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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第三章 異世界で子爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第717話 台風シーズンの到来

 八月二十七日の朝はべたつきに不快を感じて目を覚ます。昨夜の分泌物と寝汗で、体とシーツが酷い事になっている。窓を開けると、朝の清涼な風が部屋に入り込む。空を見上げると、南国のような抜ける青空が見える。出来れば農作物、特に米の状況を見たいと思っていたので、晴れはありがたい。少しだけうきうきしながら、机の上を見て現実に戻る。仕事をある程度処理してからかと、厨房に行って二匹分の朝ご飯を受け取り、食べている間にリズを起こす。


「おはよう、リズ。お風呂入っちゃおうか」


「むー、おはよう……。うわぁ、体中凄い……。きっと他の皆も一緒だと思うから、声だけかけておこうよ」


 リズの言葉に同意し、先にささっと体を清めて浴場から出た段階で、侍女に声をかけて皆にお湯が入っているのを伝えてもらう。私達は先に部屋に戻り、窓際で風を感じながら汗を引かせる。食事を終えたタロとヒメはくんくんと嗅いで、ぬくいのと喜んでいるが、夜だけ浸けるようにしていたせいか特に入りたがりはしない。ただ、近くにあればそのままドボンと入るだろうし、プールとか海とかはまた別なのだろう。一緒に入って体を洗ってもらえる時間が夜のお風呂タイムと認識しているようだ。ちょっと暑いので、出来れば少しだけ後でと伝えると、こくんと首を傾げて、部屋の中を巡って体を擦り付け始める。屋外では小便でのテリトリー付けはしているようだが、屋内では禁止と伝えると全くやらなくなった。ただ、子供の頃と同じように体の分泌物を擦り付ける癖は残っているらしい。

 ぽへーっと爽やかな風を感じながらリズと二人、見るとはなしにその動きを眺めていると、にゃーんっと少し間延びした鳴き声が窓から響く。立って窓を覗くと、下からシュタっと猫さんが窓に着地する。


『あるじ、いた』


 久々の猫さんがころころとした音を首の辺りで鳴らすので、撫でると、目を細める。


『しゅうかいのれんらく。ちょっとあぶない?』


 はふはふと嬉しそうに近付いてきたタロとヒメにも挨拶をして、にゃうと鳴く。


『あぶないとは?』


 集会というのは夜の猫さん達の集会だろう。ただ、危ないというのが分からない。猫の危険と人間の危険では認識がかなりずれる。


『おおきなあめとかぜがきそう? ここがきゅうっとなる』


 にうみたいな、か細い可愛い声をあげながら、髭の辺りをくいくいと前脚で掻く。大きな雨と風と言う事は台風みたいなものだろうか。猫が顔を洗うと雨みたいな俗説はあったが、気圧の変化を敏感に感じているかもしれない。


『むれもにげるから、れんらくしあう』


 猫達はどこに逃げるのだろうか。日本でも危険が近付くといつの間にか動物がいなくなったりしていたが、どこにいったかは分からない。


『建物を貸そうか?』


 館を指しながら伝えると、にゃんと即答が返る。


『ひと、こわい。あるじはむれのあるじ。だから、れんらく』


 ふむ。人間自体は怖いけど、人間という群れの主として認識してくれたから、態々伝えてくれたと。


『番いは大丈夫?』


『たくさんくるからだいじょうぶ。みなあつまる』


 そう伝えてくれると、二匹とじゃれあっていた猫さんがしゅぴっと窓に立ち、そのまま外に降りる。


『また、あとでー』


 後というのは夜かなと思っていると、ひゅーっとかき消えるように去っていった。


「喋っていたみたいだけど、何かあったの?」


 リズが猫さんを見送った後に聞いてくるので、先程の話を伝える。すると、トルカ村辺りでも夏のこの時期は台風が過ぎていくらしい。東の方は南方に高い山が無いため、そのまま直撃コースになるらしい。テラクスタ領辺りは山脈が北方に連なっているので、そこに沿って北上してきてぶち当たるというのが東側の特徴らしい。確かに地図を眺めてみると、その可能性が高い地理だとは考える。道理で肥沃な大地の割に進出してくる人間が少ないと思っていたが、こんな裏があったかと、ちょっとノーウェに物を申したい気もする。確かに大水は出ないらしいけど、台風の通り道だったとは。


「大きめの台風でも大丈夫なように設計したし、町の周りには壁があるから問題は無いけど……。あるとしたら、『フィア』の方かな」


 『フィア』はまだ建設途中の設備も多い。町の外周も大きな災害に適した環境と言う訳ではない。


「一難去ってまた一難か……。でも事前に分かったのはありがたいかな」


 リズと対策を話し合っていると、仲間達も風呂を上がったようで、朝食の準備が出来た旨を侍女が伝えてくれる。さて、カビアを筆頭に相談かな。仲間達には『フィア』の方に出張ってもらわないと駄目かもしれない。旅から帰ってきたらまた旅かと若干苦笑が浮かんでくるのを押し殺しつつ、食堂の方に二人で向かっていった。

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