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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第三章 異世界で子爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第686話 神理カウンセリング

単行本の第二巻の発売が決まりました。

発売日は三月三十一日となります。

今回は書下ろしで、タロの前日譚も載せています。

どうぞよろしくお願い致します。

 思ったよりも話し込んでいたのか、空はすっかりと赤く染まっていた。レデリーサと出会ったのもこんな逢魔が時だったなと思いながらやや下がり始めた気温の中、歩を進める。ふと気付くと、心地良い温度に変わり、湿度も感じない程度になっている。夕方の忙しい時間帯なのに、人影もまばらになり、そして途絶える。あれと思った瞬間だった。

 バギンっと空間が砕ける音が響き、割れ目から漆黒が漏れ出す中から細く白い腕がにゅっと出てくる。見覚えのある軍装だなとぼけーっと見ていると、ぱきりぱきりと卵の殻を割るように空間の亀裂が広がり、ぬぅっと小柄な人影が出てくる。


「久しいのじゃ!!」


 よっという感じで、右手を上げて気さくな笑みを見せるディアニーヌの姿がそこにあった。


「お久しぶりです。えぇと、何かありましたか? しかもこんな町中で」


「人払いはしておるのじゃ。ログをみていると、どうもお主がこの世界に不信感を感じているようじゃったのでな」


 不信感? はて……。あぁ、前王妃の件かな。どうも王族の教育方針が真っ直ぐ過ぎる感じは受けていた。


「心当たりはあるようじゃな。うむ、教育の件で釈明をしておこうと考えてな。それと別件ではあるのじゃが、これも重要じゃな」


 ふむむとやや眉根に皺を寄せて、ディアニーヌが瞑目し、首を傾げる。


「儂と戦略を司る神の権能が増えたのじゃ。これに関してはこの世界の住人の仕業とは考えられん。となると、お主くらいなのじゃ。心当たりはあるかの?」


 うぇっ……? 神様の権能が増えるとか、そんな大それた事に心当たりなんてあるかーと思ったが、戦略? と疑問に思う。


「戦略……ですか? 戦争とかではなく?」


「その辺りは明確に分かれておるのじゃ」


 統治と戦略……。んー……。あぁ、アテーナーの権能か。『梟の瞳(グラウコーピス)』が原因か?


「私が新たに作ったスキルが原因でしょうか?」


「むむむ。以前、承認依頼があったスキルじゃな。名前だけと思っておったのじゃが、イメージと言霊(ことだま)が地球の環境とリンクしたのかもしれぬの」


「何か問題はありますか?」


「おぉ、すまぬのじゃ。問題は無い。出来る事が増えたのでな、礼は告げねばならぬと思っておったのじゃ」


 原因が分かると一転して明るい笑顔に戻る。


「それは良かったです。では、不信感の部分はどうなのでしょうか?」


「うむ、本題じゃな。十中八九人の情が薄いやらと考えておるのじゃろうなと推測しておるが、どうじゃ?」


 人の情が薄い……。ふむ、確かに。順法精神が強すぎて人としての情けが弱く感じるのはある。体制のために犠牲になる事が軽い。それは前王の死の時にもどこかで感じた事だ。


「国王陛下もロスティー様も国の為政者としての判断は傑物と感じますが、人の感情に鈍感な部分があります。栄達を求める事や責任問題には的確に対処されていると感じますが、もう少しウェットな部分が判断の基準に入っていないとは感じますね」


「なるほど……。しかし、それはちと性急ではないかの?」


「性急……ですか?」


「うむ。立憲君主制がやっとという話は過去にしたの? 法が王権よりも上位に来る環境。これを成す事により、人が権力の専横より身を守る事が可能になった。それは地球の歴史を見ても明らかじゃろう?」


「はい。納得がいきます」


「ただ、これもまだまだ借り物の話じゃ。本当の意味での自由は、求める者が勝ち取っていくもの。今はまだ、法を遵守し、人が法に守られる段階じゃな。ここから法を解釈し、人間が個々の自由を勝ち得ていく。そのプロセスを踏んでこそ、初めて生きた法体制、民主主義の萌芽が生まれるのじゃろうな」


「借り物……ですか……」


「お主の世界は高度な教育と、強固な道徳観念が存在する。その上で自由と言われても、自らブレーキをかける事の方が多かろう? 今はまだこの世界ではブレーキのかけ方も分からぬからのう。縛りを強くせねば、すぐに破綻しおるのじゃ。そういう意味では砂上の楼閣。脆弱な法体制と言えようの」


「が故に、教条主義になる……と?」


「教条主義というのは酷であろうがな。まだまだ緩衝を噛ませられるほど、意識が高まっておらんと言う事じゃな。ここで手綱を外すと獣に戻るぞ?」


「なるほど……。んー、そういう意味では、王権の濫用などに関して、ディアニーヌ様の警告が飛ばなかったのが気になりますが?」


 そう問うと、ディアニーヌが悪戯な表情を浮かべる。


「濫用というのは迷惑を被ったから思う事であろう。手続きはきちんと踏んでおるし、抗う事も可能故、目こぼしはする。実際、抗いようはいくらでも考えられたであろう? 濫用とはまた違う。神が手出しをする条件は、抗えぬ者に救済を、じゃ。法外な利率で借金を負わせ、がんじがらめにして意にそぐわぬ事を強制する。そのような行為は正されねばならぬからな」


「というと、私を襲撃しに来た猟師の人達も同じような境遇かと思いますが、そちらの救済がなされなかったのは何故でしょうか?」


「返せる借金じゃったし、領主が駄目ならその上に陳情する事も出来る。物理的手段すら封じられ、嘆く事すら出来ぬ者とは違う。優しくはあっても、甘くはないのじゃ。自ら命を掛け金に(ベット)する人間に救いを与えるほど、儂等も甘くはないのじゃ」


 なるほど……。あの状況だとまだ逃げ場があった。それを逃げずに安易な方向で解消しようとしたから神は見捨て、罪を償う形になったと。ふむ、それは理解出来なくも無いか。


「厳しいですね……」


「厳しいのかのう。お主が自らに課しておる信念の方が余程に厳しいと思うがのう。あまりに自暴自棄と見える故、どこまでを救うべきか、毎度迷うのじゃ。地球の日本の民はほんに我慢強い。我慢強く、愚直で、真っ直ぐなのじゃ。それ故に、愛おしいというのもあるがのう」


 ディアニーヌが目を細め、眩しい物を見るかのような視線で見つめてくる。


「そんなつもりはないのですが。結構のほほんと生きていますが……」


「と思っているのはお主だけで、周りはハラハラしておるのじゃ。まぁ、軋轢というほどずれておる訳ではないので、今は良いがのう。いつかは歩み寄るが良い。片務的な関係はいつか崩壊するものじゃからな」


「分かりました。胸に留めます。国王陛下やロスティー様に関しては、徐々に意識を変えてもらう形でよろしいですか?」


「うむ。自由主義の萌芽が早く生まれるのはありがたいのじゃ。生活や法に緩衝が生まれれば、要らぬ摩擦も減るのでな。人格を尊重し、法に囚われずとも、関係性を構築し、永を生きる事が出来るのならば、それに越した事はない」


「慈しみつつも、毅然と生きよ……ですか?」


「慈しむのは表裏一体故な。他者を慈しまぬ者が自らを慈しむ事が出来る訳はない。その概念を自らが認識出来ぬのじゃからな。疑念は解けたかのう?」


「はい。許しを頂きましたので、少しずつ意識を変えていって頂けるように努力致します」


「お主には負担ばかりかけるのう……。返せぬ我らを恨みに思ってもよい。それでも尚、成したいように成すが良い。儂等は許したのじゃから」


「はは。大丈夫です。心の負担が一つ取れました。ありがとうございます」


「うむ。では、壮健でな」


 ディアニーヌがそう告げると、再度空間を割り砕き、虚空へと消えていく。それに合わせて、空気はまたうだるような暑さに戻り、徐々に人影が戻ってくる。

 うーむ、心理カウンセリングを神様にしてもらうとか、かなり贅沢な体験な気がする。さて、夕ご飯を食べて、明日の準備を進める事にしよう。そう思いながら家路を急ぐ事にした。

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