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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第三章 異世界で子爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第765話 収穫祭2日目 チャーハン作るよ!

新連載「ただ幸せな異世界転生」始めました。

優しい世界を描きたかったと言う事で、初めての転生物です。まだ序盤ですが、楽しんで頂ければ幸いです。

http://ncode.syosetu.com/n1321ed/

こちらもどうぞ、よろしくお願い致します。

 がやがやとテールからモツにかけて、畜産物の処理や今後の流通に関して活発な議論が交わされる中、そこそこに食べているにも関わらず、暴力的に胃を締め上げるような香りが漂ってきたのを感じ、私はぽんぽんと手を叩く。


「では、皆様がお待ちかねの米をお出ししたいと思います」


 皆がワクワクしながら見守る中、デーンと小山に盛られた皿が目前に置かれる。


「これが……米かい」


 ノーウェの言葉にこくりと頷く。


「これは米を炒めた、炒飯(チャーハン)という料理です。そのままの米でも良かったのですが、慣れていない方々には、味が付いていた方が良いかと思いました」


 米も臭いに敏感だと、慣れるまでは時間がかかりそうなので、マイナス面を取り敢えず無くした状態で勝負してみた。

 どれどれという感じで、皆が匙を小山に刺して、はらりと掬い、口に含む。


「んむ?」


 噛み締めた瞬間、皆が目を白黒させる。


「雑穀に似ていると思っていたけど……違うな」


 粟や稗に近い種類の穀物もあるので、そういう物を小麦の代わりに食する事もある。蕎麦もその仲間だろう。ただ、蒸して食べる事なんてしないし、まして炊き上げて食べるなんて手法が存在しない。特に小麦の収穫量に汲々しているテラクスタ的には色々そういう手を打っているのだろう。


「歯応えが気持ち良いわ……。むちむちとした食感。柔らかなのに、適度に弾力を感じるの。ふふ、不思議な感触」


 ペルティアが楽しそうに、もちゅもちゅと咀嚼を繰り返す。


「パンの柔らかな部分に似ているけど……。それよりももっと濃厚な味だね。それに噛んでいると……甘みを感じるよ?」


 ノーウェが不思議そうに首を傾げる。


「米に含まれる成分が唾液と反応して糖分に変化しています。パンでも同じ事が起きますが、そんなに咀嚼する事が無いので、中々実感出来ないですし、そもそも副菜の味に意識が寄ってしまうので感じる事は少ないと思います」


 パン単体で食べるというより、おかずの嵩増しの意味合いが強いので、今回の米のように単独で食べるという機会も少ないだろう。


「香りが何とも良い。中に入っている具材も小さいにも関わらず、存在感を感じる」


 具材は卵とネギと煮豚の刻んだ物と至ってシンプルだ。それ故に米と具材の対比を際立たせる。その目論見は当たったようで、ガレディアとラディアがもきゅもきゅと楽しそうに具材の調理法談義で盛り上がっている。


「そうね。こんなに小さいのに、味が濃いの。お肉なのに、柔らか。全体的に味もまとまっているし、主食とは思えないほどに贅沢ね」


 にこにこと匙を進めるペルティアにロスティーもにんまりと上機嫌だ。

 私もと、こんもり盛った匙をはくりと頬張る。口に入れた瞬間、濃い煮豚の出汁と醤油の香ばしさががつんと攻めながらも、熱せられたネギの甘みを帯びた香りに中和されて、渾然一体の複雑妙味が鼻を抜ける。噛んだ瞬間、むちりと米の粒が潰れ、濃厚な旨味がカプセルから弾けるようにぽぽぽぽーんと舌の上で躍り、てろりと旨味を広げていく。咀嚼を進めると、甘みが引き出されるにつれて、千変万化の様相を見せる。


「んんんんー!!」


 ここまでは裏方に徹していたリズも、我慢しきれないように嬉しそうに唸り声を上げる。ここまでの道のりも長かった。

 ネスと一緒に中華鍋を開発するのは、中々の難事業だった。熱の通りの良い北京鍋を打ち出しで作るのには試行錯誤が必要だったし、思わぬ副産物も手に入った。出来れば、プレスを作りたいなというのが本音だ。

 出来上がった北京鍋をカンカンになるまで熱して、油を注ぎ、卵を投入。固まるまでの短時間に米を投入して、ひたすら煽りながら攪拌、攪拌。この時に米と油と卵が均一に混じり合ってカプセル状になったら鍋の熱で固まってくれるのが理想だ。その上、煽る事により周囲の水分が飛んでパラリとした食感に変化する。内側は瑞々しく、外はパラリと。そうして一粒一粒が独立した段階で、香りづけのネギや煮豚を投入する。ここまでくればカプセルが水分を吸ってベチャベチャするのをブロックしてくれるので、最後に醤油で味を調え、完成となる。至ってシンプルだが、奥の深い料理だ。料理長と何度も何度も失敗しながら、頑張って完成させた。この日々は賄いで延々炒飯が供されていたが、料理人達からは思ったより評判が良かったのはありがたかった。

 はふはふうまうまという感じで、皆が一心不乱に咀嚼し、かたりと匙を置いた時には、満足といった表情が咲き誇っていた。


「お気に召して頂けましたでしょうか?」


 その言葉は、一粒も残っていない炒飯皿を見れば、一目瞭然だった。

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