第710話 子供達の今後について
テーブルの上に夕ご飯を並べていると、ガヤガヤと明るい声が聞こえて、ロットが先頭に子供達が入ってくる。先程までは絶望に染まっていた瞳も、今はきらきらと輝いている。身綺麗になって食事が食べられるという希望で一気に人が変わったようだ。最後にリナに連れられた少女が恐々と入ってきてテーブルに着く。私達は魚があるので、子供達が寝入ってから食べようという話になっている。
「では、大変だったと思うけど、今日は食べてゆっくり休む事。明日は移動となります。体力をつけて下さい」
そう告げると、欠食童子達が凄い勢いで、スプーンを上下し始める。
「うめぇ!!」
「これ、麦粥?」
「美味しい!!」
口々に美味しい美味しいと言いながら、明るい食卓が広がる。リナにくっついている少女も若干涙ぐみながら、ゆっくりと咀嚼している。
「空腹の後だからきちんと噛んで、ゆっくり食べてね」
リズ達が声をかけるが、どこ吹く風といった様子で食べ進める。下痢コースにならなければ良いなと思いながらその様子を眺める。正直、味なんて分からないような勢いで食べ進めていた子供達が、食べ終わって若干興奮した表情で話していたと思うと、こくりこくりと電池が切れたように舟を漕ぎ出す。虐待は無かったようだが、かなりの重労働を課せられていたようなので、へとへとなのだろう。奥の寝室に誘導し、毛布に包んで寝かしていく。少女に関しては最後までゆっくり食べていたが、リナから離れられない様子で、リナと一緒に寝室に消えていった。
「ご苦労様」
皆に労いの言葉をかけると、笑みが返ってくる。
「じゃあ、私達の分も作るわね」
ティアナが声をかけると、女性陣がさーっと用意を始める。
「食事時に申し訳ないけど、ある程度話は聞きだせた。後で話すよ」
私がそう伝えると、ある程度察したのか、若干の沈黙が炊事場に流れる。
「状況が分からなければ対処のしようもあるまい。頼む」
ドルの一言で、再度活気が戻った炊事場で女性達の戦いが繰り広げられた。
「じゃあ、食事にしようか」
大振りのアジっぽい魚の干物の脂がふつふつとしているのを前に、皆がテーブルに落ち着く。リナも少女の方が寝入ったのか席に着いている。取り敢えずと、もしゃもしゃと食べつつ、今後のスケジュールの詰めの方を先に済ませていく。ちなみにタロとヒメはまだ泥だらけのままなので、外で王都を出る時にもらった生肉を食べている。
「半日の遅れですか」
ロットの声に、馬車から出てきたテスラが口を開く。
「無理をすれば取り戻せますが、子供の体力が心配です」
その言葉に皆が沈黙する。
「安全第一かな。体調を崩してしまうと、間違いなく無駄に時間をロスする。遅れた分は諦めて、これ以上遅れない程度に頑張ろう。二台目の方の荷物を移動させて子供達が乗るスペースを確保しちゃうから。ロッサ、天気の方はどうなりそうかな」
「このままいけば、夜明け辺りで止むかと思います」
「なら、明日は早めに起きて、頑張って距離を稼ごう。じゃあ、食事も終わったし、子供も寝たから。詳しい話に入るけど……」
そう告げると、皆が神妙な面持ちになる。
「子供達の言葉を信じるなら、結論から言って、商家を名乗る人間が南西の保守派の村から連れて来た孤児というのが、彼らの素性のようだ。商売に敗れた商家の人間が略奪行為を企てて、誰かにしょっ引かれた。カビア、このタイミングで東に移動する大規模な護衛が付いている対象は誰かな」
「はい。王都を出る際に確認しましたが、雨の可能性が高いためか、動かれたのはロスティー公爵閣下とノーウェ伯爵閣下だけです。他、本日出立を予定されていた貴族、隊商も延期と報告しているようです」
「となると、ノーウェ様の可能性が高い。と言う訳で、ノーウェティスカに早めについて、罪状にプラスさせたいなとは思っている」
「罪状は何ですか?」
ロットの言葉に、若干の沈黙で答える。
「未成年への暴行かな。孤児の雇い入れは法的には問題無いが、強姦は罪だ」
そう告げると、皆がリナの方を向くがリナも凛とした表情でこくりと頷く。
「飢えて辛い状況でおまけに暴行と言う事で衰弱して御座った。ただ、ある程度心情を吐露して落ち着いたというのが現状で御座るな。ただ、もう少し長い期間様子を見ねば分からぬし、将来的に心の傷になっている可能性も御座ろう」
その言葉に、がりと歯ぎしりの音が聞こえる。ふと顔を上げると、ドルだった。
「まだ年端も行かない子供だろうに……」
沈痛な面持ちで拳をテーブルに乗せて震えるドルに、そっとロッサが拳の上で手を被せる。
「心情は分かる。ちなみに子供達が見逃されたのはノーウェ様が先を急ぐので、現状確認まではしなかった可能性が高い。ちょっとチョンボだよね」
そう告げると、溜息ともつかない息が皆から零れる。
「少人数の伏兵であれば、無視しても動かないと見ていた可能性はあります。が、保護したからには責任は生じますね」
カビアの言葉にこくりと頷きを返す。
「毒を食らわば皿までかな。『リザティア』で迎え入れる。まだ孤児院なんて必要無かったから建ててもいなかったけど、そろそろそういう設備も必要な時期だろうね。学校にも通ってもらおう。チャット、問題無いかな」
「大丈夫です。誰でも通えるというのが理念ですんで。教育状態によりますが初等教育であれば問題無く」
「後は自分達の生活が送れるように支援すれば良いかな」
「それと、別件なんですが。リナとも相談したんですが……」
チャットが口を開く。
「あの女の子、一緒に預かろうかと思ってます」
その言葉にチャットとリナに皆の視線が集まる。
「まだ経過観察が必要で御座る。大概、この手の境遇になると身を持ち崩して堕ちる可能性も御座るのでな。それならば、相部屋で一緒に見られればと思って御座る」
リナの言葉に、優しい視線が集まる。
「うん。戸籍の方は調整する。素性と本人の意思の確認は必要だけど、基本は合意する。まずはそんなところかな?」
私が問うと、皆の頷きが返ってきたので、女性陣からお風呂に入って夜を明かす事となった。ちなみに、タロとヒメはどろ遊びを満喫したのか、上機嫌でお風呂に浸かって爆睡したのはまた別の話だ。




