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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第三章 異世界で子爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第695話 朝の散歩

 目を開けると慣れない天井。湧き上がってきた欠伸に身を委ね、ぐいっと体を伸ばしてから上体を起こす。窓からは部屋を藍色に染める光の筋が見える。そっと窓を開くと染まりゆく青空が見えた。八月十六日は晴れ。よく見ていると、庭師の人が暑くなる前にか木々に水をやっている。ふと振り返ると、優雅に伏せたペールメントが薄目を開けてこちらを覗いている。


『おはよう』


『おはよう、はやいのね』


 ウッフみたいな短い返答と一緒にすらりと立つと、支えにしていたタロとヒメがくてんと転がる。


『あまえんぼうね』


 心の声に少しだけ母性と苦笑を混じらせながら、二匹を舐めるとぱちりと目を覚ます。一瞬混乱していたようだが、ペールメントと私がいるのが分かって安心したのか、次に何か楽しい事が始まるのかなとワクワクしながらしっぽをぱたぱたと動かしている。


『さんぽのじかんよ』


 一緒に付いてくる? という瞳で見つめられたので、お供をしようかなと。リズが起きるにしてもまだ時間が早い。私も少し考え事がしたかったので、一緒に朝の散歩に付いていこうかと思う。ペールメントがかつかつと小刻みにリズムよく爪音をたてながら廊下を歩くと、まとわりつくようにタロとヒメが後ろを追う。私は早歩きくらいの速度で後ろを追う。


『ごしゅじんもたまにいっしょするわ。でもつかれているときはだめなの』


 勝手口をペールメントが押すと、するりと開く。庭師が仕事で出た時にペールメントが散歩に出た時のために開けてくれていたのだろう。

 タロとヒメは生い茂る草木に好奇心を刺激されて、クンクンブルドーザーになるが、ペールメントに諭されるとしょんぼりしながら、それでも楽しそうに後ろに付いていく。庭と言っても、北側の丘も含めればかなりの広さになる。庭としての境界の柵をジャンプで超えると、丘の方に登り始める。狼達は人間が警護しきれない北側を重点的に回っているらしい。この辺りでお仕事の棲み分けがされている。

 タロとヒメは中々、木々が多い坂道を登った事が無いので、興味深そうに付いていく。どうしても好奇心が抑えきれない感じで木々に近づくと甘噛みされている。テリトリーの確認は容認されるようだ。

 散歩していると、幾つかの群れが散っていたのか少しずつ狼達が集まってくる。タロとヒメは顔を知っているのか、軽く挨拶を交わすだけだが、私は知られていないので、ペロと右手のひらを舐めて、差し出して挨拶を交わしていく。ペールメントが紹介してくれるので、危険な雰囲気は感じない。

 丘を登っていくと、徐々に濃い藍色から赤味のかかった紫、そして濃い青に変化していく空が見える。中腹くらいの開けた場所に到着すると、狼達は銘々が寛ぎ始める。タロとヒメもその中に入って、一緒にグルーミングしたりされたりと楽しそうだ。私も丁度良い岩に腰掛ける。眼下には少しだけ小さく屋敷が見える。ここから監視されると厄介そうなので、狼達が守ってくれるのはありがたいのだろうなと。


『すこしきゅうけいするわ』


 優雅に横座りしたペールメントが宣言すると、輪が若干崩れ、和やかな雰囲気が広がる。私も自分の思考に沈む事にする。

 前王妃に関しては、動きが分からない。ただ、どこかのタイミングで一度きちんと対峙する事は必要だと思う。献策した人間、愚策を打った人間としてきちんと向き合うべきであろう。ロスティーとノーウェは責任者としての立場から二人で解決するつもりを強く感じるが、人間の、まして女性の心情を相手に正論を言っても何も始まらない。面罵を受けて初めて話が出来るというのが現実だろうなと。

 ふぅと一息溜息を吐くと、タロとヒメが心配したように寄り添ってきたので、軽く撫でて遊んでおいでと告げる。

 後はロスティーの決心かな。ペルティアが支えながら後十年を老練の政治家が躍進を目指せば、国が動くだろう。今までのロスティーは体制護持の姿勢を前提に、開明的な発想で政治を進めていた。足場は固めつつも、新しい事も取り込んでいこうという流れだが、足場固めにやや重心が寄っていたのは否めない。これも、そろそろ政治生命を考え始めなければいけないという年齢によるものだったのだろうなと。


『君のご主人様は変化を受け入れ、国を大きく動かすつもりだよ』


 分かるかなと思いながら、ペールメントに告げてみると、こくりと小首を傾げる。


『わからないはなしね。でも、ごしゅじんはいつでもやさしいわ。それがかわらないのなら、みなふあんなくいきていけるものよ』


 ロスティーが決心しながらも日常は変わらないのなら、本気なのだろう。ならば、私も出し惜しみせず、開明派の後押しをすればいい。政体がどう変化するかが分からないが故に出しにくかった技術も、十年のフォローがある状態で広められるのなら、爆発的に国の経済を発展させられるだろう。ただ、地球の歴史と同じく、労働者が淘汰される時期はやってくる。そのセーフティーネットを想定しながら、先に進むべきだろうなと。

 ふわふわとした妄想や、予想を固めながら太陽の動きを見ていると、空は澄んだ青空になってきた。


『さぁ、戻ろうか。私達のあるべき場所に』


 ペールメントに告げると、細い目を笑顔のように曲げて、ヴォフという短い返事があった。さぁ、政争の時間だ。

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