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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第三章 異世界で子爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第702話 王都からの出発

 結局アーシーネがペールメントに抱き着いたまま眠ってしまったので、そのままベッドに寝かして川の字で眠って起きた八月十七日。窓の外は生憎の曇り空。空気は湿り気を帯びており、今にも降り出しそうだ。風は西から東に流れており、移動の間付きまとわれるんじゃないかなと若干憂鬱に思う。その分気温は下がっている。アーシーネの服に触れると、子供らしく体温が高く若干湿っている。太陽の様子は見えないが、明るさからしてもう顔は出しているはずだ。


「おはよう、リズ」


「ん……おはよう、ヒロ」


「寝ぼけているところ悪いけど、アーシーネを拭ってあげてもらえないかな。出発の時間を考えたら、悠長にお風呂の時間は無さそう」


「ん……んーん。はぁ。分かった。ヒロは?」


 ぐいっと上体を伸ばしたリズが聞いてくる。


「タロ達のご飯をもらってきて、そのまま食堂であげてくる。ペールメントとお別れしたいだろうし」


「あは、優しいね。いってらっしゃい」


 ペールメントに寄りかかりながら眠っているタロとヒメを起こす。今日もペールメントは起きても、じっと二匹が起きないように伏せていた。優しいお母さんという感じだろう。


『はう……。ごはん……なの!?』


『しょくじ!!』


 起きたら食事という能天気な二匹をペールメントが軽くグルーミングして、完全に目を覚ましたところで食堂に移動させる。タライには多めのお湯を汲んでおいたのでリズも一緒に体を拭う事が出来るだろう。食堂で三匹を待たせて、厨房に声をかける。もう用意をしていたのか、イノシシ肉をでんと三枚のお皿を乗せたワゴンで渡してくれる。聞いてみると、ロスティーとノーウェは既に発ったようだ。と言う事は夜明けの前から用意をして出発したのだろうなと。

 本当なら庭師の人にお願いしたいが、ペールメントの前に皿を置いて、口を付けたところではふはふしているタロとヒメの前に皿を置く。


『うまーなの!!』


『ぱぱ、すごい!!』


 こちらに来てから鳥が多かったので、久々のイノシシにしっぽが千切れんばかりに左右に動く。ペールメントは楚々と食べているのに比べて、まるで別の生き物のようだ。食べ終わった皿に水を生み、しゃばしゃばと飲み終わった後に、食後のグルーミングを始めた頃にペールメントとの別れを告げる。


『また、会いに来るよ』


 タロとヒメにそう告げると、じーっとペールメントを見つめる。そっとタロが近寄り、鼻と鼻をくっつけて、若干哀愁を帯びた声がきゅーんと鳴く。


『さみしいの……あいにくるの……』


 追うようにヒメも近付き、頬と頬と触れ合わせる。そして耳の後ろをくいくいと擦り付ける。まるで自分の匂いを移したいかのようだ。


『さいらいよてい』


 そんな寂しそうな二匹と違って、冷静なペールメントがヴォフっと短く鳴く。


『あなたたちのあるじはいいあるじなの。つくしなさい。そしてまたせいちょうしたらかおをみせなさい』


 短い別れの挨拶が終わると、ペールメントがそっと二匹の顔を舐めて、立ち上がり、食堂から勝手口の方に向かっていく。二匹は中途半端に立ち上がり、行ったり来たりしていたが、最終的には寄り添ってくる。


『まま……』


『ぱぱ』


 前に来た時はそこまででも無かったが、二匹とも成長してきて、別れの機微、親しい者との別れというのが理解出来て来たのか、寂しそうだ。両手でわしゃーっと掻き抱き抱きしめる。


『また、来ようね』


『くるの!!』


『さいらい!!』


 キャンとオフという短い返事の二匹を連れて、部屋に戻った。部屋ではさっぱりした様子のアーシーネがブリューに髪を束ねてもらっており、二匹を見つけるとてーっと走ってこようとして、ブリューに停められてぐえっと言う感じになっている。


「体は清められた?」


「うん、私の方も終わった。さっき侍従の人が来て、皆が起きたから食事にしようって」


「じゃあ、行こうか」


 箱に二匹を残し、食堂に移動する。待つか待たないか程度で皆が揃う。朝の食事を始めながら、戻りの打ち合わせを行う。


「補給はロスティー様の方でやってくれたみたい。念のため、数量の確認だけして、終わったら出発しようか」


「侍従の人から注意をもらっています。貴族が急ぎで移動していると言う事が広まったようで、盗賊が動いているという噂が流れているようです。ノーウェティスカ以降は大丈夫でしょうが、王都からノーウェティスカまでは襲撃の可能性がありそうです」


 ロットの言葉に皆が曖昧な表情を浮かべる。正直、ミノタウロス戦を経てしまうと変な度胸がついてしまった。それにレイがいないとは言え、ロットもテスラもいる。然程の脅威にはならないかな。いざとなれば荷馬車の二台目に放り込んでそのままノーウェティスカに輸送してしまえばいい。


「さくさく退治してさっさと帰ろうよ」


 フィアの能天気な言葉に皆が頷く。


「油断をする気は無いが、ここにはもう用も無いしな。早めに戻ろう」


 ドルも既に兜以外は完全装備状態だ。


「分かった。じゃあ、食後の休憩は無しでそのまま積み込みに。雨雲に負けないように進む事にしよう」


 そう告げて、解散となった。急いで荷物を積み込み、馬車に乗り込む。見送りに来てくれた屋敷の人達に手を振り、別れを告げて出発となる。元王妃の起こした小さな問題はこれで処理が終わった。後は、収穫祭を終わらせて、隣国へ塩の輸出を調整し始めなければならない。先の事を考えながら、テスラに出発を告げる。カラリと回り出した車輪は力強く走り、王都をあっさりと後にした。

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