良さそうな人間の両腕を爆砕させる。
「が!? がぁぁぁ……!!」
一際高い悲鳴を上げる男を周囲の六人が驚愕の表情で眺める。
「目的は?」
転がる男の頭を踏み、静かに問う。
「あがぁぁ……。さい……しゅ。ふゆ……ごもりの……さい……」
その言葉が耳に入った瞬間、両膝を爆砕する。
新たな痛みに声が上げられない男の頭をぎりと踏みしめる。
「二十人を超える男が林に隠れて採取か。冗談は程々にした方が良いぞ」
そう告げて、生き残っていた六人の内の一人の喉元に圧縮空気の弾を放つ。柔らかい肉を破り、喉の中央辺りに貫通した瞬間、一気に膨張、爆散する。
「け!? ぴゅー!!」
驚きの表情のまま、笛のような音を上げて、男がとさりと倒れる。
「特に語りたくないならそのまま死ねば良い。何か語るなら、それを残せば良い。もし有益であれば、未来が変わるかも知れん」
私が静かに告げると、がくりと足の下の男の力が抜ける。心が折れただろう事を確認し、最低限の治療をした後、残りの六人を軽装歩兵に引き渡す。
「大丈夫だった?」
私はロッサと一緒に馬車に戻る。
ロットとチャットは尋問に付いている。フィアは兵達の指揮を取りながら穴を開ける作業中だ。涼しいとはいえ、すぐに死体は腐敗するし、変な野生動物を呼ぶ訳にはいかない。ドルとリナも一緒に穴掘り作業に向かってくれた。
目前の心配そうな表情のリズの頭を撫でてから、そっと抱きしめる。
「まぁ、もう覚悟は完了しているから。大丈夫。きっと私達以外が遭遇した時には大変だったろうから。義務だよ」
私の言葉に、リズがそっと抱きしめ返してくれる。その温もりが心地よいなと思っていると、コホンと咳払い。
「どうなさいますか?」
ウィンク一つ浮かべたレイが静かに問うてくる。
「拠点が把握出来るなら、殲滅が必要かな。正直、こんなに治安が悪いとは思っていなかった。人がいない場所なんて思い込んでいたのが間違いだったかな」
現状はまだワラニカ王国領内。自分の庭先にこんな人間達が住んでいたとは……。驚きだ。
「どうも、通行料を取っていたようですね。良くある事なので、報告にも上がらなかったのでしょう」
尋問を終えたロットがこちらに向かいながら、伝えてくる。
「幾つか拠点を設けているようです。持ち逃げせんように報告はしているようなんで、異変は伝わる思います」
チャットの言葉に、眉根に皺が寄ったのを認識出来た。
「と言っても、全部じゃないんだよね?」
「この集団が所属する団体だけですね。それ以外にも幾つかは存在するようですが……」
「ダブティア側の方が多いゆう話です」
ロットとチャットの言葉に、はぁと溜息を吐く。
「こんな事が当たり前にならないようにしないと駄目だね。取りあえず、ワラニカに、『リザティア』に喧嘩を売ってもらった分に関しては」
周囲に皆の目を見つめる。まだまだ疲労は浮かんでいないし、義憤に駆られる様すら見える。はぁ、お人好しだな。私も含めて。
「殲滅しようか」
その言葉に、戻ってきた兵達も併せて気勢を上げた。




