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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第三章 異世界で子爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第756話 収穫祭1日目 陰では色々やっています

 きゃっきゃと女湯の方に向かうリズ達を見送り、男湯へはロスティーとノーウェだけで向かってもらう。先程の事もあるし、偶には親子水入らずもいいだろう。余人を交えず話したい事もあるだろうと私は辞退した。

 タロとヒメを連れてペット風呂の方に向かうと、道の途中で気付いたのか二匹のしっぽが揺らめきを増す。


『ぬくいの!!』


『しんしょーつぶす!!』


 ヒメは本当に私の何にアクセスしているのかなと思いながら、リードと首輪を外してあげると、ててーっと湯船に向かっていきするりと水飛沫も上げずに浸かる。水の中を蹴っていたと思うと、すぃーっと奥の深い方に向かう。


『じゃあ、少しの間入っておいてね。私は用事を思い出したから。あまり危ない事はしないでね』


『まま、ないの?』


『いっしょ』


『また夜にね』


 二匹に告げると、少し拗ねたようにクーンとゥゥという唸りを上げて、ちゃぱちゃぱと泳ぎ始める。

 そっとペット風呂を抜け出し、『警戒』に表示される光点に向かって進む。暫く進むと、その先にはいかにも商家の人間と言った小奇麗な男性が一人ぽつりと温泉宿の庭の茂みに立っていた。


「やあ、こんにちは」


 私がそう声をかけると、男は一瞬びくりと肩を震わせ、こちらを振り向く。その顔立ちもこの世界では平凡そのもの。彫りの深めの顔立ちに、中肉中背の体型。ただ、振り向く瞬間の服の様子から、鍛え上げられた体を緩やかな服が包み隠しているのは見て取れた。


「私は領主のアキヒロです。初めましてですね」


 私がそう告げると、男は曖昧な表情から一変して、笑顔になり手を胸に当てて一礼をしようとする。が。


「警備体制を改めないと駄目ですね。まだまだプロ相手にはざるのようです。スキルとは本当に厄介な物です」


 私は告げた瞬間、ホバーを前方やや下辺りに全開に噴射する。風の勢いで体は一気に後方に吹っ飛ぶが、今まで立っていた場所には一刃の銀線が砂煙を断ち切っていた。男がするりと剥いだ服の下には革製の薄手の防具。そして、音が鳴らないように締め付けられた無数の武器の数々。


「なぜ……分かった?」


 翻訳して聞こえてくる声もありふれた低め。慌てた様子も無い。

 そりゃそうだろうなと。『認識』先生が羅列してくるスキルに脅威を感じながら聞き、思っていた中で、ぴくりと眉根に皺が寄ってしまった。


「ちなみに、一点質問です。冒険者の経験などはありますか?」


「こちらの問いに答えない相手に……」


 体勢を落とし、一気に前に飛び出してくる男。ホバーで下がった分の距離を一気に食い破られて、剣の間合いにまで飛び込まれる。


「応えるかぁぁぁ!!」


 叫びと共に一刃。背中側に回り込んでいた刃が横合いから手首のスナップで私の腹を狙い、体の前面に押し出される刺突。接触する刹那に澄んだ音色と共に、男の歪んだ表情が眼前に現れる。


「馬鹿な、この間際で!?」


 右手の刺突をフェイントに左の横薙ぎが繰り出されていたが、前面に生んだライオットシールド状の鉄の塊が阻む。覗き穴から男の驚愕を眺め、静かに口を開く。


「情報が入らないから焦りましたか? その手際だと、人相手専門ですか……。では……」


 『認識』が告げた『殺人』の音に沸き上がる憤り。顔を上げた瞬間背後に蠢く、数多の煌めき。


「手加減はいりませんね!!」


 その言葉を合図にキュドッと上空からハヤブサのように襲い掛かる無数の銀の数々。男は後方に飛び退るが、残った足をめった刺しにする。小さな呻きと共に蹲る男。その刹那前方から沸き上がる魔術の感覚。男が顔を上げ目線をこちらに合わせようとした瞬間、その眼前は鉄塊で覆われていただろう。


「警備上の都合で、この時間帯は部屋から出られませんし、従業員の動ける範囲も決まっています。その程度のテロ対策はしますよ」


 がいんと鈍い音が響き、伸びた男を前にほっと一息を吐き、残りを告げる。

 上げ続けた『警戒』は既に2.96まで上がっている。これでもコツを理解して貪欲に学び続けるロットに勝てないんだから、異常だよなと。馬車が温泉宿の敷地に入った時点でこの男には気付いていた。ただ、明確に敵と認識したのは『認識』先生の知らせた『隠身』と『殺人』、それに『暗器』と『火魔術』の異常な高さだ。どう考えても、暗殺家業か浸透作戦に従事していた人間だ。

 気を失った男を後ろ手にして手かせを土魔術で作っていると、物音を聞いた警護の兵達が集まってくる。


「領主様!?」


「警備の網を抜けていたのが一人いたから、念のため捕らえておいた。皆、再訓練だね」


 そう告げると、皆が微妙な表情を浮かべ、すぐに引き締まったものに変わる。


「諜報から身内への襲撃計画は上がっていたかな?」


「いえ、現状上がっている情報が全てです」


「と言う事は、ロスティー様かノーウェ様狙いか……。分かった、尋問の手続きを。諜報にはロスティー様達の襲撃も含めて調査の拡大を伝えて。情報はまとまり次第、書面で提出。出来ればロスティー様達が帰る前に頼むね」


 指示を出して立ち上がり、ペット風呂に向かおうとすると、一人の兵が手を挙げる。ザックだったな確か。生え抜きの兵らしくて、評判も良かったから今回の護衛任務に入ったはずだ。


「今件の処罰はいかが致しますか?」


「うーん、人員を決めたのは上層部だから、レイとフィアの責任かな。もう少し人数を増やしておけば網にかかっただろうし、身辺警護はもっと網が緻密だから、襲撃は無理だったよ。でも情報を取られるのは嫌だったから、捕まえただけだから。お咎めは無し。その代りもう少し訓練は積んでもらってこの人数でも対応出来るように頑張ろう、くらいかな」


 そう答えると、苦笑が返ってくる。はて、変な事を言ったかなと思ったが、その前にザックが口を開く。


「大貴族様への襲撃を警護が見逃し、領主様の手を煩わせたのにですか?」


「出来る事と出来ない事があるからね。破られても、次を用意しているし、それが機能するなら問題無い。今回駄目なら次回に備えれば良いし、それを責任に持つのが上司の役目だよ? あなた達は職分を果たしている」


 そう答えると、何故か皆がぴしりと敬礼で固まる。


「今後とも身を粉にする思いでお仕え致します!!」


 ザックはじめとする皆に見送られながら、ペット風呂に向かう。扉を開けると、何故か床でお座りの二匹。


『あれ、どうしたの?』


 そう聞くと、心配したようなキューンという鳴き声を上げる。


『いたいの?』


『ふしょう?』


 あぁ、先程の男の血の臭いかと気付き、二匹に心配ないと告げて撫でると、安心したようにまたお風呂にちゃぽりと浸かる。


『あ、こらこら。そろそろ皆上がってくるよ』


 そう告げるも、先程拗ねたのを思い出したのか、聞く耳を持たず、すぃーすぃーっと泳ぐ二匹。苦笑を浮かべながら、諜報と滞在中の対応を打ち合わせないと駄目だなと改めて、時間の調整を考え始めた。

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