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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第三章 異世界で子爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第766話 収穫祭2日目 ポン酒談義

 すぐその場で米についての話が始まりそうだったので、一旦各部屋で休憩してから改めて話し合いとした。だって、皆、目の色が変わってて怖かった。絶対に交易の品目に追加しろと言ってくる筈だ。加工品や私達が食べる分、それに来年の作付けに使う分を除けばそんなに量は無い。パニアシモに短粒種をもらっても味がどうなのかが分からない。ふぅむ……。初期ブースト分と言っていたけど、もう少し地球から持ち込もうかなと考えながら、至福の顔でほけぇとしているリズを部屋に運ぶ。


 すとんとソファーに座ると、はっと気付いたように視点が合う。


「気付いた?」


「美味しかった」


 極上の微笑みで呟くので、そっと頭を撫でる。タロとヒメは超極太の牛の大腿骨をもらって、ご機嫌でかしかしと噛んでいる。


『ふぉぉ!! きょーてきなの!!』


『ふぐたいてん!!』


 んー、ヒメはちょっと違うと思う。もういい加減体長も成狼並みになっているのに、仔狼みたいに後脚で支えて、これでもかと噛んでいる。本当に獣可愛い。


「お米、美味しいね。ヒロが好きって言っていたの分かった」


 少し落ち着いたのか、リズがハーブティーを淹れて、そっと差し出してくれる。そのカップを傾けながら、ほぅっと一息を吐く。


「好き……と言うのはやっぱり少し違うかな。もう、体の一部みたいなものだから」


「ふふ。私達のパンと同じだね」


 にこりと微笑んだリズがそっと呟くのに、こくりと頷く。そっと口付けを交わすと、リズがふわりと欠伸をする。それなりにお昼寝をしたが、まだまだ疲労が溜まっているのだろう。


「さぁ、まだ明日もあるし、今日はゆっくりとお休み。私は少しお仕事の話をしてくるから」


 私がそう言って、壊れ物を支えるようにそっとお姫様抱っこでベッドに運ぼうとするとそっと首に手を回してくれる。


「ふふ。ご馳走様です」


 リズがそう言ってふわっとベッドに転がるのを見届け、そっと蝋燭を吹き消す。すぅっと細い煙が蝋燭の残り火に照らされ一瞬立ち上るのが見えた部屋には、すぅっという寝息の音と、がじがじというタロとヒメのしがむ音だけが残った。


「お待たせしました」


 応接間に入ると、ロスティーとノーウェ、それにテラクスタがソファーにかけて、日本酒の杯を傾けていた。ぐい呑みを持つ手つきも様になっている。


「手数をかけたな」


 ロスティーの言葉にまずは深々と一礼する。


「楽しんで頂けましたか?」


 その言葉に、私を含め皆が破顔、爆笑する。形式ばったのはここまでだ。


「いや。米にも驚いたけど、先に一つ。寝所の枕と布団、あれは何だい? 軽くて、柔らかい。あれに比べれば、今使っている布団なんてパンの生地みたいなもんだよ」


 ノーウェの言葉に、若干笑みが漏れそうになる。まぁ、確かに煎餅布団なんて言葉もあるしな。


「あれは水鳥の羽毛を集めつ作った、布団です。軽くて通気性に優れ、夏は涼しく、冬は暖かいという布団ですね」


 その言葉に、三人が目を丸くする。冒険者の頃から集めていた羽毛だが、町が出来てから鴨を狩る人もいるので、買い取りをしていた。十分量が集まったので、夏の間にと奇麗に洗ってさっぱりと乾かした。もう洗うのも大変だし、広げて陰干しするのも大変だった。テラクスタが到着したと言う事で取り換えてみたのだが、案の定驚いてもらえたようなので満足だ。


「羽根のように軽やかなと比喩を使おうとしたが、間違ってはおらなんだか」


 ロスティーが杯をぐいっと傾け、楽しそうに告げる。


「先程もお伝えしましたが、日本酒はワインと然程酒精が変わりません。あまり深酒が過ぎると、明日が大変ですよ」


 そう告げると、そっとテーブルの上の肴を差し出す。燻製肉を炙った物や、スルメ、干しイカの炙った物など、日本で良く食べられる肴ばかりで少し面白い。


「これは珠玉だ。磨かれた石のように繊細でかつ一点の曇りも無い。感動した」


 やや大袈裟な言葉でテラクスタも絶賛する。慣れない酒で三人共酔っているなと言うのが分かった。ここまで深酒するのも珍しい。ビールは逆にアルコール度数が低いので、油断したのだろう。


「では、磨く前の物を試してみますか?」


 そう告げて、棚に置かれた瓶をひょいと掴み、開封し、新しいぐい飲みに注ぐ。とろりと言わんばかりの濃厚な真白がとととっと注がれていく。


「雪のような風情だな……」


 ロスティーがふわとした郷愁のような色を目の端に浮かべ、そっと口に運ぶ。


「甘い……」


 ノーウェが目を見開き、くいっと一気に煽る。


「濃いな……。それに穀物の香りも強い。雑味というよりも、もう風情と言うべきであろう。これはこれで、良い」


 何ともいえない色香の香る男の表情で、テラクスタが男笑いにぐいと空ける。


「ニ……ポン酒と言ったか……。ふむ……。せめてポンに略させよ。ポン酒の表情は千変だな。飲むたびに、加工のたびに、共にする料理のたびに表情を変えるな。命の滴といった気持ち、分かる……」


 酔ったロスティーが普段見せない、酔客の適当さを見せる。今日は商売の話はせずに、ゆるりと楽しむべきだろう。そう思いながらも、今は聞く事の少なくなった略称をこんなところで聞く事になって、笑いが込み上げてくる。日本酒の消費量が低迷してから、ポン酒なんて呼び方とんと聞く事も無くなった。あの親しみやすい、懐かしさに、涙が溢れそうだ。


「ぶどうを薬と、時の恵みと呼び大切にするのと同じ、我が半身と米を呼ぶのと同じですよ」


 私が米の話を振ると、ノーウェがにこりと微笑んだ。

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