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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第三章 異世界で子爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第719話 事務処理と営業の成果

「ねぇ、ヒロ。この書類、否決されているけど、どこがいけないのかな? 内容的には間違っていないけど……。収益も出る計算になっているよ、ほら」


「ん? どれどれ。あぁ、この案件は、ここ。ギルドの税収分で計算しているけど、領主に納める税の分が計算に上がっていない。この収益で半分持っていかれたら、ほら赤字。あぁ、カビアには分かるように書いていたけど、ここにチェックを入れているでしょ。それが間違いの場所の記号だよ」


「あぁ、そうか。税収って書いてあるから、合っているのかと思ったけど、そもそもが間違っていたんだ……。って、ヒロは全部覚えているの?」


 リズが提案書を見ながら云々と唸っているのを見て、お茶を差し出す。ぬるくなったカップを両手で持って啜るリズを見ながら、口を開く。


「数字を全て覚えている訳ではないよ。ただ、案件ごとに何が絡んでいるかさえ分かれば、そこに関わる数字は別表を見れば分かるようにしている。これだね」


 そこには、対象と事案に分けた表が記載されており、該当のマス目に数字が並んでいる。あぁ、表計算ソフトが欲しい。スマホの方に並行してデータは入れているけど、一律で処理したいと思うのは贅沢だろうか。


「うわぁ、これ分かりやすい。これ欲しい!!」


「うん、まずは写してみたら良いよ。その時に何となく数字を覚えるだろうし、どこがどんな関係を持って来るか分かると思うから」


 流石に、仕事を処理しながらねぇねぇと聞き続けると仕事にならなさそうなので、簡単な作業を任せながら、机の山を崩していく。カビアがかなり処理してくれたようで、予想よりは少ないが、辛い事に変わりはない。何とか、昼までには終わって視察に出られるかな。麦はともかく稲は様子を見ておきたい。そう思いながら、書類を手繰る。


「あぁ、ティルトが早速動いてくれているよ」


 決裁書類の中に紛れた報告書を見ると、いきなり華々しいデビューを飾った営業マンの嬉々とした報告が並んでいる。


「ティルトさんって、男爵だった人だよね? 何かあったの?」


「うん。歓楽街のお店から人を紹介したんだけどね、いきなりテラクスタの方に売り込みに行ったようだよ。乾物の使用方法がまだ浸透していないってヒントを出しただけなのに、いきなり本丸を攻めていくとは恐れ入るよ」


 そう伝えると、リズがへにゃっと表情を崩して首を傾げる。


「ん? 良く分からないよ?」


「将来的にテラクスタの海側の商業は『フィア』の商業と被る部分が多くなるはずなんだ。だからその先を制するつもりなんだろうね。レシピの提供と引き換えに昆布なんかの乾物の独占販売権を『リザティア』で得る形にしちゃっている。後ろ盾がきちんとあるから出来る事だろうけど、まず将来の商売敵のところに乗り込んでいく胆力は凄いよね」


 料亭瑞鳳で働いていて、板長が認めた人間を一人付けてもらったが、結構な成果だ。それに出汁ブームが到来すれば、相乗効果で『リザティア』の収益も上がる。最終的にテラクスタ領で生産が過剰になったとしても、その頃にはブランドイメージが定着しているから先行者特権で逃げ切る事が出来る。営業戦略をきちんと立てているなと感心しながら、どうしようもなく頬が緩んでしまう。


「もう、ヒロ一人で楽しんでいる!!」


「ごめんごめん。ただ、きちんと皆、自分の頭で考えて動いてくれているから、嬉しいなって。特化した個人の出来る範囲なんて限られている。私が求めるのは限られた範囲でしか仕事が出来ないチームワークなんてものではなく、それを越えて自律的に考えられる個々が最大化した成果を共有し合って結果として発生するチームプレイなんだ。そう言う意味では、ティルトはその端緒を掴んでいる」


「それって……。フィアが困っていた隊長の時と同じ話かな?」


「あー、そうだね。結局チームプレイって言い訳の温床になっちゃうから。個々人に求められたパフォーマンスはここまでだから、ここまでやれば大丈夫って。でも私はそれを超えた個々人の最大限のパフォーマンスを出して欲しいし、その結果、予想を上回る成果が出るなら、報酬も弾む。そうしないと仕事なんて楽しくないからね」


「それって、ヒロが仲間達に言ったのとも一緒だね」


「うん、常に芯はぶれない。ここがぶれちゃうと、付いてくる人間が混乱しちゃう。私は、皆の行動を全肯定する。間違いも勘違いも認める。その代り、改めるべきを改めなければ、評価出来ないと伝えるだけだね」


 そう告げると、リズがふむぅと難しい顔をする。


「それって、ずっと頑張らないといけないよね。ちょっと疲れるかも」


「そうだね。でも、頑張ろうって思える人には向いていると思うよ。程々で良いと思うなら、程々にして欲しいって伝えてくれればそう対処するしね。常に期待するし、される側もされたくなければそれで良いし、応えたいなら頑張れば良いよ」


「公平なのかな……?」


「変な平等よりは余程良いよ。報酬の平等より、機会の平等を提供するのを私は優先する。常にチャレンジ出来る環境は提供するし、それに応えてくれるならきちんと評価する。ただ、見る方は大変だけどね」


 おどけたように笑うと、そっとリズが頭を抱きしめてくれる。


「ヒロは……。本当に苦労ばっかりなんだから」


 そう囁くように告げてくれるリズをそっと抱きしめて、両手を解く。


「さぁ、昼までにはもう少し時間がある。もうちょっと頑張ろうか」


 頬を張り、気合を入れ直すと、リズもおーっと手を上げて、表を移す作業に移行する。静かに作業するリズに後押しされるように山は崩れていき、侍女が昼を告げる間際に全ての書類は決裁済みとなった。

 食堂に向かうと、子供達と竜達の姿は見えるが、仲間達は帰って来ていない。出先で済ますつもりかと少し寂しく思いながら、食事を楽しむ。

 食休みにと部屋にお昼ご飯を持って向かうと、タロとヒメが頻りに顔を前脚に擦り付けている。


『どうしたの?』


『うーかいかいなの!! むじゅむじゅなの!!』


『かっかそうよう!!』


 私の頭のどこから情報を抜いてきたのかとヒメを見てしまうが、猫さんが言っていた気圧変化の影響かな。そう思いながら顔を撫でてあげると、嬉しそうに二匹が擦り寄ってくる。我慢出来るかと聞くと、ちょっと感じるだけなので、気にしなければ問題ないらしい。それならと、お昼を食べたら散歩に行こうかと聞いてみると、二匹が本気ではしゃぎ始める。ご飯を食べてからと伝えると、嬉しそうにぱくつく。ご飯と散歩、嬉しい事ばかりでハッピーな感じのようだ。

 リズと顔を見合わせて、今の会話を告げると、リズもぷっと噴き出す。


「嬉しい事ばかりだね」


「喜んでもらえると、ありがたいよね」


 そんな会話をしていると、二匹が食べ終わった皿を綺麗に舐めて、はふはふとじゃれついてくる。さて、仕事も終わらせたので、視察といきますか。

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