第680話 竜の許可とアーティファクト
「この大陸に住まう竜の主が『リザティア』の食生活をいたく気に入ったようです。竜は人に姿を変えられますので、現在領主館で人間の生活に慣れてもらっている状況です」
ふむ、そのままの状況を説明したら、ローディアヌスが固まった。ロスティーは苦笑しているし、ノーウェに至っては笑うのを隠している。
「何故……そのような状況になったかが気になるが……。報告は無かったと思うが……」
「つい先日の話です。私も報告を受け状況を確認に行ったところです。一旦、簡単な報告を父上に上げておりますが、危険性は低いので優先度は下げております」
ノーウェが笑いを収めて真面目な顔で告げる。
「報告はノーウェより受けておりますが、まだ鳩での情報程度なので、動いてはおりません。監視の任に就けられれば程度の話でしたが、私共を輸送する程度の能力はありますな」
ロスティーがノーウェの言葉を引継ぎ、続ける。
「そうか……。確かに、受け取りの日程を考えれば対応が早すぎるか……。実際、どの程度の速度で人員輸送が可能なのだ?」
「ロスティスカより四時間程で王都に到着可能です。竜一体で二人の移送が可能と考えて頂ければ幸いです」
私が告げると、ローディアヌスが絶句する。
「北の果てより四時間か……。今までの考え方が根本よりひっくり返りそうだが……。竜を多数雇うと言う事は出来ないのか? 金で済む話であれば、予算は付けるが……」
「あくまで友誼による付き合いです。竜は神の代行業務もあるそうです。神自体が必ずしも人間のみに恩恵を与えていない事を考えれば、それは難しいかと考えます」
そう告げると、若干残念そうな色を浮かべるローディアヌス。
「そうか……そうか。いや、そのような戦力が『リザティア』に存在する事が判明しただけでもありがたい事か。数体とは言え、竜がワラニカの味方である事は救いであろう……。最低限の会話が可能であれば、敵対するつもりがない事を伝える事は出来ようて……。しかし……」
そこで、やや沈痛な面持ちに変わる。
「やっかみは出るであろうな……。その速度で情報を流通させるとなれば、今までの常識が覆りかねない。情報の行き来だけを考えても、大きな力だろう……」
ローディアヌスが難しい顔をしているが、『念話』の事を言うと、ややこしくなりそうなので、言わない。そこまで伝えたら、王都に縛り付けられそうな気がする。ノーウェも何も言わないので、黙っておく事にする。
「ワラニカの賓客として迎えるのは難しいか?」
「はい。人間、それも特定の国家というのは難しいかと。あくまで個人の友誼による関係ですので」
「はぁぁ……。これは……。叔父上、隠し通すのは容易ならぬ事かと考えるが……」
「別に全てを晒す必要は無いかと。新しい町に竜が興味を示した。それで何体かを試験的に生活に加わらせている。その程度の情報で良いでしょう。ワラニカに危害を加える気がない事、少数のため影響は小さい事、この二点がローディアヌス様より示されれば、それ程の問題としては受け取りますまい」
ロスティーが影響を過少に伝えてくれるが、詳細を伝えたらまた一悶着ありそうかな……。ロスティーの事だから、ノーウェと三者で握っちゃうかな。
「分かった。乗ってきたという話なので、現場を見た人間もいよう。王都内に関しては、話を広めておく。その上で何か言ってくるようであれば、こちらで対処する」
ローディアヌスの言葉で、取り敢えずは竜に関して、ワラニカ内で一緒に生活する事に問題は無くなった。
「あぁ、ロスティー様とお話しようと思っていましたが……。国の今後に関わる事なので、ここでお話してしまいましょうか」
ついでとばかりに、荷物から箱を取り出し、ロスティーに渡す。
「これは?」
「先日、ダンジョンより手に入れた物です。出来れば、ロスティー様とペルティア様に使って欲しいと考えております」
箱を開けると、時計型のアーティファクトが二つ。
「ん……? 若返りのアーティファクトかい? って……十年……!?」
ノーウェが手に取って、説明書きを読んだ途端、顔を強張らせる。その言葉にローディアヌスとロスティーも驚愕の色を浮かべる。
「ふむ……間違いなく、十年だな」
「十年物のアーティファクトなど、早々出てくるものではないが……。それが二つも? 叔父上の孫は何者なのだ……」
「その辺りの謎は追々ですね。現状ある程度落ち着いているワラニカの体制はこのまま維持した方が良いかと考えます。その為にはロスティー様の統率は不可欠。そう考えると、ノーウェ様が地盤を引き継げるだけの期間をゆっくりと持てる事の利益を選んだ方が良いかと考えました」
そう告げると、三者より苦笑で見返される。あれ?
「そうか、君、オークションに参加した事が無いよね……。十年物になれば、想像を超える金額になる。それをポンと二つも出してくるので驚いたよ」
「子爵の身で、国の今後を見てもらうのはありがたいのだが……。個人の金額でどうこうなる物ではない代物を二つもか……」
「儂一人では呑まぬと考えて、二つか?」
「はい。ペルティア様とご一緒ならばと。ご長男とは大分年が近付くかと思いますが……」
そう告げると、ロスティーが考え込む。
「分かった。対価は考える。ペルティアと相談次第だな。そろそろ引退して今後の生き方を考えるかと話をしておったのでな。それが十年延びると知れば、ふふ、何を言われるかは分らんな」
少しだけ目じりを下げながら、ロスティーが告げる。
「では、所用もあるので、話はここまでとする。各員はそれぞれの行いに邁進せよ。今後の体制が安定しそうというのは朗報であった。アキヒロには別途褒美を与える。アーティファクト二つに関しては、王家が永の忠勤への感謝の気持ちという形でロスティーに渡す。その対価くらいは王家で見よう」
「ありがとうございます」
その言葉で、会談の終わりと相成った。




