第704話 盗賊の正体
「倒木……じゃなさそうです。加工された木のようです」
ロッサが確認し、偶然の産物じゃない事が判明する。馬車は気付かれないように緩やかに速度を落としている。
「ロット、相手は確認出来そう?」
前方に意識を凝らしているロットに聞くと、困惑の表情が返ってくる。
「何と表現をしたら良いのか……。小さな反応が十ほどあります」
「小さな?」
確認のため、口に出すと、ロットが首を傾げる。
「もしかすると、子供かもしれません」
子供が……何故? 良く分からないまま、場所はロットに特定してもらった状態で、木のかなり手前で馬車を停車させる。テスラにはもしもの場合の為に幌の中に入ってもらう。
「どこにいるのかな?」
「あの辺りに固まっています。重なり合って、人数が確認出来ません」
ロットが倒木のほんの後ろの林を指さす。うーん……危ない。もっと下がった方が気付かなかった馬車が事故を起こした際に影響が無いかと思うのだけど。
「うーん……。埒が明かないかぁ。チャット、もし何か飛んで来たら、援護をお願い出来るかな。交渉してみる」
「それだったら、ドルの方が良いんじゃないの?」
フィアがのほほんと言うと、皆も頷く。
「威圧感があり過ぎるよ。子供って話だし、何か訳があるのかもしれない。まずは交渉してみる」
そう告げて、後部より降り、馬車の前に出る。
「交渉がしたい!! 責任者を出して欲しい」
「金目の物と食料を置いていけ。周囲は射手に囲まれているぞ!!」
若いというより、幼さが残る高い声が林の中から響く。冒険者として生きていれば、兵として生きていれば『警戒』は身近な物だが普通に生活をしている限り、身近に存在する事も無い。分からないのも無理ないか。
「君達は、貴族の行動を阻害している。私はこの先のノーウェティスカの領主の寄子アキヒロだ。この周辺に関しては、警察権を有している。現状であれば、倒木の処理と言う事で問題にはならない。まずは、話がしたい」
ここまで近付けば、私でも分かる。少し大きめの気配が二人と、残りが十人程度の塊。こっちは小さな子ばかりだ。
「そう言って、殺すつもりだろ!!」
かなり興奮した声が返ってくる。本職ならこの時点で威嚇射撃がくるだろうに。周辺の矢を撃てる範囲にも人の気配は感じない。
「倒木があるだけで人は殺せない。何にせよ、まともに話がしたい。それが叶わないなら、殲滅に入る。どちらを選ぶのも君たち次第だ」
取り敢えずブラフをかましてみるかと、若干語気を強めて返答する。子供と分かれば、一気に殲滅する気は失せた。森の奥で微かに話し合いの声が聞こえるのを気長に待つ。雨が染み込むなぁと髪の毛をオールバックっぽく引き上げながら待っていると再度声が響く。
「信用出来ない!!」
若干切羽詰まった声に怪訝な物を感じる。しょうがないかと、道の中心に爆炎の赤い花を咲かせる。
「君達の場所は特定している。こちらは林ごと燃やし尽くす事が出来る。まずは話し合いをしなければどういう対応を取る事が出来るか分からない」
威嚇の後は慌てたような会話が繰り広げられているのが、こちらからでも分かる。もうひと押しかな。気配の中心に小さな火種をぽふりぽふりと幾つか生み出す。
「これが最後の警告だ。そちらの人数、配置が特定出来ているのが理解出来ると思う。まずはそちらの話を聞きたい」
そう告げた後の長くも短い沈黙。流石に夏場でも延々雨に打たれるのは嫌だなぁと思い始めた頃に押し殺したような声が響く。
「分かった。出ていく。抵抗はしない。話を聞いて欲しい」
その声の後、ごそごそと林から出てきたのは、中学生くらい、十三、四程度の男の子だった。




