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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第三章 異世界で子爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第740話 入学式と家路

 講堂に入ると緊張した子供達が並んでいるのが見える。ただ、小学生くらいの子はある程度大人しく並んでいるが、幼稚園くらいの子達はててーっと走り回っている。それに釣られて、もう少し大きな子達もうずうずしているようだ。うーん、五歳児くらいから預かるって方針だったけど、まだ無理だったかと若干思ってしまった。保育施設である程度経験させないと無茶だったのだろう。まぁ、少しずつ成長してもらおうと、さっさと挨拶を済ませてしまおうと、チャットの背中を叩く。


「頑張って」


 そう告げると、ガチガチに固まったチャットがぎくしゃくと演台に向かう。会議室程度の規模なら上がらずに済むようなのだが、百人単位になると、駄目っぽい。


「み……みなひゃん」


 あ、噛んだ。ハラハラと袖から眺めていると、一回噛んだ後は開き直ったのか、挨拶をこなして、舞台から降りてくる。


「頑張った、頑張った」


 そう告げると、焦点のあっていない瞳ではぁはぁと肩で息をしながら、ぐでぇとチャットが崩れる。


「め……めっちゃ緊張しましたぁ……」


 取り敢えず、後はリズに任せて、最後の領主の挨拶に向かう。うん、チャットが言っていた話が難しかったのか、もう飽きた感満載だ。すっごくアウェーな空気を感じる。


「みんなーげんきですかー!!」


 取り敢えず、幼稚園のノリで叫んでみる。取り敢えず、注目を集めないと話も出来ない。大声で叫ぶと、何!?って感じで、子供達が注目してくる。


「みんなーげんきですかー!!」


 大袈裟な身振りで耳に手を当てて、反応を待つ。ちらっと見ると、戸惑っている様子がありありと分かる。


「はーい、みんなー。げんきよく、はーいっておへんじしようか。みんなーげんきですかー!!」


 再度叫んでみると、はーいと元気よく声が講堂に響く。うん、教育を受けている子なんて殆どいないし、皆素直だ。


「はい。領主のアキヒロです。こんにちは。皆さんは今日からここ、学校に入学しました。学校というのは……」


 と言う訳で、幼児番組のノリで学校で勉強したり友達と遊んだりして欲しいというのを伝えると、興味深そうにふむふむと頷いてくれたので、まぁ学校に対する苦手意識は持たなくなったかなと。アーシーネとか工場、『フィア』で子供達のお世話をしていると、恥ずかしさとか失せている自分に気づきました。歌のお兄さんみたいに両手でバイバイすると、わぁっと歓声を上げてくれたので、そのまま袖に退散する事にする。

 講堂では、子供達が先生方に連れられてわらわらと解散していった。これからオリエンテーションだけど、カリキュラムはちょっと調整した方が良いかもしれない。横では、チャットが少し沈んだ表情でいるので、安心させるように微笑みを浮かべてぽんぽんと肩を叩いておく。


「まだ、ちょっと子供には早かったかも。この後の魔術学校生とか、軍学校生なら大丈夫だろうけど」


 五歳から十一歳辺りまでを小学校期間として勉強と魔術の基礎を、十一歳から十四歳までを魔術学校もしくは軍学校で専門教育をと思っていたが、思った以上に幼年教育というものを侮っていたかもしれないというのが正直なところだ。現代日本の幼稚園児の教育は思ったよりも行き届いていた。集団行動とかもある程度は教えられているから、小学校に入ってもいきなり集団で行動出来るのだろう。そうでなければ五歳児はただの子供だ。

 チャットとごにょごにょとちょっとダウナーな感じで相談していると、リズが呆れ顔でチョップしてくる。


「もう、お祝いの日なのに、二人がそんな状態だと、子供が可哀そうだよ」


 二人で頭を押さえているとリズが膨れ顔で伝えてくるので、チャットと顔を見合わせる。


「まぁ、挽回できない事でも無いか……」


「始まったばかりですしね……」


 そんな感じで、テンションを復活させて、魔術学校生、そして場所を移して軍学校生の挨拶を終えた。ちなみに、この辺りの年齢になるとある程度話も聞いてもらえたので、ほっとした。チャットもきちんと聞いてもらえて、機嫌が回復したようなので良かった。ちなみに、この後、魔術学校に戻って先生方に話を聞いてみたが、大人には受けが良かったので、もう少し噛み砕けるように頑張ろうと思う。

 教室の様子を覗いてみると、アーシーネも他の竜の人達も楽しそうに皆と話をしているようで安心した。ただ、ある程度日本の小学校に似せて教室を作っているので、エルフやドワーフやターシャなどの子供達が並んでいるのは違和感を若干感じてしまう。小さな子供の頃は気にならないけど、体格とか耳の形状とかが出てくるとやはり違いははっきりする。別に差別する気は無いが、イメージとしての小学校の教室にダブらせると、不思議な気持ちという感じだろうか。

 ほんわかとオリエンテーションを眺めていると、本日のカリキュラムが終了して、元気よく子供達が教室から飛び出してくる。


「あーりょうしゅさまだー」


「さようならー」


 元気よく挨拶してくる子供達に、手を振っていると、アーシーネも出てくる。


「ふわ。ともだち!!」


 こちらに気付くと、ワクワク顔で女の子を二人引っ張ってくる。保育所から一緒だった子達らしい。後ろからも何人かそっと寄ってくる。この子達は今日出会った子達らしい。アーシーネの陰に隠れて、ちらちらと顔を出してくる。そっとくっついてきた子達に挨拶をすると、はにかみながら挨拶してくれる。


「また、遊びに来てね」


 リズと一緒に手を振ると、嬉しそうにバイバイと手を振りながら帰っていった。


「学校は楽しそう?」


 そう尋ねると、くてんとアーシーネが首を傾げて、天真爛漫に首を縦に振る。


「あい!!」


 百年も生きている生き物には見えないだろうなと思いながら、来た時と同じように三人で領主館に戻る。短いはずの今日一日も、アーシーネの主観ではとても濃い一日だったらしい。心躍るような今日の思い出を聞きながら、沈み始めた夕陽に照らされた家路を並んで帰る事にした。

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