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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第三章 異世界で子爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第725話 きつい香りと猫さんの鮮やかな逃散

 夜に出ていく事は分かっていたのか、限界までは食べていないけど、いつもよりも多く食べたリズが、よろよろと部屋に戻るのを支える。


「少し休まないと動けないね」


「うー。思ったよりも、パンもお腹に溜まるし、水分で膨らんできている……」


 あぁ、穀物とスープ物の分量は間違えると、お腹に堪えるなと。部屋に戻ると、食事をもらったタロとヒメがててーっと近付いてくるが、ある程度接近すると、びたりと止まって、くんくんと鼻を鳴らし始める。


『くちゃいの!!』


『げきしゅう!!』


 きゃんきゃんうぉふうぉふと鳴くと、ぴゅーっと箱に戻って、首を出したまま、こちらをじっと見ている。


「ん? 二匹ともどうしたの?」


「香辛料の香りがきつかったのか、逃げちゃった」


 服を嗅いでみると、確かにカレーの匂いが染みついている。料理していた分余計かなと。香辛料を擂っている間は良かったけど、熱を入れて、ふんだんに揮発したのを浴びると駄目みたいだ。


「一緒にお風呂入る?」


 と聞いても、むーみたいに考えて、ノーと返してくる。珍しい。しょうがないかと、猫さんが来ても大丈夫なように窓だけは開けておいて、そよ風を浴びながら、リズの胃が落ち着くのを待つ。暫くすると、ある程度こなれて来たのか、身動きが出来るようなので、お風呂に入る事にする。他の仲間達は結構容赦無く食べていたので、お風呂まではまだまだかかるかなと、お湯は少なめで、後で足しておこうと思いながら、二人でカレー臭を洗い流す。

 部屋に戻ると、猫さんが、タロとヒメに集られていたが、ぐいっと後脚で押し戻されたり、前脚でぴしゃっとされたりして、近付けないようだ。それでもはふはふと寄っていくので、獣可愛い。猫さんも怒っている訳ではなさそうなので、声をかけてみる。


『あるじ、きた。しゅうかい、いく』


 にゃうっと短い鳴き声を上げると、するりと二匹の追撃を躱して、ひょいっと窓に登り、そのまますちゃっと地面に降りる。私は、料理人に頼んでおいた塩抜きした干物を解した皿を持って、二匹に首輪を着ける。お風呂に入ったら大丈夫なのか、先程までと違い擦り寄ってくるので、現金なものだ。

 前回と同じく、倉庫の辺りに向かうと、月明かりの下、わらわらと猫さん達が、集っていた。前回よりも段違いに数が多いし、体格の小さな猫さんもいる。子供なのかなと思っていると、タロとヒメが、上機嫌で近づいていって、鼻を引っ付けて挨拶を始める。


『おおきいのきた!!』


『あれはだいじょうぶ!!』


『ひともいる』


『あれもだいじょうぶ!!』


 何となく投げやりな紹介だなと思いながら、お近づきの印にと、大皿を差し出すと、前回を知っていたのか、大きな雄猫達がだーっと集まってくる。雌猫や子供がありつけないので、別の皿に用意していた残りを差し出すと、ふんふんと訝し気に匂いを嗅いだ後に、はくはくと食べ始める。子猫はその辺り結構無頓着に母猫の足の間から顔を出して食べたりしている。


『おいしいの。いつもありがとう』


 案内してくれた顔見知りの猫が、ある程度食べられたのか、足元に近づいてきてにゃーっとお礼を伝えてくれる。暫くすると、皿の上の干物も無くなって、皆が毛繕いをしながら興奮を冷ましだす。


『しゅうかいをはじめる』


 前回も仕切っていた長猫が落ち着いたのか、なーごと声を上げると、皆思い思いの格好で聞き始める。私も、リズと一緒に座って耳を澄ます。


『おおきなかぜとあめがちかづいている、きけん、にげる』


 そう告げると、なーっと周辺から同意の声が上がる。


『いつ頃来そうですか?』


 このままだと、詳細が分からないままになりそうだったので、聞いてみると、お月様がもう少し膨らんだららしい。うーむ、どのくらい膨らんだらと言うニュアンスが分からない。でも、一日、二日の話のような感じではあるか。


『ねておきて、ねておきて、ねておきたくらい?』


 横で聞いていた猫さんが、もう少し細かく教えてくれる。三日ほどで、ここまで上陸してくる……か。と言う事は、『フィア』からの距離を考えると、明日か明後日には上陸する可能性が高いと……。流石に気象衛星レベルでは分からないけど、気圧の変化と言う事は既に低気圧の範疇に入っている訳で、この精度で分かるなら、ありがたいか。最悪、避難指示までは可能だろう。


「なんて言っているの?」


「三日後辺りに、『リザティア』を通過するくらいだって。『フィア』だと明日か明後日には上陸する。あまりぎりぎりまで粘っても竜さん達の飛行に問題が出るかもしれないから、その辺り調整して、そのまま『フィア』で通過を待ってもらおうかな」


 リズの質問に答えると、ふーむとリズが腕を組む。


「本当に周知と避難しか出来なさそうだね」


「本当なら、それも出来ないんだから、ありがたい話だよ。ロット達に『フィア』は任せて、『リザティア』はレイと私達でなんとかするしかないね」


 そんな話をリズとしていると、避難で満場一致となったのか、猫さん達が三々五々に散らばり始める。


『にげる。あるじもげんきでー』


 猫さんが最後にそんな感じで、にゃーごと鳴くと、てーっと散っていく猫さん達に混じって去っていく。あ、お礼言えなかった。


「こんな会議が開かれていたんだね……」


 リズが不思議な物を見た顔で呟く。


「うん、動物も不思議だね」


 そんな答えを返しながら、色んな猫さんと挨拶出来てご満悦なタロとヒメを呼ぶ。


「さて、明日からは忙しくなりそうだ」


 リズにそう告げて、淡く輝く夜道を領主館に戻る。方針は決めていたけど、かなり修正だな。メインの人材だけ飛んでもらって、現地で指示を出してもらうだけだろう。そう思いながら、明日は早そうだと眠りに就く事にした。

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