第711話 魔法とかで拠点を出した場合の対処ってどうしましょう?
八月十八日の朝は晴れ間が広がっている。雨は夜半に通り過ぎ、緩やかに天気は回復した。最終的に私は馬車での夜番となってそのまま眠ったが、タロとヒメがくっついてきていたので寒くも無く快適に眠れた。朝は、顔がくすぐったいと思いながら目を覚ますと、既にタロとヒメが起きて、ぺろぺろと舐めてきていた。
『まま、おなかすいたの!!』
『くうふく!!』
昨日はどろ遊びに熱中して、早い時間から寝ていたためか、朝日が昇る前から目が覚めたらしい。わしゃわしゃすると、ひゃーっと馬車の中を走り回る。その姿を見ていたリズが微笑む。
「おはよう、ヒロ。顔洗ってきたら?」
「おはよう、リズ。何も無かった?」
「うん、平和そのもの。やっぱり全員捕まったみたいだね」
「逃げたのが戻ってこないとなると、そうなるかな。ノーウェ様もきっとレイ並の斥候は抱えているだろうし、キロ単位で把握は可能だろうから」
そう告げながら、タライとお湯を生み、顔を洗う。ざっと寝汗を拭って、リズに新しいお湯と布を渡して、荷物から最後の生肉を取り出し、二匹に渡す。氷で冷やしていても、そろそろ腐敗し始めるから、この辺りが限界だろう。空気がむしっとし始めた中、冷え冷えのお肉をはむはむと二匹が美味しそうに頬張る。そろそろモツ系を入れないと、栄養バランスが偏りそうだ。糞の状況を見ていたが、大分固いのがポロポロな感じになっている。食物繊維が足り無いように見える。
『あそぶの? ぺちゃぺちゃなの!!』
『ぜんてんおうてん!!』
まだ湿っている地面に興味津々なのか、服の裾を銜えて馬車の外に連れ出そうとするが、またどろ塗れになる。お風呂、無しにするよと伝えるとがーんといった感じでショックを受けて、寂しそうに馬車の中で伏せてふて寝を始める。わしゃわしゃして二匹の機嫌を直したら、御者を起こして、朝食の材料をリズと一緒に選別して、家の方に向かう。炊事場のある家は子供達が寝ているので起こさないよう気を付けながら、朝の支度を始める。火を熾していると気配に気づいたのかリナがそっと出てくる。
「おはよう。ジェシカは大丈夫?」
昨日の感じではかなりおどおどしていた女の子だが、眠り始めてからはリナに任せっきりだったので分からない。
「夜、何も無いと分かれば、大分落ち着いたで御座るな。まだ、知識が無かったのが逆に幸いで御座った。問題は……本当に好きな人間が出来た時に嫌悪が出ないかで御座るが……」
「それも含めて、一緒に付き合っていくって決めたんだよね……」
「無論で御座る。もう、子も離れた身。あの子一人の人生を背負えるのならば、また楽しいで御座るよ」
リナの決心の微笑みに、心の中が温かくなる。
「うん。出来る限りフォローするよ。さて、まだ体力が戻り切っていないだろうし、朝も粥かな。ささっと作ってしまおう」
出汁を引きながら、ぱぱっと支度をしていると、仲間達が銘々起き出して、集まってくる。通常の野営よりも快適に眠れたのか、皆の顔色も良い。ただ問題は……。
「うーん……。この家どうしようかな……。国に報告して、管理を移譲しちゃおうかな……」
魔術で家を建てる事は出来るが、無くす事は出来ない。便利なようで不便だ。知らんぷりをしようかなとも思っていたが、得体の知れない人間が拠点とかに使うと厄介だ。
「土台からありますから、ノーウェ様にお任せしてはいかがですか? この辺りならもうノーウェ様の警察権の範疇ですし」
「そっかぁ。なら立て看板でも立てておいて、引継ぎしちゃおうか」
そんな話をしていると、美味しそうな匂いに釣られてか、子供達も起き出してくる。身綺麗にして、食事を取って、ゆっくり寝たせいか、かなり元気が戻っているのを見ると、嬉しくなってくる。生来の明るさも徐々に戻ってきている。トトルもそうだが、ジェシカも若干はにかみながらだが、リナやチャットときちんと接してくれるので、一安心だ。
「じゃあ、後三日ほどの旅だけど、頑張ろうか」
そう伝えて、食事を始める。ここからは大きな出来事も無く、三日後の夕刻にはノーウェティスカに到着した。子供達の態度も軟化し、和やかな雰囲気で、門を潜った。




