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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第三章 異世界で子爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第731話 戻ってきた恩人

 目が覚めると、体全体を覆っていた倦怠感も霧散していた。思った以上に疲れていたのだなと上体を起こそうとすると、むにゅっとした物で阻害される。右腕を見ると、ニンマリ顔で眠っているリズがぎゅっと抱きしめていた。起こさないように注意しながら解き、窓の外を見ると、雲の動きは若干早いが美しい青空だ。台風一過、塵が飛ばされて空も鮮明なのだろう。八月三十日は晴れ。こんな日に空を飛んだら気持ち良いだろうなと思い、そういえば仲間達はこの中を飛んで帰ってくるのかと少しだけ羨ましくなる。いつも通り、タロとヒメの食事を済ませ、改めてリズを起こす。まだ湿度が高い時期に抱きしめていたせいか、胸元が汗で濡れているのが少しだけ色っぽい。


「ふふふ。ヒロ、好きー」


 珍しく甘えてくるリズの頭を撫でながら、朝食の知らせが来るまでと思って話を始める。食事を済ませたタロとヒメも混じって団欒していると、窓にひょいっと動きが見える。目線を合わせると、猫さんがひょこっと現れていた。


『あるじー、ぶじ。よかった』


『猫さん達は無事? 怪我は無い?』


『みんなぶじー、けがもないー』


 にゃーごみたいな、少し間延びした鳴き声で、現状報告をしてくれる。したっと床に降りると、はふはふしているタロとヒメに挨拶をして、しゃりしゃりと二匹をグルーミングし始める。タロもヒメもしっぽを大きく振って、喜んでいる。


『えさがにげてる、おなかすいた?』


 どうも、『リザティア』に住み着き始めていた、虫や小動物の類も、台風の際に逃げたものが多いらしい。戻ってきても、食料が無くて困っているようだ。


『餌が戻るまで少しの間援助するね。色々教えてくれたからお礼。窓の下に餌を置いておくから、食べに来て。害は出さないようにするから。後、お母さんや子供にもきちんとあげてね』


 そう伝えると、くるくると喉を鳴らす。


『かんしゃ。あまりたよらないー』


 野生には野生の生き方がある。あまり頼るのも良くないだろう。原状回復までの暫定処置として、少しフォローをさせてもらおう。折角台風の情報を教えてもらったのだ。その恩くらいは返したい。そう思って、リズにこの場は任せて、厨房に向かう。料理人に相談すると、余剰の肉を分けてくれる。骨からこそいだ肉やモツ系が朝ご飯ですぐに使う訳ではないので、出せるようだ。昼以降には多めに買っておくと伝えられた。

 部屋に戻ると、リズが少し遠慮がちに猫さんを撫でると、喉元を触られて気持ちよさそうにくるくると愛らしい振舞を見せてくれる。


『まずはこのくらいだけど、足りるかな?』


 両腕一杯の肉を見せると、きらりと瞳が輝く。


『だいじょうぶー、よぶー』


 にゃっと短い返事をすると、しゅたっと窓に飛び乗り、遠鳴きをする。すると、離れた茂みや木々からどこから現れたのかと思うほど、猫達が出てくる。私は窓を飛び越えて、大きな石板を生み、その上に肉を置く。前に食事を渡したのを知っているので、若干警戒しながらも成猫が食べに来て、安全と分かると母猫や子猫がぴゅーっと近付いてくる。集会の時と同じくらい集まったなと思いながら、むしゃむしゃと生肉を咀嚼する猫達を眺める。


『朝、昼、夕に用意するから、食べ溜めしなくても大丈夫だよ』


 そう伝えると、必死で食べていた成猫達が下がり気味になり、子猫達がその分がつがつと食べるようになる。


『ありがとうー、こどもちょっとたいへんだったー』


 窓辺の猫さんも降りて、食事を楽しんだ後に、足元に来て、報告してくれる。


『どこに避難していたの?』


『ないしょー』


 ふむ、流石に教えてくれないか。でも、欠けたのがいないのであれば本当に良かった。


『じゃあ、ここに置いておくから、食べに来てね』


 そう伝えると、猫達が銘々一斉にお礼じみた鳴き声を上げるので、目を丸くしてしまった。さて、戻ろうかと窓に目を向けると、タロ、リズ、ヒメが並んで窓から仲良く眺めていて、少し微笑ましかった。


「ふわぁ、可愛いね。猫も可愛い。虎さんも可愛かったけど、猫は猫でいいね」


 少しだけ興奮したようにリズが言う。


「糞尿がちょっと心配だけど、まぁ、恩人だしね。数日したら環境も戻るだろうし、その後に片付けよう」


 そんな話をリズとしている中、タロとヒメはしっぽをぶんぶんと興奮しながら、猫の集団を楽しそうに眺めていた。混じりたそうというのは曲解だろうか。朝ご飯食べたばかりでしょ、お爺ちゃん。

 そんな事をしていると、朝ご飯の知らせが来たので、食堂に向かう。本日の予定を聞きながら、朝ご飯を楽しむ。


「まだ、森に入っても獲物が落ち着いてはいないだろう。狩りと言うより様子見だな」


 アストはもう森に入るようだった。ティーシアも工場を稼働させるようなので、アンジェと一緒にタロとヒメを連れて行ってもらうようにしよう。レイは領軍の総括があるし、ティアナとカビアは今回フォローしてもらった各所にもう一度回ってくるようだ。竜さん達は『フィア』組とやり取りしてもらっている。


「取り敢えず、水量次第だけど水門は開放する予定かな。後は事務仕事を終わらせて、他の皆が帰ってきたら反省会だね」


 そう告げて、リズは先に執務室に、私は一人水門に向かう。雨台風ではなかったので、川の増水はそれほどでもなかった。ただ濁りはあるので、早い時期に水路を浚渫した方が良いかもしれないなと思いながら水門を力いっぱい開放する。轟々と音を立てて流れ込む姿を見て、やっと台風対応も一段落かと胸を撫でおろす。まぁ、どちらにせよこれから何度も付き合う事になるだろうし、やり方だけは確立しよう。そう思いながら、領主館に戻る。

 執務室でリズに色々教えながら、今回の報告書などを処理していると、昼前辺りにノックの音が響く。


「皆様がお戻りになる旨をブリュー様より頂きました」


 侍従の報せを聞き、皆で中庭に迎えに出る事にする。さてさて、どんな報告が聞けるかな。

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