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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第三章 異世界で子爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第749話 子供の頃は味噌汁猫まんまを薄めた物を犬にあげていました

 かちゃかちゃとお皿を鳴らしながら、部屋に戻る。


「手伝うのに……」


 アーシーネに引かれながら扉を開けてくれるリズが呟く。


「ありがとう。零れると怖いから、アーシーネを見てくれるだけでも嬉しい」


 そう返しながら、タロとヒメの箱の前にしゃがみ込む。扉を開けた時点で、首をにょきっと出して耳をぴくぴくしていたが、近付くとひょいっという感じで出てきて、お座りしながらしっぽをぐいんぐいんと揺らしている。


『はい、タロ、ヒメ。お裾分けだよ』


 そう『馴致』で告げながら、お肉とは別にお米に塩分を加えていない出汁をかけた猫飯(ねこまんま)を差し出す。くんくんと嗅いでいた二匹がしゃばっしゃばっと舌で掬いながらはくはくと食べ始める。折角の収穫だからと言う事でおうちの子である二匹にも味わって欲しかった。日頃からお腹の調子が悪い時は野菜をあげたり穀物も稀にはあげているので、特に違和感なく食べているようだ。


『うま。ふぉぉ、かいでないにおいなの!!』


『みちのあじ!!』


 海産物系の出汁を利かせた料理は食べさせた事が無かったかなと思いながら、初めての味を賞味し、満足そうに体を擦り付けてくる二匹を撫で崩す。その姿を見ていたアーシーネが堪らないとばかりに抱きしめると、標的がアーシーネに変わる。


「収穫も一段落したし、遂に収穫祭だね」


 リズが少し遠くを見つめながら言葉を紡ぐ。


「そうだね。リズもご苦労様でした」


 この世界に来てから一年。色々な事をしてきたけど、ずっとリズとは一緒だった。色々悩んだり、辛い時も一緒にいてくれた。ふとそう思った時に、愛しさが溢れる。


「ううん。ヒロが頑張っていたから。えへへ。勉強も沢山出来たし、色々知らない事も学べたから面白かった」


「そう言ってもらえれば、助かるよ」


 そう告げて、ティーポッドにお湯を注ぐ。


「収穫祭が終われば、ダブティアの方に向かうんだよね……。何が待っているのかな……」


 リズが楽しそうに呟く。隊商を組むレベルの商家でもなければ、中々遠出をする事も無い。ましてや隣国にまで足を運ぶ機会なんて殆どあり得ない。そういう意味では海外旅行を待つ子供みたいなものなのだろう。


「良い旅になる事を祈っているよ。でも、半分くらい過ぎたね……」


「ん? 何が?」


 リズがくてんと首を傾げる。


「リズと初めての夜を過ごしてから。『リザティア』に到着してからが良いか、町開きをしてからにしようか迷ったけど、思ったよりも順調だし、少し前倒そうかなって」


「前倒し?」


「皆もそろそろ考え始めているだろうから。子供……欲しいなぁ」


 そう伝えると、リズの表情が綻ぶ。


「いいの?」


「少しずつずらしてもらうと思うけど、この調子なら大丈夫かな。ロッサだけは代替が効かないから少し後になるけど。それでも、学校も出来たし、次の世代を意識しないといけないなって」


「嬉しい……」


 カップを置いたリズがそっと立ち上がり、首に手を回し、抱きしめてくる。


「ふふ。明日からは楽しい収穫祭って期待していたのに……。他にも楽しみが出来ちゃった」


「喜んでもらえると、幸せだ。もう少しだけ待ってね」


「うん」


 そっと口付けを交わし、首の後ろに手を回そうとした時にふと視線を感じる。横を見ると、タロとアーシーネとヒメがちょこんと並んでこちらを覗いている。


「なかよしさん!!」


『まま、つぎ』


『じゅんばんまち』


 その言葉につい噴き出してしまう。


「ごめんね。世界に入り込んでいた」


 そう告げて、アーシーネの頭を撫でてタロとヒメをわしゃわしゃする。


『ふぉぉ……いいの……。まま、すきなの……』


『やはり、とうとい……』


 満足した二匹が箱に戻るとアーシーネも欠伸をし始めたので、アスト達の部屋に送る。部屋に戻ると、そっと背中に柔らかな感触。


「ん? リズ、どうしたの?」


「んー。練習、しないの?」


 いつになく積極的なリズに嬉しくなって、振り返り、そっと抱きしめる。


「したい」


 ひょいっと抱き上げて、ぽふんとベッドに横たわらせて、そっと瞳を覗き込む。


「収穫の恵みに……感謝を」


 リズの呟きの後を繰り返す。その後の言葉は唇を塞いだので分からない。

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