第761話 収穫祭2日目 テラクスタ訪問
「ようこそ収穫祭へ」
領主館のロータリーで皆で並び、テラクスタ達を歓迎する。
「久しい。壮健……というにはやや疲れているか……」
にこやかにしてても、若干隈が浮き始めているのとめがしょぼしょぼしているのがばれたか、お互い苦笑での対面となった。後ろから近付いてきたガレディアがそんな二人の様子をちらりと確認、軽く頭を下げた後にリズへと近付く。
「御久しく。立派になりましたね」
「ガレディア様、お久しぶりです。ようこそおいで下さいました。あれ? 『リザティア』産ではないような」
微笑み挨拶を交わしていたリズがふとガレディアの首元に目を向けた際に輝く真白を発見する。
「ふふ。テラクスタ領で上がっていた石を加工してみたの。まだまだ『リザティア』には敵わないけど、少しずつうちも儲かるようになってきたわ」
そこには若干小振りながらも立派な真珠のネックレスがかかっている。私がテラクスタの方を見ると、若干恥ずかしそうに口を開く。
「貝から取れると聞いてな。海の方の村を確認すると、昔から偶に獲れておったらしい。それを買い取って、売り出しているのだよ。ガレディアのは品質が良い物で粒の大きさを合わせた形だな」
確かに人魚さん達が探し出してくる物に比べると、かなり小粒ではあるが、それでも伯爵が抱える領地から選出したとあって、美しい白の彩をガレディアの首元に添えている。
「良い品ですね。ガレディア様自らが広告となって物産を広めるというのは良いお考えです。あぁ、ロスティー様達がお待ちですよ」
そう告げて、応接に招き、久々に一同が会する。
「麦の実りの方はどうだ。北はかなり良い。中央は例年よりましという感じではあるな」
挨拶が済んで、冷たいお茶を楽しんでからの第一声はロスティーの質問から入る。まだ集計中と言う事でテラクスタの収穫量までは知らされてはいない。
「若干の不作傾向です。夏が暑すぎました。秋の雨は何とか凌げましたが、全体的に下がっています」
「暑さだけかい? 兄ぃ」
ノーウェの疑問にこくりと頷くテラクスタ。
「前々からヒロより教わっていた土壌改良案。時期は逸していただろうが試してみたが、効果は出た。実りの時期の手前辺りで実施出来たのが幸いか、試験として対象にした畑は4.8倍前後まで上がっている。そこだけを見れば、大豊作だな」
「と言う事は?」
ロスティーの言葉に、力強い笑顔を返す。
「効果はあります。パニアシモ様の齎す恵みも栄養が無ければ生かせない。ヒロの言う通りですね」
その言葉に、ほぉと溜息のような空気が動く。
「今回遅れましたのも、来期用の畑の土壌整備を完了させるためです。今回は一割にも満たない範囲でしたが、来期は五割。これで問題が無ければ、来々期は全体に適用です」
テラクスタが口を閉じた瞬間、しんとした空気が流れる。麦が本位のこの世界で収穫量が上がると言う事は、その分の余裕が生まれると言う事。それを思うだに、皆も噛み締めるように未来を考えているのだろう。
「森の土を入れるのであったか?」
「まずはそこからです。糞便の処理は時間がかかるので試せてはおりません。その辺りは実績のある『リザティア』に任せ、買い取って試すという方向でも良いかと考えます」
ロスティー達が具体案を話し始めると、熱い空気が流れる。領民の生活がかかっているので、皆真剣な表情だ。
「『リザティア』の住人も増えてきましたので、流通に乗せる事は可能かと考えます。ただ、私も麦は初めてなので、テストをしてからですね。来期の麦の様子を見て、配布でしょう」
私が取り敢えずの口を挟むと、ノーウェがにこりと微笑む。
「うん。ありがたいよ。その間に、こちらも環境を整えて、発酵糞便の量産が出来るように動く。いやぁ、楽しみだよ。これまでは機械や商材ばかりが主だった君が、農業まで出てくるんだからね」
ノーウェの言葉に、他の皆も頷く。
「はは。その辺りは手探りですが。テラクスタ伯爵が一休みなさった後には夕食です。そこで堪能頂ければと思います。お風呂など如何ですか? 旅の疲れもあるでしょうし」
「うむ。助かる。流石に温泉宿まで向かうには時間も無いだろう。こちらで堪能させてもらう」
「この人は、着くまでずっと温泉の事を言っていましたから。早く楽しませてあげて下さい」
ガレディアの言葉に、笑いを誘われた私達は、途切れることなく初秋の青空に笑い声を響かせた。




