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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第三章 異世界で子爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第699話 塩ギルド対策の方針定義

「伯爵閣下。面白そうな話ですね。生産者として気になります。塩ギルドですか。どのような調査を行っていたのでしょうか?」


 トキリと鳴った胸の動悸を隠し、微笑を浮かべ聞いてみる。


「ふむ。領地の塩の購買量が微減しているという話でな。調査を行いたいと言う事だった。儂のところまではまだまだ出回っておらんからな。備蓄に回す分を置き換えただけだが……」


「その程度でも、やはり気付きますか」


「王都に近いというのもあるのだろうな。ギルドのワラニカ本部が直接訪問してきた。向こうも商家ならば販売量は把握している。塩の消費量など人口と照らし合わせれば大きく変化する物ではない。その辺りで不審を感じたんだろうな」


「不審……ですか?」


「正規品ではない塩が流通していないか。それを確かめているようだったが……」


 その言葉を聞き、一旦は胸の鼓動が収まるのが分かった。まだ確信には至っていない。ただ、統計情報を持っている相手だ。捜索範囲が増えればいつかは突き止められるか……。そう思いながらロスティーの方を見ると、小さく頷きが返る。最初の約束。塩ギルドからの不干渉の履行が近付いてきている。


「しかし、必需品をギルド側に握られている状況は国としても良くは無いだろう。購入経路が複数あるなら、やはり安心だしな」


 先程の伯爵が続けると、他の貴族達も追従する。やはり、生きる事に必要な物資を握られている事に危機感を覚えるのが人の世の常ではあろう。また、何かあっても塩ギルドからは守りたいと言い始める貴族がほぼだった。同意に至らなくても消極的賛成を含めると全員だ。ただの宣言なら何の意味もないが、欲得も含む話での同意である。強い動機があるならある程度信用出来るかなと。


「生産はこれまで以上に拡大します。ただ、私も子爵の身。そこまでの権限がある訳ではないです。ゆっくりと拡充を進めて参ります」


 周囲から若干の落胆は感じるが、貴族になって一年にも満たない身として、受け入れられたのはありがたい。ここで製法だけを取り上げようとする動きが無いのは十分に理性的だ。また諸条件も分からないのなら、自分達で作るよりも他人に作らせて買い付ける方が有利と見れるだけの計算が出来なければ開明派として貴族なんてやっていられない。時間こそ何物にも代えがたい資産だ。金で時間を買えるなら、そちらを選ぶだろう。ついでを言うと固い投資先と言う事で、融資を行いたいという相談も受けた。ただ、現状は資金よりも人材の方が不足しているので一旦は角が立たないように断った。

 そんな感じで折角の機会と言う事で情報交換を行うと、銘々解散となった。次回は十二月開催の定例会まで会う事も無いかな。別れを告げて、ロスティーの屋敷に戻る。


「思ったよりも早いのか、それとも遅いと見るべきか……」


 そのまま応接間に入ると、お茶の到着も待たずロスティーが口を開く。


「流通量を考えれば、機敏な反応と考えます。ただ、塩ギルドそのものに実行手段は無い。どこかとつながりを結ばないかの調査は進めなければいけないと思うけど……」


 ノーウェが若干迷いながらも危惧を表明する。そう、塩の販売料金に税も含まれているので基本的に税の取り立ての手段を持つ必要はない。ただ、その資金を使って傭兵ギルドなどと手を組んだ時が問題ではある。


「そうなると、前に話が出た傭兵ギルドの影響の縮小は急務となるか……。これを見越してか?」


 ロスティーが口を開く。


「そこまで未来を見据えていた訳ではないですが……。ただ、国の動向に別の組織が介在出来る状況は不健康であろうと考えただけです」


 私が答えると、ロスティーが瞑目する。


「ふむ……。これまで通りであれば問題は無いと考えていたが、我が孫の技術がより浸透するなら、環境そのものが変化を起こすか……。前提そのものを変えねばならんな」


「このまま進めば、うちにも来るだろうしね。現在流通量が最も増えているのはうちだから、調査に入られれば確実に問題視されるだろう。どうにか理性的に対応が可能か、まずは相手側の出方を見るしかないかな……。その辺りの連絡は密に取りたい……」


 ノーウェが言うと、ぱちりとウィンクをする。


「竜……ですか?」


「滞在してもらえるとありがたいね。鳩以上の速度で情報をやり取り出来るとなれば、対策はしやすくなるしね。父上のところにもいてもらえるとありがたい。情報が筒抜けになっても構わない。その位には信用しているよ。正直、私達が何かしなくても、君は勝手に儲けるだろうしね」


 ノーウェの言葉にロスティーと一緒に苦笑を浮かべてしまう。


「そうですね。一人で長期滞在というのは問題がありそうなので、順番で交代してもらうようにします。出来れば、竜の望みも尊重したく思いますので」


「うん。何も竜に負担をかけたい訳ではないしね。君も元々はそういうつもりだったんだよね?」


 その言葉には曖昧な笑みを浮かべる事しか出来なかった。有事の際には、ロスティーとノーウェに付いてもらう可能性は考慮の内だったからだ。ただ、私に伝えたくない内容もあるだろうから、敢えてこちらから話はしなかった。


「大きな組織を相手にするのだ。少々の問題には目を瞑ってもよかろう。そもそも問題にもならぬ話故な。貴賓として遇する。出来れば頼む」


 ロスティーが頭を下げて、ノーウェもそれに続く。


「分かりました。竜達と相談してみます。昨日の話でも出た加工品の流通等もありますので、ここで塩の生産を頓挫させる訳にはいきません。まずはノーウェ様に塩ギルドの動向を伺ってもらいたく思います」


 その後は、塩ギルドの動きに対する想定問答を軽く行い、解散となった。部屋に戻ると、リズがアーシーネと遊んでいた。


「あ、おかえりなさい」


「おかーり」


 手を振ってくれる二人に、笑顔を返す。さてさて、この笑顔を守るために頑張りますか。古い脅威に新しい脅威。レイヤーは違うけど、世の中敵ばかりだなと表情には出さず、深く心の中で溜息を吐いた。

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