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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第三章 異世界で子爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第705話 要保護対象への変化

 その姿は貧しかったトルカの服装に比べても輪をかけて貧相だ。継ぎ接ぎだらけの綿の服が雨に濡れていても、汗染みで斑なのが分かる。また、その頬はこけており栄養状態がかなり悪いのだと判断出来る。


「子供……か。他の人達はどうしたのかな?」


 私が声をかけると、二人がこしょこしょと相談し、先程の声の子供が話しかけてくる。


「まだ信用出来ない……」


 その言葉に、私は若干途方に暮れた。


「分かった。私は貴族だ。君達の命は保証する。信用出来ないなら、君達に付いてきて欲しい。仲間の前で宣言したのなら、守らなければ仲間の信用も失う。例え、文章にしなくても、それは上に立つ者として致命的だ。理解してもらえるかな?」


 そう告げると、改めて長めの相談が始まる。出来れば、早めに丸太を片付けて、馬車の中か雨宿り出来る場所に移動したい。


「分かった。まずは、その宣言を聞いてから判断する」


 そう言って、先程から会話をしている男の子がこちらに近づいてくる。荒事を知らない子供だからしょうがないけど、人質にされたらどうするつもりなのだろうと他人事に思いながらも、それを判断出来る状況ですらなさそうだなと事態の悪さを感じる。倒木の前まで移動した馬車の後ろの幌を開けて、中を少年に確認してもらう。


「リズ、証人になってもらえるかな」


「ん? 何かあったの?」


「こちらを信用出来ないと言っているから。臨時議会があったから、南の道を下るまでにここを使う貴族がいるかもしれない。その時に、倒木があったら事だよ。早めに対処したい」


「分かった。で、何を宣言するの?」


「この子と仲間達の命を保証する」


「ふふ。うん、分かった。どうする? ご飯の準備でもしておく?」


 リズがそっと馬車から外を覗いて少年の姿を見て、リズが声をかけてくる。


「うーん……。ちょっと小屋でも作ろうかな。怒られるかな……」


 私がそう言うと、馬車の中で皆がぷっと噴き出す。


「もう……。誰が作ったなんて分からないよ。というか、小屋なんて作る事が出来るの?」


「大きなテントサイズなら、石板の強度ももつから。複雑な構造は無理だけど、簡易なテントくらいならいけるかな。お風呂に入らせてあげたい。それと炊事場も簡単な物を用意したい」


「了解。じゃあ、用意始めるよ。どうせ毎度の通り、皆の三か月分なんて乗せているんだから、十人くらい大丈夫」


「じゃあ、頼んだよ」


 そう声をかけて、少年に向き直る。


「これで信用してもらえるかな?」


「あ……あぁ」


 極力弱みを見せたくないのか、虚勢を張っているが、雰囲気には飲み込まれているようだ。それに食事と聞いてかなりの反応をしている。


「じゃあ、並行して丸太を移動させて、馬車を端に寄せる。このままだと邪魔だからね」


「分かったよ」


 少年の同意に合わせて、ドルに声をかける。待ってましたという感じで馬車から降りて丸太の方に向かうドルに後を任せて、ロットとフィアに同行してもらう。一人二人なら抱えられるけど、人数が増えれば難しい。動けない子供がいるのなら、運ぶ必要があるし、女手が必要になるかもしれない。


「じゃあ、呼んできてもらえるかな。もし動けないようなら、このお兄さんとお姉さんに頼んで。二人共お願い出来るかな?」


 そう伝えると、二人が力強く頷き、少年と一緒に林の方に向かう。

 林の手前では残った少年が心細そうに待っていたが、戻ってくると喜色を浮かべる。


「じゃあ、呼んできてもらえるかな。動けない子はいない?」


 そう尋ねると、こくりと少年達が頷き、たーっと林の中に駆けていく。


「ロット、他に隠れていそうな人間はいないかな」


「大丈夫ですね。しかし、素性が分かりませんね。この辺りの村となると開明派よりですし、あそこまで酷い状況というのが不明です。王都でもいくら物価が高くても、冒険者ギルドの十等級の仕事で最低限の生活は可能です」


「んー。そうかぁ……。はぁぁ、厄介ごとの匂いがする」


「見捨てますか?」


「無理なの分かってるよね……」


「それでこそです。あぁ、合流しましたね。動けない人間はいないと言っていましたが……後続が遅いですね」


 ロットが首を傾げていると、林から少年達よりも若い子供といって良い年齢の男女が出てくる。その数は十人。ただ、幾分成長が早そうな女の子の様子がおかしい。薄汚れているだけではなく、明確に生気が無い。


「病気も見る事が出来る。近付いても良いかな?」


 私が訪ねると、藁をもすがる表情で少年が頷くので、怖がらせないようにゆっくりと近付く。


「やあ、こんにちは」


 そう声をかけると、少女達が何も見ていないような表情で首を上げる。意図してというより音に反応しただけのように思える。その口の端に残る痕跡。体中にある無数の薄い痣。それに近付いただけで漂ってくる独特の精臭。ぎりと噛み締めて歯が軋むのを感じた。


「これは……誰の仕業だい?」


 私が押し殺した声で問うと、少年が叫ぶ。


「あいつらが!! ここまで連れて来たあいつらの仕業だ!!」


 あいつら……。勘弁してくれ。まだ要素が増えるのか。涙を流すかのように降りしきる雨の空を見上げ、そっと心の中で溜息を吐いた。まずは状況を確認しないと何も始まらなさそうだ。

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