第712話 賊の今後に関する対応の協議
何はともあれと言う事で、一旦宿を目指す。私達は領主館で泊まりとなるだろうけど、流石に素性不明な子供達までは無理だろうと思うので、休憩をしていてもらうためにも宿泊先を確保しておく。「太陽と大地」亭に向かうと、四人部屋を三室、一人部屋を一室借りて、子供達を休ませる。ジェシカにはチャットとリナに付いていてもらう。
カビアを合わせたメンバーで領主館に馬車を進める。門衛に突然の訪問と先触れを出さない失礼を詫び、ノーウェへの目通りを求めた。すると慌てて待機の方の門衛が館の方に駆けていく。ぽけりと待っていると、先程の門衛が必死の形相で戻ってくる。
「どうぞ、お通り下さい」
開かれた門を抜けて、玄関前のロータリーに向かうと、ノーウェとラディア、それに使用人達が立っている。馬車が停車するのに合わせて、慌てて降りる。
「このような出迎え、恐縮です」
「いや、君達は大事なお客様だしね。帰りの途中だよね。ゆっくり休んでくれるといい。しかし、身軽な割には少し遅かったかい?」
その問いに、若干目が据わる。
「ノーウェ様の後片付けが有りましたので」
「後片付け……とは? 私に関わる事で王都かどこか、何か不手際があったかい?」
「道中、賊を確保なさいましたか?」
「あぁ。一日ほど走った所で襲撃を受けたけど……。残党でも残っていたのかな?」
「残党というより、被害者です。『警戒』の範疇では確認出来たと思います」
「ちょ、ちょっと待って欲しい。まずは、旅装を解くと良いよ。こちらでも情報を確認する。お茶の準備が出来たら呼ぶから、慌てなくていいよ」
ノーウェが若干の困り顔で、先導を始めるので、はぁと溜息を一つ吐いて後を追う。ジェシカの件があったせいか、私も若干好戦的になっていた。リズが荷物とタロとヒメの箱を持っているのを確認し、荷物を預かる。ふむぅ、周りも見えていなかったか。そう思いながら、いつもの部屋に入る。箱を置くと、タロとヒメ達がふんふんとクンクンブルドーザーを始める。自分達の微かな痕跡を発見し、嬉しそうに体を擦り付けだした。
「あぁ、自己嫌悪だよ……。当たってしまった……」
「ヒロはあんまり表に出さないから。偶には良いんじゃないの? ノーウェ様が対応して下さっていれば、あの子達の面倒を見ると言う事も無かったのだから」
リズが微笑みながら慰めてくれる。
「その場合だと、一味扱いで捕らえられていた可能性もあるから、良し悪しかな」
リズと話していると、私も私もという感じで、見回りを終えたタロが膝の上に乗ってくる。流石に二匹はもう乗らないので、ヒメはリズの方に乗り始める。くるりと丸まると、撫でて撫でてという顔で首だけを上げてくる。
「ほら、タロもヒメもイライラしているのが分かっているのかも」
くすくすと笑いながら、リズがヒメを優しく撫でるのを見て、私もタロを撫で始める。無心でもふもふを撫でていると、ささくれだった心が少しずつ収まっていく。若干暑さは感じるが、窓から抜ける風は緑を抜けて、心地良い涼しさを感じさせる。インターバルをもらったのは良かったかなと思っていると、落ち着きを取り戻したのを感じたのか、二匹がひょいと降りると、箱の方に向かう。
「本当に出来た子達だ」
「誰に似たのかな?」
「リズかも」
そんな話をしていると、ノックの音が響く。お茶の準備が出来たと言う事で、食堂に赴く。席には、ノーウェとラディアが仲良く座っている。本当に夫婦になるのだなと何となくすとんと納得出来た。
「先程は失礼致しました」
「いや、状況は分かった。ウェルナース、近衛二番隊の隊長。事情の説明を」
ウェルナースと呼ばれた長身の兵が食堂の奥から歩を進めてくる。
「はっ!! 王都よりの帰還一日目の正午過ぎ、斥候より丸太による街道の通行妨害の報を受け、近衛二番隊にて対処。合計、十八名の賊を確保しております。その際に、斥候隊より十名程の別動隊の存在が報告されておりましたが動きが無いため、輜重ないし使用人の類と判断。その旨を報告しております」
ウェルナースの言葉を聞き、ノーウェが目を瞑る。
「丁度、空模様も悪かったからね。輜重や使用人であれば、後発の襲撃は無いだろうし、王都に一報を投げておけば捕らえてくれる。そう思っていたんだ」
「なるほど。現実は商家を名乗る賊に騙されて酷い扱いを受けていた子供達……でした」
それを伝えると、ウェルナースが渋い表情を浮かべる。
「時間を取ってでも、確認に出るべきでした」
「いや、その場合、本隊を含めて雨に襲われていた。帰還時間が延びる可能性を考えれば判断としては間違っていないよ」
ノーウェの言葉に、心情としては別として、納得は出来る。
「そこまで関わる必要が有ったかと言えば無いでしょう。その後を説明致します」
私は、丸太の件から今回の説明を行った。
「ふむ……。それは……。面倒をかけたね」
ノーウェが申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「いえ。それで将来有望な子供の命を救えたのは幸いでした。下手な貴族に出会っていたのなら、そのまま殺害される恐れもありましたので」
ノーウェ達も余裕があったから捕らえただけだ。そうでなければ、殺害されて終わっていただろう。
「では、子供達は?」
「宿で待機させています」
「そうか……。で、どうしたい?」
「はっきりと、賊を確認させた上で、罪を裁かれる姿を見せてあげたいとは思います。慰めにもならないでしょうが、必罰は世の常です。自分達を襲った悲劇に報いが発生する事を認識はさせてあげたいです」
それで気が晴れるとは毛頭思っていない。それでも、前を向く端緒になるかもしれない。
「現在、戸籍の確認を行っている。もう暫く身元確認には時間がかかるが……。処刑に際しては、一報を入れよう。今はまだ捕らえた事実だけを伝える方が良いのではないかな?」
記憶が生々しい間に会うと、フラッシュバックが発生するというのは経験で理解しているのだろう。ただ、きちんと首謀者が捕まっているかは確認させたい。
「では、比較的心の強い人間に、首謀者が捕まっているかだけ、確認させましょう」
ここはトトルに任せた方が良いのかな。そう思いながら、今後の計画をノーウェと一緒に話し合った。




