第735話 生活必需品は結構高くつきます
「書状の名義は西部第二管轄区局長ですね」
カビアが内容を確認した書状の中身を説明してくれる。
「役職で言われても良く分からないかな。冒険者ギルドの時は国ごとに分かれていたと思ったけど」
「塩ギルドに関しては、管理出来る岩塩算出地の賄える範囲単位で区分けしているようです。ワラニカ全域とダブティアの三割をこの方が管理なさっていますね」
国一つ以上の管理か……。ロジスティクスを考えるだけで頭が回りそうだ。出来る人間だと思うんだけど、そうなると今回の件は良く分からない。何故、要求なんて話になる……。
「用件は挨拶との事です……が、日程も要求という部分も書状には記載されていないです……。どこか中途半端な印象を受けますが」
こちらの書状だと、挨拶と用件を記載した後に、日程や諸条件の箇条書きを記載する。基本的に最後を読めば分かるようになっているのだが、カビアの話ではそれが無いらしい。
「おかしな話だね……。口頭での条件提示なんて話だと、会う必要も感じないけど……。まぁ、いつかは相対しないと駄目な対象だし、まずは様子を見る事にしようか」
まぁ、考えても詮無い話だなと意識を切り替えて、朝ご飯を済ませる。仲間達は昨日に引き続き、台風の後片付けの手伝いに向かうようだ。ティアナとカビアもレイとの協働があるので出ていった。最後に勇ましい顔をしながらも、しっぽはふりふりなタロとヒメをアンジェが連れて行くのを見送り、執務室に戻る事にする。
「あれ? お仕事じゃないの?」
リズがくてんと首を傾げるが、私は少し生返事になってしまう。
「あぁ……そう。塩ギルドとの交易量を確認したいなと……思って……。あぁ、あった。この資料だ」
海水塩の生産量を考える時にも使ったが、大体庶民の一日の塩の消費量は五グラムを下回る程度だ。これは現代日本より圧倒的に塩の価格が高いためなのが原因になっている。実際に『リザティア』の中央値は八グラム近い。ちなみに、五百人程度のトルカの規模でも年間で四百六十万ワール程が塩への出費になる。
「『リザティア』の人口が二万弱で消費量をかけて……」
年間だと二億ワール強が塩の代金に消える計算だ。現状はこの予算の大部分を『フィア』の製塩設備の投資と運用に回して、海水塩という形でフィードバックさせている。来年度以降はこの予算の大部分が浮くので、他の用途に回せる。
「問題は塩ギルド側が二億の売り上げを想定しているのに、売り上げが上がらなかったら不審に思うよねと言う事か……」
年間で二億ワールは結構大きい。使途が自由になる国家予算で関係国に回せる予算が一億ワール程度しか出ない事を考えると、かなりのインパクトがある数字だというのが分かる。
「でも、『リザティア』だと、お塩って、そんなにいらないよね?」
リズが、云々と唸っている私の横で、資料を見ながら呟く。
「うん。代替出来なかったりしたくない場合の為に購入しているけど、規模はそんなに大きくないしね。もし塩ギルドからの供給が打ち切られても、輸送費を上乗せして周辺の領地から輸入しても良いし」
小さい規模で輸送していると高くつくが、一回で年間使用量を輸送してもらえれば、輸送費としてもそう大きな額にはならない。十分予算の許容範囲だ。そうなると、塩ギルドとの取引は『リザティア』にとって最重要と言う訳ではなくなる。
「向こうの理念は塩の安定供給をする、だからね。供給源は確保出来ているから、うちの領地に関してはどっちでもいいね」
と言う訳で、出来れば塩ギルドとは穏便に取引量を減らすか、強硬策で供給を止められてもこっちが枯渇して困らない程度に根回しすれば良いだけだ。となれば、別に喧嘩をしてもかまわない。
「まぁ、向こうが何を求めているのかが分からないから、話を聞いてからかな」
そんな感じで、リズと一緒に想定問答をしていると昼前になる。そろそろ来るかなと思っていたら侍女から来訪者の旨をもらったので、リズと一緒に応接間に向かう。さてさて塩ギルド。目的は何かな。




