第694話 ペールメントの訪問
お風呂から上がって、リズがアーシーネと一緒にペルティア達とお風呂に向かう。熱くなった体を窓辺で冷やしながらぽへりと待っていると扉の前が騒がしくなる。ノックに応えると、庭師の人だった。扉が開かれると、上機嫌のタロとヒメがてーっと走ってきて、わふーっと言う感じで飛び掛かってくる。そのままぱたりと倒されて、顔と言わず、耳の後ろと言わず、舐めまわされる。
「うひゃー、こら、タロ、ヒメ。お風呂に入ったから、駄目。おーい!!」
『ままなの!! たのしかったの!! えものとったの!!』
『かりざんまい!!』
はくはくと肩の辺りを甘噛みするタロとお腹の辺りから服の中に潜り込もうとするヒメを何とか大人しくさせて、お座りの状態までもっていく。それでも激しく振られるしっぽが興奮の度合いを表している。ふと見るとペールメントも部屋の中で伏せてふわっと欠伸をしながら佇んでいる。
『おおきくなって、たいりょくはあるわ。でも、けいけんがおいついていないの。むだなうごきばかりよ。もうすこしめんどうをみるわ』
ぽてんと顎を床にくっつけて寛ぎながら、ウォフウォフと今日の報告をしてくれる。そっと頭を撫でてみると、緩やかにしっぽを振って、親愛とリラックスを表してくれる。
『でも、ほんとうにすなおないいこ。それにげんきよ。たのしそうなの』
耳の後ろをかいてあげると、目を細めながらふわと欠伸をする。それを見て、タロとヒメがうずうずとしていたかと思うと、気付かれないと思ってかじりじり接近してきたので笑ってしまう。おいでと告げると、今度は少し落ち着いて近付いてきたので、そっと二匹を抱きしめて、楽しかったねと囁いてみる。
わしわしとかき撫でていると、お風呂上がりのリズとアーシーネが部屋に入ってくる。
「あー!! わんわん、ちがうの!!」
そう叫ぶと、ててーっと近付くとそっと抱きしめる。いきなり抱きしめると流石にペールメントも恐怖で反応しそうだが、タロとヒメで慣れたのか、ちょっと硬めの毛の中にもふっと埋もれている。
「ちょっと、かたい……。でもあたたかい……」
首元に抱き着いたアーシーネをペールメントが目を細め見つめたと思うと、ぺろぺろと顔を舐めまわし始める。
「うひゃー、くつぐったい!!」
『つがいのこなの?』
ペールメントがキュンに近い声で聞いてくる。
『預かっている子です』
『そう。においがちかいわ』
ペールメントがぺろぺろと舐め続け、ひゃーっとアーシーネが逃げていく。逃げた先に見つけたタロとヒメに包まり、幸せそうな顔をしている。
「あー。もう、また汗かいちゃうよ……。ヒロも見ていたら、止めないと」
「うん、でも嬉しそうだったから」
「子供は遊ぶのに夢中になるんだから、止めるのが大人の仕事だよ」
リズが苦笑を浮かべながら、布を水に浸して絞り、そっとアーシーネに近づいて顔を拭う。
「暑くないかしら?」
「うん、あたたかい!!」
「そう? 寝るまではいいけど、きちんとベッドで寝ようね」
リズがそういうと、こくんとアーシーネが頷く。にこりと微笑み、リズがアーシーネの頭を軽く撫でて、ソファーにかける。その横に私もかけて、そっと氷水を差し出す。
「ありがとう。お婆様も移動で大変だったみたい。暑い最中だから、体力が落ちてらっしゃると思うの。北の方は涼しいから、余計に気温差で辛そうだわ……」
「北の人にとって、暑さは幸いみたいな雰囲気はあるけど、これだけ暑いとね。帰りは竜で送った方が良いのかな?」
「あ、お婆様言ってたよ。竜に乗ってみたいって。馬も乗るから大丈夫って仰っていた」
「元気だよね、ロスティー様もペルティア様も」
そう言って、二人で笑いあう。
「ロスティー様から、話をもらった。若返りのアーティファクト、使うって」
「そっかぁ。今のお婆様の姿は、また十年後までお預けだね」
「お婆さんの記憶も無いのに、ごめんね」
「ううん。お婆様が元気になられるなら、嬉しい。沢山料理とか教わらないといけないし」
リズが嬉しそうに微笑む。
「でも、少しの間体調が崩れるんだよね……。そろそろ収穫祭だし、少しだけ心配かな」
「大丈夫だと思うよ。ロスティー様も付いているし。タイミングは見計らうよ」
「ん。でも今でも色々やりたがるお婆様なのに、若返ったらどうなるんだろうね」
「きっと、色々楽しいと思う事をするんだろうね。リズも巻き込まれるのかな」
「ふふ。楽しみだよ。ヒロもその時は一緒だね」
「うん。一緒に、ロット達も竜達も皆で幸せを紡いでいこう」
そんな会話をしている内に夜も更けてくる。ペールメントはタロ達と一緒に寝るらしく、今日は箱の外で、三匹が固まって眠っている。私とリズはウトウトし始めたアーシーネを挟んで、ベッドに潜り込む。そっとリズと手をつないで、目を瞑ろうとすると、星明りに照らされた窓辺のスリットに微かな埃が舞って、まるで妖精のような景色だなと思いながら、少しずつ意識を失った。




