第713話 それぞれの決断と癒しとは
「今日はこれからどうするんだい? もう夕食の時間だけど」
ノーウェとの打ち合わせを終え、ゆったりとお茶を楽しみながら少し考える。
「子供達に報告だけでも先にしてあげたいと思います。明日、元凶に会うというのなら心構えの必要もあるでしょうし」
「そうか……うん、気にしているだろうし、先に行っておいで。食事は待っているから」
「ありがとうございます」
そう伝え、食堂を後にする。仲間達にも聞いたが、大挙して押し寄せても邪魔になるだろうから待っているという話だった。私は、リズとタロ、ヒメを連れて、宿に赴く事にした。まずはチャットとリナに事情を説明したが、顔を確認するのはジェシカ以外が良いだろうという話で同意は得る事が出来た。ただ、処刑に関してはあまり芳しくない回答だった。
「子供はまだ世の中の道理が分からぬで御座る。処刑に対して爽快を得るのは、罪を罪として認識出来る故の話。事実だけ伝えれば良う御座る」
リナの言葉にそんなものかと納得する。私自身、別に処刑なんて見たくもない。そう思いながら、タロとヒメをジェシカの遊び相手に渡す。少し戸惑っていた二匹だが、チャットとリナと共に部屋に入ると、見知らぬ人がいる事に気付いて、人懐っこく近づいていく。ジェシカも恐々とだが、手を伸ばしと、ペロペロと二匹が舐め、そこからはいつものように撫でて撫でてと構い始める。突然の大きなもふもふの襲来に目を丸くしていたジェシカだったが、温かな毛の触り心地に心が動かされたのか、優しげな表情でタロとヒメを撫で始める。
「じゃあ、少しトトルと話をしてくるね」
ここは任せられると判断して、トトルの部屋に向かうと、四人の子供がじゃれあっていた。抑圧された環境を抜けると、年相応の行動が出来るようになるのだと、少しだけ安心した。
「トトル、少しだけ話を良いかな?」
そう聞くと、神妙な面持ちでベッドに腰掛ける。私達は椅子に座り、ノーウェとの話し合いの結果を簡潔にまとめて、伝える。
「じゃあ、あいつは捕らえられているんですね」
「うん、その予定。ただ、顔を確認してもらった方が良いだろうから、トトルは明日、付いてきてもらっても良いかな」
そう伝えると、目を瞑り、心の中で何かを反芻するように若干煩悶の表情を浮かべながらも、顔を上げて、肯定の回答を述べる。
「ん。分かった。で、処刑に関してだけど、見る事を望むかな?」
「他の子はいらないと思う。ジェシカも逆に傷つく……。でも、僕は見ておきたい。そうしないと、次に進めない気がする……」
トトルがリーダーの顔でそう言う。
「そっか。じゃあ、日程の調整をしてもらって、見る事にしよう。今日はこれだけ。ご飯はちゃんと食べた?」
そう聞くと、孤児院の食事といかに違うか、また私達が出した食事と比べると微妙という話を子供らしい率直な言葉で伝えてくれる。
「はは。『リザティア』に着いたら、色々食べに行こう。じゃあ、明日の朝、また来るね」
そう伝え、ジェシカ達の部屋に戻る。ノックして、チャットが開けてくれた扉から中を覗くと、オオカミ塗れになったジェシカが少しだけ楽しそうに声を上げている。
「やっぱりこういう時は動物が一番癒されるかな……」
「ふふ。そないなようですね。何も考えない、純真な存在の方が向くんでしょう」
「声を上げて笑う事なぞ、無かったで御座るからな。良い傾向で御座る」
二人の言葉を聞きながら、帰るよと二匹に伝えると、ててーっとこちらに向かってくる。離れた瞬間、少しだけ寂しそうな表情を浮かべたジェシカだったが、また移動の際に遊んだら良い旨を伝えると、嬉しそうに頷いてくれた。
領主館に戻ると、夕ご飯を楽しむ。大分、ノーウェティスカまで『リザティア』の食文化が浸透し始めているなと、改めて認識した。テラクスタ産の干物も少しずつだが、出回り始めているらしい。技術交流が上手くいって良かったなと正直に思う。食後は風呂でゆるりと汗を流し、就寝となる。
「なんだか、帰るだけで大変だったね……」
ベッドの中で呟くリズにこくりと返す。
「盗賊が絡むと毎回計画が狂うから、苦手だ」
そう答えると、一瞬呆気に取られた顔をされて、そのまま笑われる。
「計画が狂うだけで済んでいるんだから、良い事だと思うよ」
そんな話をしながら、ゆったりと広いベッドで二人、眠る事にした。さて、もう少しで『リザティア』に戻れるなと。お義兄さんに顔だけ出して帰るかなどと考えていたら、いつの間にか意識を失っていた。




