第691話 神様に酔いを醒ましてもらう世界
単行本の第二巻の発売が決まりました。
発売日は三月三十一日となります。
今回は書下ろしで、タロの前日譚も載せています。
どうぞよろしくお願い致します。
飲んでいなかったのか、テスラがしっかりした足取りで先導し、馬車へと誘導していく。私は乗り込んだ瞬間、うでーっと浜に転がるトドのように突っ伏す。
「ヒロ、本当に大丈夫?」
「あー、駄目かも。動いたら、一気に酔いが回ってきた……。アルコール度数低くても、量を飲んだら、きつい……」
そう告げながら、ディシアに解毒のお伺いを立ててみる。
『立場上仕方ないとはいえ、過ぎれば毒ね』
呆れたような調子の声が頭の中で響いたと思うと、揺れからくる気持ち悪さが一気に軽減される。残るのはほのかな酩酊だけだ。
『血中のアルコールと代謝物質の一部を除去したわ。今胃の中に存在する物は許容なさい』
あぁ、この酩酊は胃から吸収されているアルコールか。このくらいなら何とかなるかと上体を起こす。
「寝ておいた方が良くはなかろうか? 何であれば癒すで御座るが……」
リナが言うのに、右手を差し出し、制する。
「大丈夫。神術で癒した。胃の中の分までは吐かない限りどうしようもないけど、このくらいなら平気」
「はぁ……。便利で御座るな……」
呆れ気味のリナにひらひらと右手を振って、座席に着く。
「『フィア』の人間も入れ替えで式典を開かないと駄目かな。今度は『リザティア』の残りと合わせて五百人強だから、そこまで忙しくならないだろうし」
「そっちはうちの管轄が大半だから、話しておくー」
フィアがひょこっと手を上げながら言う。新兵訓練の後は一旦軽装部隊に所属して実際の兵としての実践を経験してもらってから、希望する部隊に移動となる。『フィア』に所属する大半はこの軽装部隊の時期に拠点防衛訓練で出向した兵達がそのまま在地の防衛軍として残った形になっている。その為『フィア』の名の通り、あそこの兵に関してはフィアが管轄している人間が主だ。
「うん。王都の件で予定がずれちゃったけど、なるべく早めに実施した方が良いと思う。これ以上『フィア』に兵力を集中する訳にもいかないから、入れ替えの人間は既婚者でお願い出来ればありがたいかも」
そんな話をしながら領主館に到着する。部屋に戻ると、ててーっとアーシーネと遊んでいた二匹がこちらを発見し、近寄ってくるが、付近まで来ると足を止めてくるくると周囲を歩き回る。
『くちゃいの……』
『しげきしゅう……』
ふむ……。お酒の匂いか……。普段と違う動きにリズがきょとんとしていたが、説明すると納得する。
「鼻が良いものね。少し休んだら、お風呂に入って匂いを消す?」
リズからの提案にこくりと頷きを返す。熱い湯に浸かって、酒精を抜きたい。それに夏の青空の下で飲み物を飲み過ぎたせいで、体中がべたべただ。近付きたいが近付けない二匹と、それを面白そうに眺めるアーシーネを見守りながら、くてんとソファーの上でリズと体を預け合う。途中で侍女が夕ご飯をどうするか聞いてきたが、正直受け付けない。それでもそのまま寝ると胃が荒れそうだったので、粥だけをお願いして、少し寝入る事にした。
『まま、よわってるの……』
『ぬくくする?』
『くちゃいの……』
アーシーネを乗せたタロとヒメがベッドの横でいつまでもクルクルと同じ事をクゥーンと相談しているのがおかしいなと思いながら、つかの間の夢に浸る事にする。明日は王都に向けて出発だなと思いながら、ふわふわとした感覚のまま、意識を失った。
目を覚ますと、夕暮れにもまだ早いくらいの時間だったのが、すっかり夜も更けていた。待機している侍女に聞くと、仲間達はもう食事も済ませて寝入ったらしい。リズを起こして、熱めの湯に浸かり、残っていたアルコールを抜く。冷えていた胃が動き出し、食欲も湧いてきたので、リズと二人、はもはもと粥を食べて再度眠りに就く。移動の準備は侍従達がやってくれているので、明日の朝確認すれば良いかなと。
明くる八月十日は昨日のままに晴れと。少し早めの朝ご飯を済ませ、仲間達と一緒に馬車に乗り込む。今回は荷物をもう一台の方に移動させてその代わりにアーシーネとブリューが増えている。通常だとトルカまで四日かかるが、野営の準備を魔術を使って最低限にする代わりに距離を稼ぐ算段で進む。道の方もローマ街道化が完了しているので、日が落ちるぎりぎりまで移動可能だし、日が落ちた後も火魔術で灯りを取りながら作業が出来るので、三日強でトルカに到着した。そのまま休憩を挟まずノーウェティスカで補給し、そのまま王都に到着したのが十五日の夕方だった。ちなみに子供だからぐずるかなと懸念したアーシーネだったが、タロとヒメと遊んでいたのと、地上の移動が珍しいのか終始ご機嫌だった。
「来たか、我が孫よ」
屋敷で迎えてくれたのは、ロスティーとノーウェ。
「ようこそ、お久しぶりね」
そして、ペルティアがにこりと微笑み両手を広げていた。




